はじめに
2025年6月に農林水産省より「豚熱清浄化に向けたロードマップ」が公表されました。
このロードマップの最終目標は野生いのししを含め「国内からの豚熱ウイルスの撲滅」と「飼養豚へのワクチン接種の中止」ですが、当面の目標は「2050年を目途にWOAHの豚熱清浄国ステータス取得」としています。そこで本稿ではこの豚熱清浄国ステータス取得までのステップとその課題について解説していきます。
このロードマップの最終目標は野生いのししを含め「国内からの豚熱ウイルスの撲滅」と「飼養豚へのワクチン接種の中止」ですが、当面の目標は「2050年を目途にWOAHの豚熱清浄国ステータス取得」としています。そこで本稿ではこの豚熱清浄国ステータス取得までのステップとその課題について解説していきます。
国際獣疫事務局(WOAH)の豚熱清浄国ステータスの要件とは
まず、はじめにWOAHが定める豚熱清浄国ステータスの要件ですが、以下の4要件となっています(表1)。
ステータス要件の下線部(マーカーワクチンとサーベイランス)について補足解説します。
● マーカーワクチンとは:
現行のワクチンとは異なり、ワクチン接種によって獲得した豚熱ウイルスに対する抗体(ワクチン抗体)と豚やいのししが野外の豚熱ウイルスの感染によってつくられる抗体(感染抗体)を検査で区別できるワクチンで、現在国内での開発が進められています。
このワクチンを接種された豚が野外ウイルスの感染を受けた場合についても、抗体検査で感染の履歴が確認できるようになります。
● サーベイランスとは:
飼養豚を対象とした定期的な抗体検査を意味していますが、現在の免疫付与率確認検査とは少し異なり、新たに採用される識別ELISA検査法によって、ワクチン抗体と感染抗体を区別することが可能となります。つまり、この調査によってワクチン接種の有無に関わらず野外のウイルス感染履歴をモニタリングすることになります。
● マーカーワクチンとは:
現行のワクチンとは異なり、ワクチン接種によって獲得した豚熱ウイルスに対する抗体(ワクチン抗体)と豚やいのししが野外の豚熱ウイルスの感染によってつくられる抗体(感染抗体)を検査で区別できるワクチンで、現在国内での開発が進められています。
このワクチンを接種された豚が野外ウイルスの感染を受けた場合についても、抗体検査で感染の履歴が確認できるようになります。
● サーベイランスとは:
飼養豚を対象とした定期的な抗体検査を意味していますが、現在の免疫付与率確認検査とは少し異なり、新たに採用される識別ELISA検査法によって、ワクチン抗体と感染抗体を区別することが可能となります。つまり、この調査によってワクチン接種の有無に関わらず野外のウイルス感染履歴をモニタリングすることになります。
豚熱清浄化に向けたロードマップ
次に豚熱清浄化ロードマップの全体像の図を示します。
出典:農林水産省ホームページより
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/attach/pdf/index-462.pdf
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/attach/pdf/index-462.pdf
ここでは5つのフェーズ[0(現行)~Ⅳ(清浄化)]に分けられており、それぞれに設定された要件を達成すると次のフェーズに移行します(表2)。
「はじめに」にも記しましたようにフェーズⅢの完了の目標(目途)が2050年に設定されています。
また、フェーズの進行については地域ごとに進めることとなっています。つまり、野生いのししの生息状況や豚熱感染状況、地理的要因、飼養豚における発生状況等を踏まえ地域単位としてフェーズの移行を検討し、清浄地域ステータスの取得を目指します。具体的には野生いのししが生息していない北海道では、豚熱の発生はなく、ワクチン接種も実施していないので、既にフェーズⅣの条件を満たしているといえます。また、ワクチン接種を実施しているものの、野生いのししへの豚熱ウイルスの浸潤がない沖縄県についても、ワクチンの使用中止を検討できる状況にあるといえます。
また、フェーズの進行については地域ごとに進めることとなっています。つまり、野生いのししの生息状況や豚熱感染状況、地理的要因、飼養豚における発生状況等を踏まえ地域単位としてフェーズの移行を検討し、清浄地域ステータスの取得を目指します。具体的には野生いのししが生息していない北海道では、豚熱の発生はなく、ワクチン接種も実施していないので、既にフェーズⅣの条件を満たしているといえます。また、ワクチン接種を実施しているものの、野生いのししへの豚熱ウイルスの浸潤がない沖縄県についても、ワクチンの使用中止を検討できる状況にあるといえます。
豚熱清浄化に向けた実施対策
各フェーズにおいて豚熱清浄化に向けた様々な対策を実施することになります。ここではその対策について、すべてのフェーズに共通するものと、そうでないものに分け解説します。
● 全てのフェーズに共通する対策
▶効果的なワクチン接種
フェーズ0とⅠ以降では使用するワクチンが変更されますが、現場でのデータを踏まえ、効果的な接種方法について検討・実施することに変わりはありません。但し、フェーズⅣにおいては、野生いのししでの豚熱感染状況を踏まえ、ワクチン接種の中止を検討・実施します。
