殺鼠剤メーカーのプロが教える! 生態から考えるネズミ対策 vol.2

みなさんの農場ではネズミを見かけることはありますか?ネズミは病原体を媒介したり、畜鶏舎の構造物を損傷する、衛生的にも経済的にも百害あって一利なしの存在です。
この連載では複数回にわたり、ネズミの生態と対策方法についてご紹介します。Vol.2はネズミ駆除の基本と具体的な対策についてです。

ネズミ駆除の3原則について

ネズミ駆除の「キホンのキ」とは

ネズミ駆除の「キホンのキ」は、「ネズミ駆除の3原則」です。それは、
① ネズミに餌を与えない
② ネズミを侵入させない
③ ネズミに巣を作らせない

というものです。

一般家庭などのネズミ対策ではこの3原則を徹底することにより、ほとんど問題が解決するのですが、実は、畜鶏舎ではこの3原則が通用しないのです。その結果ネズミ駆除が非常に困難なものとなっています。
 一般家庭で考えると、「① 餌を与えない」とは食べ物を食卓に出したままにしない、生ゴミを蓋付きの容器に片付ける、等に当たります。しかし畜鶏舎では常時家畜の飼料がありますので、ネズミは餌に不自由しないことになります。
 また、「② 侵入させない」とは、一般家庭ではパテや金網などでネズミの出入り口を塞ぐということです。しかし畜鶏舎の場合、ネズミの侵入口をすべて完全に塞ぐことはほぼ不可能です。ウインドレス構造であっても排水設備や糞尿処理設備を通ってネズミが侵入することがあります。ドブネズミの場合、畜鶏舎の床面に土が露出している部分があると、トンネルを掘って外部から侵入できてしまいます。
 また、「③ 巣を作らせない」とは、一般家庭では室内や押し入れの中などをこまめに清掃・整理整頓する、ということになります。ネズミは散らかった環境を好むのです。畜鶏舎においても、もちろん衛生管理や清掃作業が行なわれていますが、家畜の飼育という性質上、残渣や羽毛、敷き藁などが存在し、それらがネズミの巣材となってしまいます。
 しかしながら、この3原則を常に踏まえ、応用・発展させることで効果的なネズミ対策を行うことができるのです。畜鶏舎の場合、ネズミ駆除の3原則を当てはめると次のようになります。

餌を与えない

 飼料がなくなるタイミングである、オールアウト時に殺鼠剤を使用します。ネズミは食べるものが無くなるので殺鼠剤を喫食するようになり、飼料がある時よりも殺鼠剤の効果が高く現れます。また、給餌ラインのネズミが寄り付きやすい箇所に金属板や金網で蓋をすることも、ネズミに餌を与えない工夫です(写真1)。

侵入させない

 パイプと壁の隙間を埋める、壁や天井・通風口を金網で覆う、などの防鼠工事は有効な手段です(写真2)。金網は目の一辺が1cmほどのものが最適で、それより目が大きいと小型のネズミやクマネズミの幼獣が侵入してしまいます。侵入防止のため、定期的に畜舎外周や餌タンク周辺に防水型殺鼠剤を配置するのも効果的です(写真3)。

巣を作らせない

 長い間使用せずに置いてある容器・器具類・資材・ゴミなどを片付けましょう。積みっぱなし・置きっぱなしはネズミが棲み付きやすい環境を作ってしまいます(写真4、5)。こまめな整理整頓・清掃をすることで異変に気が付きやすくなります。また、Vol.1でも触れましたが、畜鶏舎を新築される場合はネズミの棲み付きにくい構造を目指していただきたいと思います。

 このネズミ駆除の3原則を念頭に置いて畜鶏舎内を点検し、ネズミ対策に取り組んでみてください。必ずヒントがあるはずです。

ネズミ駆除(防除)にはどのような手段があるか

 ネズミ駆除(防除)には大きく分けて3つの手段があります。1.環境的防除、2.物理的防除、3.化学的防除 です。実際のネズミ防除では、この3つの方法をうまく組み合わせて行なうことになります。

環境的防除

 駆除の3原則でも述べましたが、ネズミの棲み付きにくい環境を整えることです。まずはこれがネズミ駆除の第一歩です。以下に述べる粘着板や殺鼠剤でどんなにネズミの生息数を減らしても、ネズミが棲み付きやすい環境が改善されていなければ、再びネズミが増えて元の発生状況に戻ってしまいます。整理整頓・片付け・清掃・修繕といった作業を、ネズミ防除の視点で行なってみてください。また、防鼠ブラシ(写真6)などの防鼠器具の使用も環境的防除に当たります。市販の金属タワシでも小さな穴であれば埋めることができます。またネズミの忌避成分を配合した防鼠パテも販売されています。

物理的防除

 粘着板や捕獲カゴ、トラップといった、道具を使った駆除です。ネズミの習性を理解して、ネズミの行動経路にこれらを配置しましょう。Vol.1でも述べましたが、隙間や物陰、壁際などがネズミの行動経路です。粘着板を使用することで死鼠の回収が容易になりますが、粘着板はホコリの多い環境には向きません。また、捕獲カゴでは餌に何を使うかが課題となります。サツマイモやさつま揚げ、ソーセージなどが一般的ですが、乾いたり、逆にカビたりして、すぐに誘因効果が減少してしまいます。当社からはブロックタイプの無毒餌が販売されています(写真7、8)。パラフィンを使用してネズミの好む種子などを固形化してありますので、劣化しにくく、水にも強いです。クマネズミはかなり警戒心が強いため、これらの器具で捕獲されにくいことがあります。1~2週間配置して効果が無いようであれば配置箇所を変更することをおすすめします。

化学的防除

 殺鼠剤を使用した防除です。殺鼠剤はネズミが摂取して初めて効果を発揮しますので、「如何に食べさせるか」が課題となります。
 殺鼠剤には人間の住環境などで使用する「防除用医薬部外品」、農地などで使用する「農薬」、そして畜鶏舎で使用する「動物用医薬部外品」がありますので、配置する場所に応じて適切なものをご使用ください。また、殺鼠剤の形状は粉剤、粒剤、ブロック剤とさまざまです。そして殺鼠剤の効果の発現の仕方には、大きく分けて急性毒タイプのものと慢性毒タイプのものがあります。
 Vol.3、Vol.4では、化学的防除の方法、つまり殺鼠剤の使用方法や種類についてより詳しく見てまいりましょう。
次回Vol.3では殺鼠剤の種類、Vol.4では効果的な殺鼠剤の使用方法をご紹介いたします。