乳房炎について学ぶ【第2回】マイコプラズマ性乳房炎  〜農場を守るために何をするか?〜

乳房炎について学ぶ【第2回】マイコプラズマ性乳房炎  〜農場を守るために何をするか?〜

2008年頃から日本国内において報告されはじめた「マイコプラズマ性乳房炎」。
「乳房炎について学ぶ」第2回はマイコプラズマ性乳房炎の症状はどのようなもので、どのようにして治療を行うか、また農場内での感染拡大の阻止に必要なことについて解説していきます。

はじめに

一般的に乳房炎は大腸菌、黄色ブドウ球菌、CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)、OS(環境性連鎖球菌)等によって引き起こされる病気で、乳量や乳質の低下により農場に大きな経済損失を与えます。
これらの問題を解決するため、正しい搾乳手順の励行や飼養衛生および環境衛生の管理徹底により、日本では安定的な高品質乳の生産が続けられてきました。
そうした中、2008年頃から日本国内において新しいタイプの乳房炎が報告されはじめ、酪農産業界に激震が走りました。
それが今回ご説明する「マイコプラズマ性乳房炎」です。
当時は大規模農場での発生が主であり、農場内の感染率が50%を超え廃業に追い込まれる事例も少なくありませんでした。2000年代に入り、なぜマイコプラズマ性乳房炎が日本を含め世界各国で急増したのか、その理由には諸説ありますが、残念ながら全容解明には至っていません。

マイコプラズマ性乳房炎はどのような症状?

マイコプラズマ性乳房炎の原因微生物は病名の通り「マイコプラズマ」という細菌です。細菌の中では最も小さく、ウイルスに似た性質もあります。親牛では主に乳房炎しか起こしませんが、子牛では肺炎、中耳炎および関節炎の原因となります。マイコプラズマ性乳房炎の大きな特徴は急激な乳量の減少や、泌乳停止です(図1)。
通常の乳房炎と異なり、感染の数日後にこれらの症状が現れることもあります。最初は1分房から始まりますが、これが前後の乳房に広がり、さらに時間が経つと左右へと広がります。
数日で乳房全体へと波及します。こうした個体が農場に散見された時はマイコプラズマ性乳房炎を疑わなければなりません。
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マイコプラズマはどこから来るか?

さて、このマイコプラズマはどこから来るのでしょうか?経路は二つです。
まず一つ目の経路は「ウシによって持ち込まれる経路」です。その農場で初めて分娩する牛は要注意です。これは市場から導入した牛(初産および経産牛)だけでなく、自家産(初産)も含まれます。搾乳をしたことがなくても、子牛の頃に鼻から入ったマイコプラズマが乳腺に移動し、分娩のストレス等で乳房炎が発症すると考えられています。
但し、子牛の頃にマイコプラズマに感染したからといって、全ての牛が乳房炎になるわけではありません。発症するのはその中の、ごく一部に限られます。
二つ目の経路は「人が持ち込む経路」です。子牛の管理をした後に手などを洗わず、また、汚れた作業着で搾乳作業をすると親牛に簡単に感染してしまいます。健康な子牛の鼻腔には、親牛に乳房炎を起こすマイコプラズマが住みついていることがあります。子牛にとっては肺炎の原因菌ですが、1歳齢くらいまでは比較的多くの健康子牛からも検出されます。このようにして、二つの経路によって持ち込まれたマイコプラズマはミルカーを介して短期間で牛群に感染が広がります。

マイコプラズマ性乳房炎の牛を見つけたらまず何をするか?

農場でマイコプラズマ性乳房炎が発生した場合 、最初にしなければならないことは「他の牛に感染を広げない」ということです。
そのための最も理想的な対応は「隔離」です。施設に余裕があれば、他の牛と接触することのない、別の畜舎(施設)で飼育することが良いでしょう。但し、そうした施設が無い場合は、ロープやコンパネで簡易の仕切りを作るだけでも一定の効果があります。ホスピタルエリアを有する農場でも、他の疾患牛とは接触しないように管理することが重要です。マイコプラズマは他の乳房炎よりも遥かに短期間で農場内に広がります。その理由として、マイコプラズマは病気を起こす力が非常に強いことと、体の中での増殖スピードがとても早い事などが考えられています。

マイコプラズマ性乳房炎の治療

マイコプラズマ性乳房炎を治療するかどうかは、マイコプラズマの種類、臨床症状および産次数に加え、酪農家さんから得られる生産情報等も考慮されます。
特にマイコプラズマ・ボビスという名前の菌が感染し、乳量が急激に低下するなどの症状がある場合は、乳量回復が困難であったり、再発の危険性も高くなります。この場合は、特別な理由がない限り、治療を断念するという判断がなされます。
基本的な治療は薬物療法であり、全身治療と乳房の局所治療を5日間程度実施します。一定期間、乳汁のマイコプラズマをモニターし、それらが確認されなくなったら元の牛群に戻します。群にもどした直後も万が一のことを想定し、搾乳順番を一番最後にします。
治療のメリットは元気になって生産に復することですが、治療期間中の管理が不十分だと同居牛にマイコプラズマの感染を広げてしまう可能性もあります。

農場内での感染拡大を阻止するために何をすれば良いか?

臨床症状からマイコプラズマ性乳房炎を早期に摘発することは、農場内の感染拡大を阻止するための第一歩と言えます。
次に重要になるのがバルクタンクスクリーニング検査(図2)です。定期的にバルクタンク乳のマイコプラズマ検査を行い、感染個体が牛群に潜んでいないかを調べます。発症個体がいれば 200〜300頭に1頭でも摘発できます。但し、感染直後のように、乳汁中の菌数が少ない場合は検出できないこともあります。
次に分娩後検査です。対象はその農場で初めて搾乳する個体です。具体的には市場導入牛(初産・経産)と自家産(初産)です。搾乳牛として飼養歴のあるものは、症状などが無い限り検査の対象にはしません。
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おわりに

本稿ではマイコプラズマ性乳房炎の概要についてご紹介致しました。
マイコプラズマ性乳房炎を経験した酪農家さんがおっしゃるのは、「この乳房炎は最初に見つけ時にとても違和感があった」、「何が違うかはわからないが、これまでの乳房炎と何かが違うという感覚は強くあった」ということです。
普段から自分の農場の牛を良く観察している農家さんにとって、マイコプラズマ性乳房炎は少し違和感を感じる病気のようです。日常的な個体の観察と、バルクタンクスクリーニングの継続的な検査はマイコプラズマ性乳房炎の被害を最小限に食い止めるための第一歩と言えます。

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