殺鼠剤メーカーのプロが教える! 生態から考えるネズミ対策 vol.1

殺鼠剤メーカーのプロが教える! 生態から考えるネズミ対策 vol.1

みなさんの農場ではネズミを見かけることはありますか?ネズミは病原体を媒介したり、畜鶏舎の構造物を損傷する、衛生的にも経済的にも百害あって一利なしの存在です。
この連載では複数回にわたり、ネズミの生態と対策方法についてご紹介します。

畜産現場で問題になるネズミの種類

 畜産現場で問題になるネズミは、ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミの3種類です。
いずれも畜鶏舎に侵入すれば大量に繁殖し、大きな被害をもたらします。互いに見た目がよく似ているこれらのネズミですが、それぞれに特徴があり、性格や行動が違います。ネズミの種類を見分けることで、効果的なネズミ対策を行うことができるのです。では、今回はそんなネズミの生態について、種類ごとに見ていきましょう。
・ドブネズミ
 成獣で体長が22~26cmと、今回ご紹介する中では最も大型のネズミで、体重は500gを超えることもあります。一般的に性格は獰猛(どうもう)、捕獲されるとギーギーと鳴いて威嚇します。見た目はクマネズミと似ていますが、クマネズミより耳が小さめで、尾は体長より短いです(写真1)。畜舎内外の地面に直径8cmほどの穴をいくつも掘って巣にします(写真2)。湿った環境を好み、泳ぎも得意です。雑食で、家畜の飼料はもちろん、人間の残した残飯や、昆虫なども食べます。クマネズミと比べると殺鼠剤を警戒なく喫食し、捕獲カゴにもかかり易いです。しかし体格が大きく力も強いので、粘着板を使って捕獲しても逃げてしまうことがあり、粘着板を使った捕獲には向かないかもしれません。
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・クマネズミ
 成獣で15~23cmと、ドブネズミと比べるとやや小さく、体つきもスマートです(写真3)。ドブネズミと違い、前肢の甲に茶色の毛があります。天井裏や梁などの高い場所、乾いた環境を好みます。運動能力が高く、垂直な柱も上下方向に移動することができ、電線や配水管を綱渡りします。警戒心が非常に強く、配置した毒餌やトラップには1週間以上近づかないことが多いです。そうです、駆除が最も難しいのがこのクマネズミです。
 家畜の体毛やかじった建材、敷きワラなどを集めて非常に簡単な巣を作ります(写真4、5)。使用していないプラスチック製のタンクや段ボールの中、壁と壁の隙間、紙袋や資材を長期間積んである場所などは、巣を作りやすい環境になっていますので、これらのものを片付けるだけで、かなりの防鼠対策になります。
 畜舎の構造もクマネズミを住み着かせやすくしている原因の一つと言えます。畜舎を建設する場合は、以下のことをご勘案ください。
 ・鉄骨の交差部分に隙間を作らない
 ・C形鋼の解放部を下向きにして、C形鋼の内側で移動したり隠れたりできないようにする(写真6)
 ・空洞のある鉄骨は中にネズミが入れないように蓋をする
 ・天井裏を作らない
 ・壁と壁の隙間をつくらない
などです。また、クマネズミが好む隙間の高さは5cmであることが知られています。
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・ハツカネズミ
 体長6~9cmの小型のネズミです(写真7)。農耕地や河川敷に生息しており、冬に気温が下がると畜舎に侵入することがあります。トンネルを掘るのが得意で、倉庫や天井裏などにも棲み着きます。養鶏場で、堆積した糞の中にトンネルを掘って棲みついた、という事例を聞いたことがあります。ドブネズミ、クマネズミと比べて警戒心が弱く、比較的駆除しやすい種類です。
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これらのネズミ共通の性質

共通した性質として、ものをかじる、高い繁殖能力、夜行性、隅行性、侵入能力、そして薬剤抵抗性について見てみたいと思います。

ものをかじる:ネズミの前歯は一生伸び続けます。それが理由なのか、餌を食べたり、進入路を開けたりということ以外にも、ただかじっているだけ、ということもあります。断熱ウレタンや電気配線のビニール被膜、木材や給水ラインなどがかじられることはよくあり、施設の損傷や停電、火災にさえつながります(写真8)。これらの材質は餌とはなりませんが、恐らくかじっていて楽しいのではないでしょうか。金属では、アルミや鉄はかじられてしまいますがステンレスはネズミの歯より硬く、かじられても穴が開きません。
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高い繁殖力:
出産回数は年5~6回といわれ、一回に4~12匹を出産します。秋と春の繁殖が一般的ですが、ウインドレス畜舎の場合は年間を通して繁殖します。
なんと、出産した親はその後すぐに妊娠可能です。そして生まれた子ネズミは約1か月で性成熟し、交尾すると20日前後の妊娠期間を経て、またネズミが生まれます。生まれたネズミがすべて死ぬことなく繁殖を続ければ、世界はすぐにネズミで覆われてしまうでしょう。

夜行性:
日中はネズミを目撃することがなくても、暗視カメラを設置してみると、夜間に驚くほどネズミが活動していることがあります。夕方6時~夜9時の活動が多く、深夜、早朝にもよく活動します。

隅行性:
顔に生えている髭を壁や床に当てて自分の位置を確かめながら行動するので、建物の隅を移動することが多いです。視力はあまりよくなく、髭の感覚で行動しているようです。このことを踏まえて、殺鼠剤やトラップを配置する際には、壁際や隙間を狙うのが効果的です。

侵入能力:
まさか侵入できないだろうと思うような環境でも、ネズミの侵入能力を侮ることはできません。侵入防止の金網が重なった継ぎ目からクマネズミの幼獣が侵入するのを見て、目を疑ったことがあります。1.5㎝の隙間があれば、小型のネズミは侵入してしまいます。
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薬剤抵抗性について:
すべての個体ではありませんが、殺鼠剤の抗凝血性剤(ワルファリン製剤)に対して抵抗性が生じることがあります。日本ではクマネズミが問題となっており、海外ではドブネズミ、ハツカネズミの抵抗性個体が確認されています。
 今回はネズミの生態について見てまいりました。実に手ごわい相手であることがお分かりいただけましたでしょうか。
 次回はいよいよ効果的なネズミ対策について考えてみたいと思います。