動植物検疫探知犬とは?育成方法や役割、将来展望を全日本探知犬協会に聞く

動植物検疫探知犬とは?育成方法や役割、将来展望を全日本探知犬協会に聞く

空港や港で活躍する検疫探知犬は、日本の畜産や農業を守る重要な役割を担っています。今回は、検疫探知犬の育成技術や全日本探知犬協会設立の背景、今後の展望について、全日本探知犬協会の稲原代表理事にお話を伺いました。

はじめに

空港や港で活躍する検疫探知犬は、海外から持ち込まれる肉製品や農産物などを発見し、日本の畜産や農業を守る重要な役割を担っています。

今回は、一般社団法人全日本探知犬協会設立の背景と検疫探知犬の育成技術、そして今後のビジョンについて、全日本探知犬協会の稲原代表理事にお話を伺いました。

日本に検疫探知犬が導入された経緯や育成のポイント、活躍の場、そして将来に向けた取り組みまで詳しく紹介します。
共立太郎 プロフィール写真

一般社団法人全日本探知犬協会 代表理事
有限会社関空ペット 代表取締役

稲原 康一

アメリカやオーストラリアで探知犬育成技術を学び、日本における探知犬・ハンドラー育成の第一人者として活動。現在は探知犬の育成や普及啓発を通じて、人と犬の共生・共働の推進に取り組んでいる。

全日本探知犬協会とは

― 一般社団法人 全日本探知犬協会の設立経緯について教えてください。

稲原康一代表理事(以下、稲原代表):
全日本探知犬協会のルーツは、1996年頃に遡ります。当時、日本にはまだ検疫探知犬がおらず、動物検疫所と有限会社関空ペットが協力しながら、海外の探知犬育成技術を日本へ導入する取り組みを始めました。

当初は、アメリカやオーストラリアの当局が認定する探知犬育成施設で技術を学び、そのノウハウを日本へ持ち帰る形でスタートしました。私自身も現地へ赴き、探知犬の育成技術を習得しています。

その後、日本国内でも探知犬の育成が進みましたが、いつまでも海外の技術に頼るだけではなく、日本独自の高品質な探知犬育成体制の確立と、探知犬やハンドラーの育成・普及啓発を目的として、2023年に全日本探知犬協会を設立しました。

現在は、有限会社関空ペットと株式会社フロントベルが協会の趣旨に賛同し、海外と同等レベルの探知犬育成を目指して活動しています。
 (9847)

動植物検疫探知犬に求められる能力とは

 (9848)


― 動植物検疫探知犬(以下、検疫探知犬)には、どのような能力が求められるのでしょうか。

稲原代表:
探知犬には、これまで紹介してきた検疫探知犬のほかにも、警察犬や爆発物探知犬などさまざまな種類があり、行動特性によって大きく「ダイレクト(自発的行動)」と「インダイレクト(受動的行動)」の2つのタイプに分けられます。

わかりやすく言うと、猟犬のように狩猟本能を活かして自ら目的のにおいを探し続けるのがダイレクトタイプです。一方、警察犬のように人から指示されたにおいを探すのがインダイレクトタイプとなります。

検疫探知犬に求められるのは、前者のダイレクトタイプです。

― なぜ検疫探知犬にはダイレクトタイプが適しているのですか。

稲原代表:
検疫探知犬は、広い空港や郵便局の中で漂っているにおいを探し、その発生源を見つけなければなりません。そのためには、犬自身が自発的に対象物を探そうとする意欲が重要になります。

犬の嗅覚は人間の100万倍とも言われていますが、その能力を最大限に発揮できるかどうかは犬の意欲次第です。

人から「あれを探して」「これを探して」と指示されるだけではなく、自ら獲物を探す感覚で行動することで、高い集中力を維持しながら探知活動を続けることができます。

そのため、私たちは自発的に探知行動を行うダイレクトタイプの育成を重視し、日本でも広く普及させたいと考えています。

検疫探知犬本来の能力を引き出し、高いレベルで活躍できる検疫探知犬を育成することで、防疫対策をはじめ、さまざまな分野で社会に貢献できると考えています。
▼対象物を隠したボックスを用いた探知訓練~段ボール編~

動植物検疫探知犬とは_訓練風景1

▼対象物を隠したボックスを用いた探知訓練~スーツケース編~

動植物検疫探知犬とは_訓練風景2

検疫探知犬の育成とハンドラー

 (9849)


