被害は想像以上に!日本の畜産を脅かす伝染病シリーズ ~後編:過去に脅威となった伝染病~

被害は想像以上に!日本の畜産を脅かす伝染病シリーズ ~後編:過去に脅威となった伝染病~

前編に引き続き、日本の畜産を脅かす伝染病についてお伝えします。
畜産業において、疾病によっては飼養しているすべての家畜を殺処分することが義務付けられているため、経営に甚大な影響を及ぼします。過去の事例から学ぶことで、今後の防疫対策に生かすことができます。
後編では、これまでに日本の畜産業に大きな被害をもたらした伝染病の歴史と、その教訓についてご紹介いたします。


📖 連載 被害は想像以上に!日本の畜産を脅かす伝染病シリーズ

BSE(牛海綿状脳症)

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BSEとは?

かつて「狂牛病」とも呼ばれたBSE(牛海綿状脳症)は、牛の脳や脊髄などに「BSEプリオン」と呼ばれるたんぱく質が蓄積し、脳がスポンジ(海綿)のようになってしまう法定伝染病のひとつです。BSEはTSE(伝達性海綿状脳症)の一種で、ヒトにも感染する恐れがあると考えられており、ヒトが発症すると「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)」という疾病になります。

BSEは感染していても症状を示さない「潜伏期間」が3〜7年程度と長く、発症した牛は運動失調や異常行動などを起こして最終的には死に至ります。

BSEは飛沫や空気によって感染するものではありません。感染の原因は、BSEに感染した牛の脳や脊髄などを含む部位を原料とした「肉骨粉(にくこっぷん)」を、飼料として別の牛に食べさせたことだと考えられています。

BSEの感染の歴史

BSEは1986年(昭和61年)にイギリスで初めて症例が報告されました。その後、アイルランド、ポルトガル、デンマーク、ドイツなど世界各地に感染が拡大。日本では2001年(平成13年)9月に国内で初めてBSE感染牛が確認されました。

これを受け、厚生労働省は生後12か月以上の牛の頭蓋(舌、頬肉を除く)や脊髄、ならびにすべての牛の回腸遠位部(盲腸との接続部分から2メートル以上)を除去・焼却するよう指導を開始しました。同時に、と畜場における牛の特定部位の除去・焼却を法令上義務化しました。また、農林水産省は同年10月から肉骨粉を含む家畜飼料や肥料の製造と販売を禁止しました。

さらに、食用として処理されるすべての牛を対象に、BSE全頭検査を全国一斉に開始しました。こうした対策の実施により、発生から約1か月後の10月18日、当時の厚生労働大臣と農林水産大臣は国産の牛肉に対する「安全宣言」を発しました。

国際的な評価としては、2009年にWOAH(国際獣疫事務局、旧OIE)総会で「管理されたBSEリスク」の国、2013年には「無視できるBSEリスク」の国に認定されました。
国内では2001年(平成13年)以降、8年間で36頭のBSE感染牛が確認されましたが、2010年(平成22年)以降は確認されていません。

アジアにおけるBSEの発生報告状況としては、韓国19件、カンボジア14件、モンゴル1件、インド1件、インドネシア件数不明と、依然として警戒が必要な状況が続いています(農林水産省HP参照 、2025年8月21日時点)。

BSEの発生に伴い、大手食品メーカーの食品偽装が発覚したり、大手牛丼チェーンが2004年(平成16年)から4年以上にわたって牛丼の販売を中止したりと、「食の安全」を改めて考える契機となりました。

ランピースキン病

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ランピースキン病とは?

