化学物質は有機化合物、無機化合物を合わせ約1億種類以上あることが知られており、そのうちニオイ物質は約40万種類あることが確認されています。ニオイ物質は分子量が20~300程度であり、常温では気体である物質が大半を占めています。例えば、「エタンチオール」という物質は、ニラやタマネギに類似した強い刺激臭があり、極めて低い濃度でも人が嗅ぎ付けられるほどの悪臭を放ちます。ガスが漏れたときにすぐわかるようにガス燃料のLPGに付臭剤として微量に含まれています。2015年より、ギネスブックでは世界一臭い物質として認定されています。

ニオイを感じるメカニズム

ニオイ分子が嗅粘膜を覆っている粘液層に溶け込む
嗅粘膜
ニオイ
分子
ニオイ
分子
嗅細胞が興奮→電気信号(インパルス)が発生
嗅球
大脳皮質(においを認知)
嗅細胞は、鼻の奥の「嗅上皮」という部分にある、外界からニオイ物質を直接受け取ることができる神経細胞です。
空気中のニオイ分子が鼻に入り、嗅細胞の表面にある受容体に結合すると、その刺激が電気信号に変わり、脳へ送られて「ニオイ」として感じます。人間には嗅細胞が約1,000万個あり、一定期間(半月~半年)で細胞が入れ替わります。

嗅覚受容体の数は動物種によって異なり、ヒトは396種類に対し、イヌは811種類、ウシは1,186種類、ニワトリは211種類、アフリカゾウに至っては1,948種類もあります。

図1. 様々な脊椎動物のゲノム中に存在するOR遺伝子の数

ニオイの感じ方

ニオイの感じ方は個人で違っています。
主な理由は以下となります。
 ① 年齢や性別
 ② 体調やホルモンの状態
 ③ これまでの経験や記憶、文化的な背景
 ④ 順応(嗅ぎ慣れすぎてニオイに慣れてしまう)
 ⑤ 生まれつきの体質(遺伝子の違い)


嗅覚受容体というセンサーが個々で異なっており、ニオイ分子ごとに反応する受容体のタイプが少し違います異なります。この受容体の設計図である遺伝子には人それぞれ微妙な違いがあり、その違いによって次のような差が生まれます。
 ・特定のニオイにすごく敏感な人
 ・逆に、ほとんど感じない、まったく分からない人
 ・同じニオイを「いい香り」「臭い」と正反対に感じる人


特定のニオイ物質については、受容体遺伝子のわずかな違いによりニオイの感じ方が異なってしまうことが報告されています。
嗅覚は加齢とともに少しずつ弱くなり、ニオイを感じにくくなります。
また、女性では月経周期、妊娠などホルモンの変化にあわせて、ニオイへの敏感さや好みが変わるという研究データも報告されています。性別による嗅覚の差は「女性のほうが少し優れている」という報告もあります。
同じニオイでも、いい思い出と結びついている人と、イヤな経験と結びついている人では、快・不快の感じ方が大きく変わります。
 ・子供のころ体験した場所のニオイ(海、山など)
 ・子供のころからよく食べているた料理のニオイを「おいしい」と感じる
 ・あまり馴染みのない国の料理のニオイは「きつい」と感じる


こうした体験・学習や文化の違いにより、ニオイの評価について個人差が大きく左右されます。
自分の家のニオイや自分の体臭は分かりにくいのに、他人のニオイははっきり分かる、というのは、嗅覚がそのニオイに慣れてしまう「順応」という性質があるためです。
また、体調不良や鼻炎、ウイルス感染などで嗅覚が弱まることもあり、そのときどきの体調でも感じ方が変わります。

湿度・温度による感じ方の違い

湿度が高いとニオイ分子が空間に留まりやすく、また温度が高いとニオイ分子の揮発性が高くなるので、ニオイを感じ易くなります。
そのため梅雨の時期はニオイを強く感じます。 湿度が上がる雨上がりに草木や花々の香りを強く感じるのはこのためと言われています。逆に、冬は温度も湿度も低いためニオイ分子が空間に留まりにくくなるのでニオイを感じにくくなります。

