伏見康生先生に聞く!「子牛のクリプトスポリジウム症」 第1回 ー被害についてー

子牛の下痢は、さまざまな病原体が原因となります。
その中でも、クリプトスポリジウム症は治療と対策の両方で対応が難しく、頭を悩ませている方も多いかと思います。
今回、株式会社Guardianの伏見康生先生に「子牛のクリプトスポリジウム症」について、考え方の基本から現場で実践できることまで幅広くお話していただきます。

ご紹介

講師:伏見康生
株式会社Guardian 代表取締役
獣医師 博士(獣医学)
日本全国で牛の栄養面・環境面・疾病対策面へのトータルコンサルタントとして活躍し、クライアント農場の総飼育頭数は 10万頭超に及ぶ。
その他にも、繁殖管理指導、医療機器の開発、講演や執筆など活動は多岐にわたる。

インタビュアー:田島優
共立製薬株式会社 PA埼玉営業所 所長
関東甲信エリアの養牛・養豚・養鶏を管轄している。
これまでの担当は、関東と中部東海北陸エリア。

お話の前に

クリプトスポリジウム症:
① 原虫の1種であるクリプトスポリジウム パルバムが小腸に感染することで引き起こされる。
② 感染経路は、飼料や水を介したクリプトスポリジウムのオーシストの経口感染。
③ 生後1~4週齢で発症することが多く、ときに死亡する場合もある。

はじめに

田島
クリプトスポリジウム症に対する率直なイメージを教えてください。

伏見
クリプトスポリジウムは、現代の大規模な哺育・育成農場では、頻繁に遭遇する病原体で、子牛が下痢をする時には高確率で分離されます。
また、消毒薬への抵抗性があるため、いちど農場に入ってしまうと清浄化が難しいのも特徴的です。

発生状況について


田島
「高確率で分離される」とのことですが、先生が指導されている農場での発生頻度を教えてください。

伏見
哺育・育成農場にて、生後1~4週間で下痢が発生した場合、ロタウイルスかクリプトスポリジウムのどちらかは関与している前提で対応しています。
発生頻度については、全ての下痢を検査していないので明確に答えられませんが、文献によっては50%程度と報告されています。
※管内の下痢を呈した子牛における腸内細菌叢の判定とクリプトスポリジウム感染状況調査 家畜感染症学会誌(2015)

田島
クリプトスポリジウム症の発生が多い農場と少ない農場で異なる点を教えてください。

伏見
クリプトスポリジウム症に限らず、多くの感染症が酪農から和牛へと広がることが多いと感じます。
昔は、酪農が発展している地域(北海道や栃木県、千葉県)では発生が多くみられましたが、九州などの和牛が中心の地域では発生は少なかった印象です。
しかし、現在では、和牛経営も規模が拡大し、乳牛と肉牛の市場での生体交流の機会が増え、ヒトもモノも交流する機会が増えて、西日本でも発生がよく見られるようになったと感じています。

被害について

田島
「いちど農場に入ってしまうと清浄化が難しい」とのことですが、クリプトスポリジウムが農場に入っていることのデメリットについて教えてください。

伏見
早期の下痢によって、貴重な発育の機会を失うことです。
この損失をその後の哺育育成期間で取り返すのはとても困難を要すると、考えた方が良いです。
また、クリプトスポリジウムやロタウイルスは、日和見感染症のような捉え方もされます。
つまり、免疫がしっかりしている子牛は感染しても発症しないか、軽症で抑えることができますが、免疫が不十分な子牛は重症化してしまいます。
クリプトスポリジウムとロタウイルスが入っていない農場であれば、こういった免疫が不十分な子牛でも2ヵ月間、問題なく成長して市場に出荷される場合があります。
クリプトスポリジウムが農場に入っていない(ゼロか)・入っている(イチか)は非常に大きな差であり、子牛を育てるにはリスクになります。


田島
発症した子牛は時間の経過とともに回復する場合もあると思います。
罹患していない牛と比べて、その後の成長に違いなどはありますか?

伏見
データを見ると、下痢をする日数(回数)が多いほど、DG(1日当たり増体重)が下がってしまいま
す。(図1)

当然の結果ではありますが、その時点だけの体重の問題ではなく、その後も成長には開きが出てきます。
そのため、子牛における下痢症の悪影響は非常に大きいものだと考えています。

図1 生後50日間の下痢回数と期間DG 

via 提供:株式会社Guardian
田島
クリプトスポリジウム症が発生することによる農場全体への影響はどうでしょうか。
発症した子牛の下痢便には、大量のオーシストが含まれるため、農場全体に広がるリスクがあるかと思います。

伏見
往々にしてあることですが、悪いことは連鎖しがちです。
クリプトポリジウム症がよく発生し、特に重症化して長期間の対応が必要な場合は、人手や資材などのリソースが奪われてしまいます。
この結果、他の子牛の「ケア不足」「見逃しによる不慮の事故」が発生します。
発症した子牛への被害に加えて、「従業員の疲弊」と「事故の増加」といった2次的な被害も見過ごせません。

図2 クリプトスポリジウム症によって人手やリソースが奪われる悪影響

第2回では、クリプトスポリジウム症の症状について、お聞きします。
次回もお楽しみに。


新着記事はメルマガでチェック!
登録はこちら