― 現在、どのくらいの検疫探知犬が育成されていますか。

稲原代表:
現在育成している探知犬は全体では10頭ほどで、そのうち検疫探知犬として育成しているのは6頭です。

また、有限会社関空ペットとしては、これまでに100頭以上の検疫探知犬を育成し、年間あたり約10頭の検疫探知犬を現場へ送り出しています。

― 探知犬の育成にはどのくらいの期間がかかるのでしょうか。

稲原代表:
育成にはおよそ1年かかります。

生後3か月頃からトレーニングを開始し、9〜10か月ほど訓練を重ねます。探知犬として必要な能力を身につけた後、1歳前後で現場へ送り出しています。

― 検疫探知犬に適している犬種はありますか。

稲原代表:
代表的なのはビーグルです。嗅覚により狩猟してきた歴史があり、匂いに対する執着心が強い特性があります。体が比較的小さいため人に怖がられにくく、受け入れやすいため、海外の空港などでも多く活動しています。

また、ラブラドール・レトリバーも優れた適性を持っています。嗅覚による狩猟(回収)を行っていました。大型貨物を扱う施設など、高い場所まで機動的に動く必要がある現場では、その身体能力が大きな強みになります。盲導犬などで多くの方に知られているため、人に怖がれることが少ないです。

― ハンドラー(訓練士)とはどのような関係で活動しているのでしょうか。

稲原代表:
基本的には、1頭の検疫探知犬に対して1人のハンドラーが担当します。

犬はロボットではなく感情を持つ動物です。その能力を十分に発揮するためには、ハンドラーとの深い信頼関係が欠かせません。

犬にもそれぞれ性格や個性があるため、その特徴を理解しながら日々コミュニケーションを重ねることが重要です。
熟練したハンドラーであれば複数の犬を扱える場合もありますが、検疫探知犬も他の麻薬犬探知犬や警察犬たちと同じように基本的には1対1の関係が理想的だと考えています。世界のスタンダード的な考え方です。

現在、協会から認定を受けたハンドラーは約50名が現場で活動しています。

― 探知犬は何歳くらいまで活躍するのか教えてください。

稲原代表:
現役として活動するのは8歳程度が一つの目安です。

状態が良ければ9歳まで活躍する犬もいますが、年齢とともに体力や能力が低下するため、10歳まで現役で活動するケースはほとんどありません。

引退後は、それぞれ新たな環境で穏やかな生活を送っています。

検疫探知犬の活躍の場


― 育成された検疫探知犬は、どのような場所で活躍しているのですか。

稲原代表:
動植物検疫探知犬として育成された犬たちは、全国の空港や国際郵便施設などで活動しています。

空港や国際郵便局などで海外から持ち込まれる肉製品や農産物を探知し、日本の畜産や農業を守る水際対策の一翼を担っています。

― 全日本探知犬協会では、検疫探知犬以外の育成も行っているのでしょうか。

稲原代表:
はい。私たちは動植物検疫探知犬だけでなく、シロアリ探知犬や爆発物探知犬など、さまざまな探知犬の育成にも取り組んでいます。

また、行政機関や企業から相談を受け、それぞれの課題に応じた探知犬の育成を行うこともあります。

― 現在取り組んでいる新たな活用事例はありますか。

稲原代表:
例えば、様々な外来生物を探知する犬の育成について相談を受けています。また、愛知県からは野生イノシシを探し出す探知犬を育成できないかという相談もいただいています。

豚熱に感染して死亡したイノシシを早期に発見できれば、ほかの個体への感染拡大を防ぐことにつながる可能性があります。

このように、探知犬の能力は検疫だけにとどまらず、防疫や環境保全など幅広い分野で活用できる可能性を秘めています。

全日本探知犬協会が目指す未来

 (9850)


― 全日本探知犬協会の今後の目標やビジョンを教えてください。

稲原代表:
私たちは、自発的に探知行動を行う「ダイレクトタイプ」の探知犬が、今後さらに社会に貢献できると考えています。

現在活躍している動植物検疫探知犬やシロアリ探知犬、爆発物探知犬だけでなく、これまでにない新たな分野でも探知犬の能力を活用できる可能性があります。探知犬には、機械では代替できない優れた能力があるのです。

例えば、肉製品のにおいを検知するセンサーを設置した場合、過去に肉が置かれていた場所の残臭にも反応してしまい、警報が鳴り続ける可能性があります。

一方で、探知犬は残臭と実際に存在する対象物のにおいを嗅ぎ分けることができます。こうした能力は現在の機械では再現が難しく、探知犬ならではの大きな強みだと考えています。

今後は、機械にはできず犬だからこそできる分野をさらに広げ、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。

新着記事はメルマガでチェック!
登録はこちら

畜産ナビでは新着記事の更新やウェビナーの開催情報等をメール配信にてご案内しています。
ぜひメール配信サービスをご利用ください!