ランピースキン病は、ランピースキン病ウイルスによって引き起こされる牛や水牛の伝染病です。感染すると、皮膚に多数の結節(しこり)や水腫が現れるほか、発熱や泌乳量の低下など多様な症状を示します。

主な感染経路は、蚊やサシバエ、ヌカカなどの吸血昆虫(ベクター)による機械的伝播です。そのほか、感染した牛の唾液との接触や、唾液で汚染された飼料・飲水・器具を介しての感染も確認されています。多湿な夏季に発生が多いことから、吸血昆虫の活動が活発になる時期には特に注意が必要です。

ランピースキン病は牛や水牛の病気であり、人に感染することはありません。しかし、有効な治療法はなく、発生した場合の経済的被害は甚大です。患畜等の早期発見、殺処分、移動制限、ワクチン接種等の総合的な防疫対策によって、発生および感染拡大を効果的に防止することが重要です。

これまでランピースキン病は届出伝染病として扱われていましたが、2026年5月、家畜伝染病予防法が改正され、家畜伝染病に追加されました。

これにより、発生が確認された場合には発症牛の隔離及び殺処分、畜舎等の消毒、緊急ワクチン接種、移動制限等が義務付けられることになりました。

また、殺処分した牛や移動制限時の損失に対しては、法に基づき支援されることも定められました。

ランピースキン病の感染の歴史

ランピースキン病は、元々はアフリカや中東で発生する病気でした。しかし近年、その感染範囲は急速に拡大しています。

アジアにおいては、2019年以降バングラデシュやインド、中国で発生が報告された後、2020年にはスリランカ、台湾などへと拡大。その後も韓国(2023年・2024年)、シンガポール(2022年)、カンボジア(2021年)、インドネシア(2022年)、マレーシア(2021年)、パキスタン(2021年)など、東南アジア・東アジアの広い地域で発生が確認されています。

欧州でも2025年に入り、フランス117件、イタリア80件、スペイン20件と感染が拡大しており、世界的な警戒が高まっています(2026年4月現在)。

日本国内では、2024年(令和6年)11月6日に福岡県で初めて発生が確認されました。同年12月26日までに福岡県の19農場、熊本県の3農場で発生が確認された後、終息しました。国内初の発生事例は、迅速な自主淘汰と移動制限、ワクチン接種などの総合的な防疫対策が功を奏し、短期間での封じ込めに成功しました。

しかし、アジア地域における感染拡大が続いていることから、従来は届出伝染病のひとつに位置づけられていたランピースキン病について、2025年7月には、殺処分命令等法定伝染病と同程度の措置を講じることができるよう制定した政令が施行されました。
さらに上述のとおり2026年5月には家畜伝染病予防法が改正され、家畜伝染病に追加されました。

今後も吸血昆虫対策を含む農場の衛生管理を徹底し、再度の侵入に備えることが不可欠です。

教訓を生かして畜産農場の伝染病対策を強化する

豚熱、アフリカ豚熱、口蹄疫、鳥インフルエンザ、BSE、ランピースキン病。

シリーズ2回にわたりお伝えしてまいりましたが、畜産農場は甚大な被害を受けてきました。

しかし、それらを教訓として取り組んできたことで、家畜伝染病予防法をはじめとした衛生管理や防疫対策に関する法律も強化され、現在の家畜衛生が支えられているのです。

これらの悪性伝染病等の防疫体制の強化には、経営者、飼養衛生管理者、農場の従業員の方々が飼養衛生管理基準を遵守されることが第一と考えられます。

(飼養衛生管理者については、畜産ナビ:「飼養衛生管理者とは?選任が義務付けられた理由や管理者がやるべきこと」を参照)

伝染病対策の強化に向けて、以下の取り組みを推奨します。
 ・改訂飼養衛生管理基準の入手
 ・改訂飼養衛生管理基準の印刷・ファイリング
 ・改訂飼養衛生管理基準の研鑽


衛生管理や防疫対策を強化することは、消費者への安全・安心な食品の安定的な提供につながるとともに、家畜の健康維持や、ひいては畜産物の生産性の向上にも繋がるため、畜産農場の利益向上にも結びつきます。
伝染病の歴史を踏まえ、畜産のより良い未来のために自社の農場の衛生状態について見つめ直してみてはいかがでしょうか。

畜産ナビでは、各伝染病の詳しい解説や感染対策に関する記事を多数掲載しています。本記事とあわせて、ぜひ以下の関連記事もご活用ください。
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