背景
養豚場においてアフリカ豚熱が発生した場合、欧州連合(EU)の法律では、発生地点の周辺に制限区域(restricted zone)を設定することが義務付けられている。制限区域には、半径3km以上の防護区域(protection zone)および半径10km以上の監視区域(surveillance zone)が必要とされる。制限区域の主な目的は、アフリカ豚熱のさらなる発生を検知して、その拡大を食い止めることである。
調査の目的
我々は、バルト諸国における制限区域の有効性および必要性を評価するため、防護区域・監視区域の内外における二次発生、および疫学調査や積極的サーベイランスなどについて集計した。
二次発生とは一次発生と疫学的に関連のある発生のことであり、一次発生とは過去に起きたいずれの発生とも疫学的な関連がない発生のことである。
二次発生とは一次発生と疫学的に関連のある発生のことであり、一次発生とは過去に起きたいずれの発生とも疫学的な関連がない発生のことである。
結果
バルト諸国では2014~2023年の間に、飼養豚において合計272件のアフリカ豚熱の発生が確認された。このうち、263件(96.7%)が一次発生、9件(3.3%)が二次発生であった(表1)。二次発生のうち8件は疫学調査(epidemiological enquiry)、1件は受動的サーベイランスにより検出された。
ここでいう疫学調査とは、アフリカ豚熱が発生した農家に対して法的に義務付けられている調査のことであり、その目的はアフリカ豚熱ウイルスがその農場にいつ、どのようにして侵入したかを明らかにすること、また同ウイルスが拡散した可能性のある接触農場について情報を得ることである。
ここでいう疫学調査とは、アフリカ豚熱が発生した農家に対して法的に義務付けられている調査のことであり、その目的はアフリカ豚熱ウイルスがその農場にいつ、どのようにして侵入したかを明らかにすること、また同ウイルスが拡散した可能性のある接触農場について情報を得ることである。
表1 2014~2023年のバルト諸国におけるアフリカ豚熱発生件数の概要。
疫学調査によって検出された8件の二次発生のうち、6件は防護区域内、1件は監視区域内、1件は制限区域外であった(図1、2)。
したがって、制限区域の内外を問わず、二次発生を検出する手段として疫学調査が最も効果的であった一方、積極的サーベイランス(active surveillance)は1件も検出できず効果的ではなかった。
積極的サーベイランスとは、制限区域内の農場において管轄当局が法的に義務付けられた監視活動であり、臨床検査や検査室での分析を目的としたサンプル採取などが含まれる。
したがって、制限区域の内外を問わず、二次発生を検出する手段として疫学調査が最も効果的であった一方、積極的サーベイランス(active surveillance)は1件も検出できず効果的ではなかった。
積極的サーベイランスとは、制限区域内の農場において管轄当局が法的に義務付けられた監視活動であり、臨床検査や検査室での分析を目的としたサンプル採取などが含まれる。
図1 2014~2023年のバルト諸国におけるアフリカ豚熱の二次発生の検出方法(A:疫学調査による検出、B:受動的サーベイランスによる検出)。
図2 2014~2023年にバルト諸国で発生したアフリカ豚熱二次発生農場からそれぞれ疫学的に関連した一次発生農場までの距離。
結論
アフリカ豚熱はEUにおいて、もはや発生頻度の低い外来病ではないため、「カテゴリーB*」に分類を変更してもよいと考えられる。そのような変更を行うことができれば、設定される制限区域の大きさなどに関して、より柔軟かつ「オーダーメイド」の制御対策が可能になるだろう。
*訳注:現状、EUにおいてアフリカ豚熱は「カテゴリーA」に分類されている。カテゴリーAに含まれる疾病の定義は、「EU域内において通常発生しておらず、検出され次第ただちに根絶させるための措置が講じられなければならない疾病」である。一方、カテゴリーBに含まれる疾病の定義は、「EU全域での根絶を目指し、すべての加盟国において制御が義務付けられている疾病」である。
*訳注:現状、EUにおいてアフリカ豚熱は「カテゴリーA」に分類されている。カテゴリーAに含まれる疾病の定義は、「EU域内において通常発生しておらず、検出され次第ただちに根絶させるための措置が講じられなければならない疾病」である。一方、カテゴリーBに含まれる疾病の定義は、「EU全域での根絶を目指し、すべての加盟国において制御が義務付けられている疾病」である。
キーワード:制限区域、防護区域、監視区域、一次発生、二次発生
監訳者コメント
本論文では、EU諸国がアフリカ豚熱を豚熱と同じ「カテゴリーA」に分類し、制限区域の設定において発生農場からの距離を同様に扱っている現状に対し、再考を促している。感染力の面でアフリカ豚熱は豚熱よりも弱く、ほとんどの二次発生が一次発生農場の半径1km以内で起こっていること、またすでにアフリカ豚熱はEU域内にまん延していることから、「カテゴリーB」に変更することを提案している。
日本でも両疾病がセットで語られることが多いが、性質の異なる2つの疾病に対しては防疫戦略も分けて考えるべきであるという本論文のメッセージは、現在アフリカ豚熱を水際対策で食い止めている日本にとって、関係者が耳を傾けるべき重要な示唆である。今のうちに、両疾病に対してどのような異なる戦略を講じるべきかについて、より積極的な議論と準備が求められる。
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(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)
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