伏見康生先生に聞く!「子牛のクリプトスポリジウム症」 第2回 ー症状・治療についてー

株式会社Guardianの伏見康生先生に「子牛のクリプトスポリジウム症」についてお聞きする連載記事です。
第1回では、クリプトスポリジウム症の被害についてお聞きしました。
第2回では、クリプトスポリジウム症の症状と治療についてお話していただきます。

ご紹介

講師:伏見康生
株式会社Guardian 代表取締役
獣医師 博士(獣医学)
日本全国で牛の栄養面・環境面・疾病対策面へのトータルコンサルタントとして活躍し、クライアント農場の総飼育頭数は10万頭超に及ぶ。
その他にも、繁殖診療、医療機器の開発、講演や執筆など活動は多岐にわたる。

インタビュアー:田島優
共立製薬株式会社 PA埼玉営業所 所長
関東甲信エリアの養牛・養豚・養鶏を管轄している。
最近の趣味は岩盤浴。

お話の前に

クリプトスポリジウム症:
① 症状は、黄色の水溶性下痢、脱水・体重減少・食欲不振などで、発育不良になる場合もある。
② 下痢は発症後、数日間~10日間程度続くが、多くは徐々に回復する。
③ 原虫であるため、抗菌薬は無効である。

症状について

田島
重症化してしまった場合、栄養不良や脱水症状によって死亡する例も多いと聞きます。
どのような子牛が重症化しやすいですか?

伏見
発症時の重症度は、新生子牛の虚弱性と相関します。
「強い子を産ませましょう」とはよく言われることですが、「強い子」は生時体重大きく、首や背幅があり、がっしりとした体型で、胸腺が大きい傾向にあります。
生時体重と哺乳量は相関し、胸腺サイズと免疫の強さもまた同様です。
【弱い子牛】は、初乳摂取量も少ない・栄養も不足・免疫力も弱い状態のため、【弱い子牛】が多い農場では、重症化する割合が大きいです。
例えば、同じぐらいの汚染度の農場でも【強い子牛】ならば、発症後2~4日で回復しますが、【弱い子牛】は重症化し、1~2週間経過しても回復しないこともあります。
つまり、新生子牛の強さが重症度に影響し、戦う前から結果はおおむね見えている状態なのです。

図1 発症時の重症度は、新生子牛の虚弱性と相関する

田島
子牛の下痢症は、ロタウイルスやサルモネラ、コクシジウムなど様々な病原体が原因で起こります。
当社で家畜衛生情報の発生頭数をまとめてみた結果、下痢症全体における複合感染の割合は9.2%でしたが、クリプトスポリジウムが関与する下痢症では43.8%でした。(図2)
クリプトスポリジウム症と他病原体の関連性について教えてください。
伏見
クリプトスポリジウム単体では、それほど病原性は強くないと考えています。
しかし、粘膜傷害性を持つ病原体(ロタウイルスなど)が複合感染すると、ただの吸収不良性下痢から漏出性下痢に悪化します。
たとえば、ロタウイルスなどと複合感染することで、重症化が助長されます。

図2 下痢症全体とクリプトスポリジウムが関与する下痢症における単独感染・複合感染

出典:「監視伝染病以外の疾病の発生状況(農林水産省)」 https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/kansi_densen/kanren_zyouhou.html

田島
「クリプトスポリジウム症が発生している」と農場から相談を受けた際、どのようなところを確認しますか?

伏見
生後2週間以内の下痢が「漏出性下痢」か「消化不良性下痢」かを判断します。
見た目で判断するならば、溶き卵のように白と黄色と透明な部分が混在している下痢(図3の①)は漏出性下痢と考えます。この場合、子牛へのダメージが大きい下痢です。
一方で、ホットケーキミックスのように均一に黄色い下痢(図3の②)は多くは消化不良性下痢と考えます。この場合、比較的治りやすい下痢です。
そして、溶き卵のような下痢(漏出性下痢)がみられる場合は、クリプトスポリジウムかロタウイルスが関与していると考えて、検査をします。

図3 子牛の下痢の見分け方

via 提供:株式会社Guardian

治療について

田島
残念ながら、【クリプトスポリジウム症の治療】の効能効果がある治療薬は市販されていません。
しかし、現場では、発症した子牛に対して木酢酸粉末・鶏卵粉末混合飼料 ・生菌剤を使っている場合があります。
これらの製品をどのように活用されていますか?

伏見
まず、全身症状として脱水・虚脱・体熱の消失・イオンバランスの不均衡が起きていますので、輸液による水分・電解質・栄養の補給を実施します。
脱水状態の見分け方としておすすめなのは、唇をめくって歯茎の潤い(=水分が多く、よだれが泡立っているか、あるいはネバっこく乾燥気味であるか)で判断する方法です。
正常な子牛はあふれるほどの水分の多いよだれと歯茎に泡がついています。
長距離走した後の口のように、よだれに水分が少なくネバネバしている場合には脱水状態であると考えてください。(図4:写真は鼻鏡の乾燥にも注目)

図4 脱水症状の見分け方

via 提供:株式会社Guardian
静脈輸液や経口補液などの実施に加えて、農場で経口投与する薬剤や混合飼料は大きく4つの種類があります。
1つ目が生菌剤
2つ目が止瀉薬(=下痢を抑えるため)
3つ目が吸着剤(木酢酸粉末)
4つ目が鶏卵粉末混合飼料
症状と見合わせながら、これらを組み合わせて使うことが望ましいです。
生菌剤と止瀉薬は消化不良性下痢など様々な下痢に対して使用するかと思いますが、特に感染性の下痢症の場合には、木酢酸粉末と鶏卵粉末混合飼料の給与が望ましいです。

田島
4種類すべてを使うことが望ましいとのことですが、使用するタイミングについても教えてください。

伏見
現時点でクリプトスポリジウムやロタウイルスによる被害がある農場では、子牛に症状が出てから治療するのではなく、先手を打って対応することが好ましいです。
そのため、症状の有無に関わらず、発症しやすい生後2週間は鶏卵粉末混合飼料・生菌剤の予防的給与をおすすめします。

田島
ここまで、治療方法について教えていただきました。
クリプトスポリジウム症の治療について難しいと思う部分は何でしょうか?

伏見
できることが対症療法である点だと思います。
他の病原体は、有効な治療薬を投与することで、明らかな症状の改善がみられますが、クリプトスポリジウムはそうはいきません。
子牛自身の免疫でクリプトスポリジウムを排除してもらう必要があるので、対症療法で子牛を弱らせないことが重要です。
第3回では、クリプトスポリジウム症の予防対策について、お聞きします。
次回もお楽しみに。



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