香りによる感じ方の違い

ニオイ(香り)は「気分」と「自律神経」の両方に影響します。自律神経は、交感神経と副交感神経から成りたっています。交感神経を刺激すると興奮の方向に、副交感神経の刺激は鎮静の方向に作用します。ニオイ(香り)によって、どちらの自律神経が優位になるかが、興奮作用と鎮静作用の違いになります。
🍊 柑橘系

グレープフルーツなどは気分を持ち上げ、交感神経指標を刺激させます。

仕事前や運転前、勉強中など「もうひと頑張り」したい場面で用いられることが多いです。

🌿 ラベンダー系

交感神経活動を抑え副交感神経が高まることで、リラックスや入眠を助ける香りとして扱われています。

🌸 柑橘・フローラル系

花の香りなどは、不安をやわらげ自律神経のバランスを整え、イライラや気分の落ち込み対策として使われています。

また、入浴時や就寝前、緊張が続いた後などに使われることが多いです。

同じ香りでも「興奮する人」と「落ち着く人」がいることがあります。
・個人の好みや過去の記憶による差
香りは記憶と強く結びつくため、良い体験と結びついた香りは安心感を、嫌な体験と結びついた香りは逆にストレスを生むことがあります。
・濃度や使用時間
濃すぎる香りや長時間の暴露は、本来リラックス向きのニオイ(香り)でも負担となり、頭痛や不快感につながることがあります。

ニオイ(香り)は、「自分にとってどう感じるか」を確かめながら、少量から試すことが大切とされています。
ニオイ
(香り)
作用 場面
樹木 リラックス・軽い覚醒 森林浴
ローズマリー 覚醒・集中力UP 勉強・仕事
柑橘 気分改善・軽い覚醒 気分転換
ラベンダー 鎮静・入眠サポート 就寝前・ストレス時

パネル選定試験

悪臭防止法の規制基準になっている臭気指数は、人の嗅覚をもちいて算出します。
パネル選定試験に合格した人により「ニオイの有無」を判定し数値化されます。
パネル選定試験は「5-2法」が使用され、5種類の基準臭それぞれについて、5本のろ紙に3枚が無臭・2本が有臭となる組合せから有臭紙を当てさせる識別試験法です。
成分 ニオイ
A βフェニルエチルアルコール バラの香り
B メチルシクロペンテノロン カラメルの香り
C イソ吉草酸 靴下のニオイ
D γウンデカンラクトン 桃の香り
E スカトール 糞便臭

<判定方法>

5種類すべてニオイ付いているろ紙の番号を選び全問正解すれば合格となります。

出典:第一薬品産業株式会社「パネル選定用基準臭」製品ページ
https://j-ichiyaku.com/panel/

ニオイは感覚公害

ニオイは、騒音や振動と並んで「感覚公害」として扱われています。
環境省や自治体の資料でも、悪臭は典型七公害の一つで、主に感覚的・心理的なダメージを与える公害だと説明されています。
ニオイは目に見えないだけに、人の感覚を通して生活環境を壊す公害に位置づけられています。
同じニオイでも感じ方は個人により差があり、「臭い」「つらい」「平気」「好き」などに分かれてしまいます。この「見えない」「人によって違う」という点が、感覚公害としてのニオイ問題を難しくしているポイントです。
ニオイによる体調不良や不快感が「香害」「スメルハラスメント」として社会問題化しています。
見えないニオイを「公害」として扱うため、悪臭防止法では特定悪臭22物質の濃度規制や臭気指数といった嗅覚を用いて数値化する規制で行政指導の基準にしています。
ニオイ(悪臭)は不快感を与え住民トラブルとなりやすいため、企業として臭気対策の取組みが重要視されるようになってきています。

見えないニオイだからこそ、「知ること」が対策の第一歩です――本記事が、皆さまの臭気対策の一助となれば幸いです。

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