はじめに
ウェブ上で「カラス対策」と検索すると、実にさまざまな対策品が販売されていることがわかります。これらの対策品を使用したにもかかわらず、一時的な効果しか得られず、残念な思いをされた方も多いのではないでしょうか。
なぜ、これらの対策品は長期的な効果が得られないのでしょうか。それは、多くの対策品が、カラスの生理・生態を誤解したまま開発されてきた経緯があるためです。また、使用する側においても、カラスに対する誤解があり、その結果として対策の効果が十分に発揮されない場合があります。
適切な対策を考えるためには、カラスを正しく理解することが重要です。そこで今回は、カラスの生理・生態を五感や賢さの観点から整理し、それを踏まえた既存の対策の効果について紹介します。
なぜ、これらの対策品は長期的な効果が得られないのでしょうか。それは、多くの対策品が、カラスの生理・生態を誤解したまま開発されてきた経緯があるためです。また、使用する側においても、カラスに対する誤解があり、その結果として対策の効果が十分に発揮されない場合があります。
適切な対策を考えるためには、カラスを正しく理解することが重要です。そこで今回は、カラスの生理・生態を五感や賢さの観点から整理し、それを踏まえた既存の対策の効果について紹介します。
嗅覚・味覚と忌避剤
まずはカラスの嗅覚についてです。イヌやネコに対する印象から、ヒト以外の動物は嗅覚が鋭いと思われがちですが、カラスの嗅覚は鈍いことがわかっています。嗅覚を司る脳の部位である嗅球は、カラスでは痕跡程度しかありません(図1)。
図1. カラスとカモの嗅球
赤い点線で囲った部分が嗅球です。カモは嗅球を確認できますが、カラスはほぼ確認できません。
行動実験の一例として、飼育下のカラスを用い、匂いだけを手がかりに餌を探させる実験があります。その結果、カラスが正解を選ぶ割合は約50%で、当てずっぽうで選んだ場合とほぼ変わりませんでした。これらの知見から、カラスは餌探しにおいて嗅覚にあまり頼っていないと考えられます。
次に味覚です。動物の口腔内には、味を感じる味蕾というセンサーがあります。味蕾の数は、ヒトでは約9,000個あるのに対し、カラスでは約500個とされ、ヒトの20分の1程度しかありません。このことから、ヒトと比べると味覚も鈍いと考えられます。しかし、カラスにも食べ物の好みはあり、栄養価の高いものを選ぶ傾向があります。畜産現場では、飼料に含まれるトウモロコシや、糞に集まる昆虫などを好んで食べます。また、脂質への嗜好性が高いことも重要な特徴です。油脂添加飼料や斃死家畜の皮下脂肪などは、カラスにとって特に魅力的な食資源と言えるでしょう。
野生鳥獣対策として、嗅覚や味覚を刺激する忌避剤は数多く存在し、動物種によっては効果が確認されているものもあります。しかし、これらのカラスの特性を踏まえると、嗅覚や味覚に働きかける忌避剤のカラスに対する効果は、ほとんど期待できないと考えられます。
次に味覚です。動物の口腔内には、味を感じる味蕾というセンサーがあります。味蕾の数は、ヒトでは約9,000個あるのに対し、カラスでは約500個とされ、ヒトの20分の1程度しかありません。このことから、ヒトと比べると味覚も鈍いと考えられます。しかし、カラスにも食べ物の好みはあり、栄養価の高いものを選ぶ傾向があります。畜産現場では、飼料に含まれるトウモロコシや、糞に集まる昆虫などを好んで食べます。また、脂質への嗜好性が高いことも重要な特徴です。油脂添加飼料や斃死家畜の皮下脂肪などは、カラスにとって特に魅力的な食資源と言えるでしょう。
野生鳥獣対策として、嗅覚や味覚を刺激する忌避剤は数多く存在し、動物種によっては効果が確認されているものもあります。しかし、これらのカラスの特性を踏まえると、嗅覚や味覚に働きかける忌避剤のカラスに対する効果は、ほとんど期待できないと考えられます。
視覚と光刺激
カラスは非常に視覚が優れた鳥です。網膜の視細胞数が多く、高い分解能で周囲の状況を把握していると考えられています。畜舎内のわずかな飼料のこぼれなどに気づくのも、この視覚の鋭さによるものです。
また、色覚が特に優れています。ヒトが赤・緑・青の3原色で色を見ているのに対し、カラスはそれに加えて紫外線を感じ取ることができる4原色型の色覚をもっています。紫外線はヒトの目には見えませんが、カラスにとっては立派な「色」のひとつです。そのため、ヒトには同じ色に見える物でも、カラスには異なって見えている可能性があり、より多くの色情報を含んだ世界を見ていると考えられます。
