悪臭防止法とは? 畜産現場での臭気対策をわかりやすく解説

悪臭は、人々の生活環境へ影響を与える公害の一つです。特に畜産現場では、鶏舎や堆肥施設などから発生する臭気が苦情につながるケースもあります。本記事では、悪臭防止法の規制内容、畜産現場での臭気対策などについてわかりやすく解説します。

悪臭防止法とは?

悪臭防止法は、工場や事業場などから発生する悪臭を規制し、人々の生活環境を守るために制定された法律です。
悪臭は「感覚公害」の一つとされ、臭いの感じ方に個人差があることや、気象条件によって影響範囲が変わることから、対応が難しい公害として知られています。
ここでは、悪臭防止法の基本的な考え方や、畜産業との関係について解説します。

悪臭が公害として扱われる背景

現在では、悪臭は公害の一つとして扱われています。
昭和40年代には、公害問題が全国的に深刻化し、悪臭についても健康被害や生活環境悪化の原因として問題視されるようになりました。
昭和42年(1967年)には、悪臭が「典型7公害」の一つへ位置付けられ、昭和47年(1972年)に悪臭防止法が施行されました。
現在でも悪臭苦情は多く、総務省の調査では公害苦情の中でも上位に位置しています。

出典:「令和6年度公害苦情調査結果報告書」(総務省)(2026年7月14日に利用)

悪臭防止法の目的と仕組み

悪臭防止法は、事業活動によって発生する悪臭を規制し、生活環境を保全することを目的とした法律です。
悪臭防止法の概要によると、悪臭防止法は「規制地域内の工場・事業場の事業活動に伴って発生する悪臭について必要な規制を行うこと等により生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする」とされています。

悪臭に係る苦情の件数

発生源別の苦情件数

出典:「悪臭防止法施行状況調査」(環境省)(2026年7月14日に利用)

具体的には、規制地域内にある工場や事業場を対象に、悪臭の発生状況や臭気濃度について基準を定めています。
また、単に臭気を減らすだけでなく、地域住民の健康保護や快適な生活環境を維持することも重要な目的です。
悪臭が発生した場合には、行政指導や改善勧告、改善命令などが行われる仕組みになっています。

なぜ畜産業でも重要なのか

畜産業では、家畜の飼養や糞尿処理、堆肥化などの工程で臭気が発生することがあります。
特に、鶏舎や豚舎の換気設備、堆肥施設、排水処理設備などは、臭気苦情につながりやすい発生源とされています。
また、臭気は風向きや気温、湿度などの気象条件によって拡散状況が変化するため、農場側では継続的な管理が重要です。
近年では、地域住民との関係維持や事業継続の観点からも、畜産現場における臭気対策の重要性が高まっていると言えるでしょう。

悪臭防止法の規制内容

悪臭防止法では、悪臭の発生を抑えるために、臭気の測定方法や規制基準が定められています。
規制方法には「特定悪臭物質規制」と「臭気指数規制」の2種類があり、自治体ごとにどちらかが採用されています。また、臭気を測定する場所や地域区分によって適用される基準も異なるため、事業場ごとの確認が重要です。
ここでは、悪臭防止法における主な規制内容について解説します。

特定悪臭物質規制とは

特定悪臭物質規制とは、悪臭の原因となる物質の濃度を測定して規制する方法です。
現在は、アンモニア、硫化水素、トリメチルアミンなど22種類の物質が「特定悪臭物質」として指定されています。
機器分析によって数値化できるため、基準が明確である点が特徴です。
一方で、複数の臭いが混ざった「複合臭」や、指定されていない物質による臭気には対応しづらい側面もあります。

臭気指数規制とは

臭気指数規制とは、人の嗅覚を用いて臭気を数値化する規制方法です。
「三点比較式臭袋法」という方法を用い、試料を無臭空気で段階的に薄めながら、臭いを感じなくなる濃度を測定します。
その結果から臭気濃度を算出し、以下の式で臭気指数へ換算します。
臭気指数 = 10 × log(臭気濃度)