▶飼養衛生管理の徹底
これまで通り発生事例や専門家の意見を踏まえ、飼養衛生管理の徹底を図り、異常豚を発見した際は速やかな通報が求められます。
また、WOAHの豚熱清浄国ステータス要件にある「飼養豚と野生いのししの群の適切な措置による隔離」を目的に、柵よりも防御効果の高い壁の設置が推進されます。
▶野生いのしし対策
経口ワクチンの散布および野生いのししの捕獲により、野外環境中の豚熱ウイルス量の低減を図ります。
▶効果的なワクチン接種
フェーズ0とⅠ以降では使用するワクチンが変更されますが、現場でのデータを踏まえ、効果的な接種方法について検討・実施することに変わりはありません。但し、フェーズⅣにおいては、野生いのししでの豚熱感染状況を踏まえ、ワクチン接種の中止を検討・実施します。
▶飼養衛生管理の徹底
これまで通り発生事例や専門家の意見を踏まえ、飼養衛生管理の徹底を図り、異常豚を発見した際は速やかな通報が求められます。
また、WOAHの豚熱清浄国ステータス要件にある「飼養豚と野生いのししの群の適切な措置による隔離」を目的に、柵よりも防御効果の高い壁の設置が推進されます。
▶野生いのしし対策
経口ワクチンの散布および野生いのししの捕獲により、野外環境中の豚熱ウイルス量の低減を図ります。
● フェーズによって変更される対策
▶サーベイランスとその対応
✓ フェーズ0:これまで通り、ワクチン接種豚における免疫付与状況の確認を目的に抗体検査を実施します。
✓ フェーズⅠ以降:ワクチン抗体または感染抗体の保有状況を確認します。その結果、感染抗体が検出された場合の対応は以下の通りフェーズによって変更されます。
♢ フェーズⅠ:感染抗体が検出された場合であっても飼養豚に異常が確認されない場合、追加の病性鑑定検査は行わず、殺処分の対象にもなりません。
♢ フェーズⅡ:基本的にはフェーズⅠと同じですが、感染抗体陽性の繁殖豚については優先的に更新します。
♢ フェーズⅢ:前期においてはフェーズⅡと同様の対応をします(優先的に更新)が、後期において感染抗体が検出された場合は全頭殺処分となります。
♢ フェーズⅣ:フェーズⅢ後期と同じ対応(全頭殺処分)となります。
▶豚熱発生時の対応
✓ フェーズ0:豚熱発生時の殺処分範囲の見直しを検討し、防疫指針を変更・実施します(部分殺処分)。
✓ フェーズⅠ:再度、殺処分範囲を見直します。
✓ フェーズⅡ:フェーズⅠと同じですが、必要に応じて殺処分範囲を見直すことがあります。
✓ フェーズⅢ:前期においてはフェーズⅡと同じですが、後期においては全頭殺処分を実施します。
✓ フェーズⅣ:フェーズⅢ後期と同じで、全頭殺処分を実施します。
▶サーベイランスとその対応
✓ フェーズ0:これまで通り、ワクチン接種豚における免疫付与状況の確認を目的に抗体検査を実施します。
✓ フェーズⅠ以降:ワクチン抗体または感染抗体の保有状況を確認します。その結果、感染抗体が検出された場合の対応は以下の通りフェーズによって変更されます。
♢ フェーズⅠ:感染抗体が検出された場合であっても飼養豚に異常が確認されない場合、追加の病性鑑定検査は行わず、殺処分の対象にもなりません。
♢ フェーズⅡ:基本的にはフェーズⅠと同じですが、感染抗体陽性の繁殖豚については優先的に更新します。
♢ フェーズⅢ:前期においてはフェーズⅡと同様の対応をします(優先的に更新)が、後期において感染抗体が検出された場合は全頭殺処分となります。
♢ フェーズⅣ:フェーズⅢ後期と同じ対応(全頭殺処分)となります。
▶豚熱発生時の対応
✓ フェーズ0:豚熱発生時の殺処分範囲の見直しを検討し、防疫指針を変更・実施します(部分殺処分)。
✓ フェーズⅠ:再度、殺処分範囲を見直します。
✓ フェーズⅡ:フェーズⅠと同じですが、必要に応じて殺処分範囲を見直すことがあります。
✓ フェーズⅢ:前期においてはフェーズⅡと同じですが、後期においては全頭殺処分を実施します。
✓ フェーズⅣ:フェーズⅢ後期と同じで、全頭殺処分を実施します。
おわりに
2018年に26年ぶりに発生した豚熱に対して農林水産省は、再び清浄国に復帰するため、ロードマップを作成し、清浄化に向けた取り組みの概要を示しました。現時点はまだ準備段階で、マーカーワクチンの開発期間に当たります。このワクチンの供給体制が整うと、いよいよ本格的に取り組みが始動することになります(フェーズⅠ)。そういう意味ではまだ、少し先の話とお感じになるかも知れませんが、実は現時点(フェーズ0)において進めておくべき取り組みが示されています。その一つは全頭殺処分に関する見直しで、行政サイドの取り組みになります。一方、生産現場での取り組みはというと、①効果的なワクチン接種と②飼養衛生管理の徹底が求められています。②についてはフェーズの進行に伴い、益々その重要性が増していき、フェーズⅢ後期以降では野外豚熱ウイルスの農場内への侵入が100%ない状態にする必要があります。つまり将来の農場の姿を見据えつつ、各フェーズでやるべきことを明確にした上で、飼養衛生管理のレベルアップに努めていくことが重要と考えられます。