この特徴を利用し、紫外線を反射することでカラスを忌避させるとされる対策品もあります。しかし、紫外線を認識できることと、それを嫌がることは別の話です。もし紫外線そのものを嫌がるのであれば、紫外線を強く反射する雪面には近づかないはずです。しかし実際には、雪上で採餌するカラスは雪国ではごく普通に観察されます(図2)。このことから、単に紫外線を反射させるだけでは、カラスへの忌避効果は期待できないと考えられます。
また、色覚が特に優れています。ヒトが赤・緑・青の3原色で色を見ているのに対し、カラスはそれに加えて紫外線を感じ取ることができる4原色型の色覚をもっています。紫外線はヒトの目には見えませんが、カラスにとっては立派な「色」のひとつです。そのため、ヒトには同じ色に見える物でも、カラスには異なって見えている可能性があり、より多くの色情報を含んだ世界を見ていると考えられます。
この特徴を利用し、紫外線を反射することでカラスを忌避させるとされる対策品もあります。しかし、紫外線を認識できることと、それを嫌がることは別の話です。もし紫外線そのものを嫌がるのであれば、紫外線を強く反射する雪面には近づかないはずです。しかし実際には、雪上で採餌するカラスは雪国ではごく普通に観察されます(図2)。このことから、単に紫外線を反射させるだけでは、カラスへの忌避効果は期待できないと考えられます。
図2. 雪上で採餌するカラス
聴覚と音刺激
カラスの聴力はヒトと同程度と考えられていますが、可聴範囲はヒトより狭いことがわかっています。ヒトが約20kHzまでの音を認識できるのに対し、多くの鳥類では上限は7kHz程度とされています。20kHz以上の音は超音波と呼ばれ、超音波を用いた対策も存在します。しかし、カラス自身が超音波を認識できないことから、少なくとも超音波そのものを嫌がっているとは考えにくいでしょう。
また、人工音を再生する対策もあります。自然界ではあまり耳にしない音であるため、設置当初はカラスが用心して近づかなくなることがありますが、嫌がっているわけではないため、安全だと判断されると効果は失われます。
この他、猛禽の鳴き声や、カラスの断末魔のような鳴き声を再生する対策もあります。しかし、猛禽の姿がない状況で鳴き声だけが頻繁に聞こえるのは不自然であり、効果は長続きしません。カラスにとって一生のうちにほとんど耳にすることのない断末魔のような鳴き声が繰り返し聞こえる状況も、やがて違和感となり、効果がなくなります。
音声を使った対策では、現場の状況に合った音声パターンを用いることや、再生方法が重要となります。カラスにとって自然に聞こえる状況を作れるかどうかが、効果を左右します。その考え方を踏まえ、カラスの音声コミュニケーションを利用した対策の中には、長期的な効果が確認された例もあります。
また、人工音を再生する対策もあります。自然界ではあまり耳にしない音であるため、設置当初はカラスが用心して近づかなくなることがありますが、嫌がっているわけではないため、安全だと判断されると効果は失われます。
この他、猛禽の鳴き声や、カラスの断末魔のような鳴き声を再生する対策もあります。しかし、猛禽の姿がない状況で鳴き声だけが頻繁に聞こえるのは不自然であり、効果は長続きしません。カラスにとって一生のうちにほとんど耳にすることのない断末魔のような鳴き声が繰り返し聞こえる状況も、やがて違和感となり、効果がなくなります。
音声を使った対策では、現場の状況に合った音声パターンを用いることや、再生方法が重要となります。カラスにとって自然に聞こえる状況を作れるかどうかが、効果を左右します。その考え方を踏まえ、カラスの音声コミュニケーションを利用した対策の中には、長期的な効果が確認された例もあります。
触覚とテグス
カラスは飛行中、翼で微妙な空気の流れを感じ取っています。そのため、翼に物が触れることを嫌がります。この性質を利用した対策が、飛行経路にテグスを張る方法です。
テグスは適切に設置すれば高い効果を発揮しますが、緩んでいると効果が大きく低下します。実際に、設置初年度は被害を防げたものの、翌年には再び被害が出た例では、テグスの張りが緩んでいたことが原因でした。触れた際に圧を感じないと、カラスは次第に気にしなくなります。設置時には、十分なテンション(張り)を保つことが重要です(図3)。
テグスは適切に設置すれば高い効果を発揮しますが、緩んでいると効果が大きく低下します。実際に、設置初年度は被害を防げたものの、翌年には再び被害が出た例では、テグスの張りが緩んでいたことが原因でした。触れた際に圧を感じないと、カラスは次第に気にしなくなります。設置時には、十分なテンション(張り)を保つことが重要です(図3)。