三点比較式臭袋法

via (共立製薬社内資料)
臭気指数規制は、複合臭にも対応しやすく、実際の生活環境に近い感覚で評価できる点が特徴です。

特定悪臭物質規制と臭気指数規制の違い

特定悪臭物質規制は、指定された悪臭物質の濃度を測定して規制する方法です。
一方、臭気指数規制は、人の嗅覚を用いて「ニオイ全体」を評価する規制方法であり、複数の臭気が混ざった「複合臭」にも対応しやすい特徴があります。
そのため近年では、複合臭を含むあらゆる臭気を総合的に評価できる臭気指数規制を採用する自治体が増えています。

規制方式

※図は「特定悪臭物質規制」と「臭気指数規制」の違いを示したイメージです。
特定悪臭物質名 臭気強度 規制エリア 臭気の質 発生場所
2.5 3 3.5 1号 2号 3号
アンモニア 1 2 5 し尿のような臭い 畜産、し尿処理場
硫化水素 0.02 0.06 0.2 腐った卵のような臭い 畜産、パルプ製造工場
硫化メチル 0.01 0.05 0.2 腐ったキャベツのような臭い パルプ製造工場、し尿処理場
二硫化メチル 0.009 0.03 0.1
メチルメルカプタン 0.002 0.004 0.01 腐った玉ネギのような臭い
トリメチルアミン 0.005 0.02 0.07 腐った魚のような臭い 畜産、化製場、水産
アセトアルデヒド 0.05 0.1 0.5 刺激的な青臭い臭い 化学工場、煙草製造工場
プロピオンアルデヒド 0.05 0.1 0.5 刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い 焼き付け塗装工場
ノルマルブチルアルデヒド 0.009 0.03 0.08
イソブチルアルデヒド 0.02 0.07 0.2
ノルマルバレルアルデヒド 0.009 0.02 0.05 むせるような甘酸っぱい焦げた臭い
イソバレルアルデヒド 0.003 0.006 0.01
イソブタノール 0.9 4 20 刺激的な発酵した臭い 塗装工場
酢酸エチル 3 7 20 刺激的なシンナーのような臭い 塗装工場、印刷工場
メチルイソブチルケトン 1 3 6
トルエン 10 30 60 ガソリンのような臭い
スチレン 0.4 0.8 2 都市ガスのような臭い 化学工場、FRP製造工場
キシレン 1 2 5 ガソリンのような臭い 塗装工場、印刷工場
プロピオン酸 0.03 0.07 0.2 刺激的な酸っぱい臭い 脂肪酸製造工場、染織工場
ノルマル酪酸 0.001 0.002 0.006 汗臭い臭い 畜産、てんぷん工場
ノルマル吉草酸 0.0009 0.002 0.004 むれた靴下のような臭い
イソ吉草酸 0.001 0.004 0.01

臭気の強さを示す六段階臭気強度表示法

悪臭の強さを評価する方法の一つに、環境省が定めた「六段階臭気強度表示法」があります。
六段階臭気強度表示法は、臭いの強さを0(無臭)から5(強烈な臭い)までの6段階で示す方法です。
臭気強度 臭いの強さ
0 無臭
1 やっと感知できる臭い
2 やっと何の臭いかがわかる程度の臭い
3 らくに感知できる臭い
4 強い臭い
5 強烈な臭い
臭気強度2.5〜3.5は、敷地境界線上の規制基準の範囲にあたります。臭気強度と臭気指数の関係は、以下の通りです。
臭気強度 相当する臭気指数
2.5 10〜15
3.0 12〜18
3.5 14〜21
つまり、臭気指数10〜21が規制基準の範囲とされており、一般的には臭気強度2.5、臭気指数10程度を下回るレベルが、生活環境を保全する上での目安とされています。

臭気を測る場所ごとの規制基準

悪臭防止法では、臭気を測定する場所ごとに規制基準が定められています。
主な規制基準は以下の3種類です。
規制基準の種類 内容
敷地境界線の規制基準
(1号規制基準)
事業場の敷地境界線上における規制基準です。特定悪臭物質の濃度または臭気指数で規制され、規制地域内に適用されます。
排出口の規制基準
(2号規制基準)
煙突などの気体排出口から排出される悪臭の規制基準です。煙突の高さや排出量に応じて基準値が定められます。
排出水の規制基準
(3号規制基準)
事業場から排出される水に含まれる悪臭の規制基準です。水中の特定悪臭物質の濃度または臭気指数で規制されます。
特に畜産現場では、換気設備や堆肥施設、排水処理設備などが規制対象となるケースがあります。
そのため、どの設備や工程から臭気が発生しているのかを把握することが重要です。

規制地域と自治体ごとの基準の違い

悪臭防止法の規制基準は、全国一律ではなく、自治体ごとに設定されています。
また、地域によって「第一種区域」「第二種区域」「第三種区域」などに区分されており、住宅地に近い地域ほど厳しい基準が適用される傾向があります。
さらに、自治体によって採用している規制方式や具体的な基準値も異なります。
そのため、臭気対策を行う際には、事業場が所在する自治体のホームページや担当部署で、最新の規制内容を確認するようにしましょう。

畜産農場で臭気苦情が発生しやすいポイント

畜産現場では、畜鶏舎や糞尿処理施設、堆肥化施設などから臭気が発生します。
特に、換気設備や堆肥施設、糞尿処理設備などは臭気が拡散しやすく、近隣住民からの苦情につながるケースもあります。
また、臭気は風向きや気温、湿度などの気象条件によって広がり方が変わるため、発生源の把握と継続的な管理が重要です。
ここでは、畜種ごとに臭気苦情が発生しやすいポイントについて紹介します。

養鶏業で発生しやすい臭気

養鶏業では、鶏舎の換気設備やコンポスト施設から臭気が拡散しやすい傾向があります。
特に、トンネル換気方式の鶏舎では、換気によって臭気が一方向へ集中して排出されるため、風向きによっては周辺地域へ臭気が広がります。
また、堆肥化施設から発生する臭気も苦情につながりやすく、羽根などの飛散物が問題になる場合もあります。

養豚業で発生しやすい臭気

養豚業では、豚舎や糞尿処理設備からの臭気が苦情につながりやすいとされています。
なかでも、ウインドレス豚舎や開放型豚舎の換気口からの臭気拡散は、代表的な臭気発生源の一つです。
また、糞尿ピットや堆肥施設、排水処理施設から発生する臭気も問題になりやすく、糞尿移動時に生活道路へ臭気が広がることもあります。
養豚業は臭気発生源が複数に分かれることが多いため、発生源ごとの対策が重要です。

養牛業で発生しやすい臭気

養牛業では、牛舎や堆肥施設、糞尿ピットなどから臭気が発生することがあります。
また、飼料として使用されるサイレージ由来の臭気が問題になるケースもあるでしょう。
牛舎は比較的開放的な構造が多いため、風向きや気象条件によって臭気が広範囲へ拡散しやすいケースが見られます。
そのため、堆肥管理や清掃、換気管理などを継続的に行い、臭気を拡散させない対策が必要だと言えるでしょう。

臭気苦情が発生した場合の流れ

臭気苦情が発生した場合、まず自治体による現地確認や臭気調査が行われます。
その結果、悪臭防止法の基準を超える臭気が確認された場合には、行政指導や改善勧告などが行われます。行政指導では、臭気対策や設備管理の見直しなどについて改善を求められることがあります。
その後も改善が見られない場合には改善命令が出されることがあり、改善命令に従わなかった場合には罰則の対象となります。
悪臭防止法では、改善命令違反に対して1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
一般的な対応の流れは以下のとおりです。