図3.テグス設置イメージ
賢さとカカシ効果
カラスは非常に賢い鳥として知られています。カラスの脳でヒトの大脳に相当する部位は他の鳥類より発達しており、クルミを車に轢かせて割る行動や、公園で水道の蛇口をひねって水浴びをする行動なども観察されています。
この賢さが、対策を難しくしています。多くの対策品は設置直後には効果を示しますが、これはカラスが目新しい物や音に対して警戒し、一時的にその場を離れるためです。しかし、それ自体を嫌がっているわけではありません。危険がないと判断すると、カラスはすぐに警戒しなくなってしまいます。
私はこの一時的な効果を、伝統的な鳥獣害対策である「カカシ」になぞらえて「カカシ効果」と呼んでいます。このカカシ効果があるがゆえに、対策品の開発段階で「カラスが嫌がっている」と誤解されてしまうことがあります。対策品の開発業者も、実際にカラスに対し試験を行い、効果を確認した上で販売している場合がほとんどだと思います。しかし、それらの効果はカカシ効果であることが多く、それゆえに長期的な効果を発揮しにくいと考えられます。
この賢さが、対策を難しくしています。多くの対策品は設置直後には効果を示しますが、これはカラスが目新しい物や音に対して警戒し、一時的にその場を離れるためです。しかし、それ自体を嫌がっているわけではありません。危険がないと判断すると、カラスはすぐに警戒しなくなってしまいます。
私はこの一時的な効果を、伝統的な鳥獣害対策である「カカシ」になぞらえて「カカシ効果」と呼んでいます。このカカシ効果があるがゆえに、対策品の開発段階で「カラスが嫌がっている」と誤解されてしまうことがあります。対策品の開発業者も、実際にカラスに対し試験を行い、効果を確認した上で販売している場合がほとんどだと思います。しかし、それらの効果はカカシ効果であることが多く、それゆえに長期的な効果を発揮しにくいと考えられます。
まとめと対策品の適切な使い方
テグスのように翼への接触を嫌がる対策はありますが、嗅覚・味覚・視覚・聴覚を刺激する対策の多くは、カラスが本質的に嫌がっているわけではありません。実害を伴わない刺激を、カラスが長期的に嫌がり続けることは考えにくいのです。
対策品の効果の多くはカカシ効果ですが、使い方次第では、このカカシ効果も有用です。一定期間で対策品を入れ替えたり、設置場所を変えたりする方法で長期的に効果を発揮する例もあります。
例えば、ナシの栽培が盛んな地域で、カラスの食害に悩まされていた農家が、カカシを設置し、1週間おきにカカシのTシャツを着せ替えるとともに設置場所を変えたところ、被害を防ぐことができたという例もあります。
カカシ効果を活用した対策を行う際に注意したいのが、効果を失った対策品の扱いです。一度慣れてしまった対策品は、必ず撤去する必要があります。慣れた対策品を放置した場合、「汎化(はんか)」と呼ばれる現象が起きる可能性があります。ここでいう汎化とは、新しい対策品を設置しても慣れが解消されなくなる状態を指します。効果を発揮しない対策品でも、置かないよりはましだと考えてしまいがちですが、実際には逆効果となることもあります。
今回は、カラスの生態と既存対策の効果について整理しました。次回は、これらを踏まえた上で、畜産施設における具体的なカラス対策について紹介します。
対策品の効果の多くはカカシ効果ですが、使い方次第では、このカカシ効果も有用です。一定期間で対策品を入れ替えたり、設置場所を変えたりする方法で長期的に効果を発揮する例もあります。
例えば、ナシの栽培が盛んな地域で、カラスの食害に悩まされていた農家が、カカシを設置し、1週間おきにカカシのTシャツを着せ替えるとともに設置場所を変えたところ、被害を防ぐことができたという例もあります。
カカシ効果を活用した対策を行う際に注意したいのが、効果を失った対策品の扱いです。一度慣れてしまった対策品は、必ず撤去する必要があります。慣れた対策品を放置した場合、「汎化(はんか)」と呼ばれる現象が起きる可能性があります。ここでいう汎化とは、新しい対策品を設置しても慣れが解消されなくなる状態を指します。効果を発揮しない対策品でも、置かないよりはましだと考えてしまいがちですが、実際には逆効果となることもあります。
今回は、カラスの生態と既存対策の効果について整理しました。次回は、これらを踏まえた上で、畜産施設における具体的なカラス対策について紹介します。