1. 行政指導・改善勧告

まず、市町村長から行政指導や改善勧告が行われます。

2. 改善命令

勧告に従わない場合、改善命令が出されます。

3. 罰則

改善命令に違反した場合に、罰則が適用されます。

臭気対策で重要なポイント

臭気対策では、単に消臭剤を使用するだけでなく、臭気発生源を把握したうえで、臭気を拡散させない対策を行うことが重要です。
また、臭気は気象条件や設備状況によって変化するため、継続的な管理や運用も欠かせません。
ここでは、畜産現場で臭気対策を行う際に重要となるポイントについて解説します。

臭気の「見える化」が重要

臭気対策では、まず「どこから、どのように臭気が発生しているのか」を把握することが重要です。
繰り返しになりますが、畜産現場では、鶏舎や豚舎、堆肥施設、排水処理設備など、複数の発生源が存在するケースも少なくありません。
また、風向きや風速、時間帯によって臭気の拡散状況も変わるため、苦情エリアや発生タイミングを整理しながら臭気発生源を特定する必要があります。
このように、臭気の状況を客観的に把握する「見える化」が、効果的な対策につながります。

苦情発生前の対策がコストを抑える

臭気問題は、苦情が発生してから対応するよりも、事前に対策を行う方が結果的にコストを抑えやすくなります。
一度近隣住民との関係が悪化すると、より強い対策や継続的な対応を求められるケースもあり、対策コストが増加する可能性もあります。
また、消臭剤噴霧を行っている場合でも、ミスト設備の維持管理が不十分だと、本来の効果を発揮できないことがあります。
そのため、設備管理や清掃、換気管理などを含め、日常的に臭気対策へ取り組まなければなりません。

苦情発生時は初期対応が重要

臭気に関する苦情が発生した場合は、できるだけ早い段階で状況を確認し、原因の把握に努めることが重要です。
例えば、苦情が発生したエリアや時間帯、その日の風向きや風速などを確認することで、臭気発生源の特定につながります。
また、苦情への対応が遅れると、近隣住民との信頼関係が悪化し、問題が長期化する可能性もあります。
苦情内容を記録しながら原因調査と改善対応を進め、必要に応じて専門家へ相談するなど、早期の対応を心がけましょう。

継続的な管理を行う

臭気は季節や気温、風向きなどの気象条件によって拡散状況が変化するため、一度対策を実施しただけで十分とは限りません。
また、消臭設備や脱臭設備を導入していても、点検や清掃などの維持管理が不十分な場合、本来の効果を発揮できないことがあります。
そのため、定期的な設備点検や清掃、臭気の発生状況の確認などを継続的に行い、臭気対策の効果を維持することが大切です。
日常的な管理を積み重ねることで、臭気苦情の発生リスクを抑えやすくなります。

専門家へ相談する

臭気対策は、発生源や地域環境によって適切な方法が異なるため、専門家へ相談することも有効です。
例えば、臭気調査を行えば、実際にどの設備や工程が臭気発生源となっているのかを把握しやすくなります。
また、臭気は地形や季節、時間帯によって苦情エリアが変わるケースもあるため、現場状況に応じた対策提案が重要になります。
共立製薬では、臭気調査から対策提案、臭気対策導入後のアフターフォローまで継続的な支援を行っています。

まとめ

畜産現場では、鶏舎や豚舎、堆肥施設などから発生する臭気が苦情につながるケースもあり、発生源を把握したうえで継続的に対策を行うことが重要になります。
また、臭気対策は消臭剤の使用だけでなく、臭気発生源の特定や設備管理、運用方法の見直しまで含めた総合的な取り組みが求められます。地域環境や気象条件によって状況は異なるため、農場ごとに適切な対策を検討することが大切です。
臭気対策で悩んだ際は、専門家へ相談しながら、農場ごとの状況に合った対策を進めることが、安定した農場運営や地域との良好な関係づくりにつながるでしょう。

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