養鶏におけるサルモネラについて

前回は、サルモネラという菌はどのようなものか、血清型とは、主な血清型と症状についてお話ししました。今回のテーマは「養鶏におけるサルモネラについて」です。
養鶏におけるサルモネラ感染経路とサルモネラ感染によって起こる問題、対策の難しさについてお話していきます。

鶏のサルモネラ症

鶏をはじめとした家きんに症状を起こすサルモネラの種類は、実は多くありません。家畜伝染病に指定されている「ひな白痢」や「家禽チフス」の原因となるサルモネラ・ガリナルムという血清型のサルモネラもありますが、国内では2005年のひな白痢の摘発事例以降に発生はなく、現在は大きな問題とはなっていません。

サルモネラは、口から消化管に入り、腸管内で定着・増殖することで「感染」が成立します。しかし、感染を起こしても、症状を起こさないことがあります。病原性の弱い血清型であること、感受性のあまり強くない動物であること、感染した動物の免疫状態が良好であることなどのさまざまな理由が考えられます。たとえば、サルモネラ・エンテリティディスやティフィムリウムは、免疫の未発達なヒナや、強制換羽後など免疫状態の悪い成鶏に感染するとサルモネラ症を起こすこともありますが、健康な成鶏では症状を起こすことはほとんどありません。いわゆる不顕性感染です。では、どのような経路で農場の鶏がサルモネラに感染し、なぜそれが問題になるのでしょうか。

鶏のサルモネラ感染経路について

①水平感染
水平感染とは、鶏から、同居する鶏に感染が伝播することをいいます。感染鶏の糞便にはサルモネラが排出されるため、糞便中のサルモネラが、床やケージ・鶏の体表・エサ樋やニップルなどに付着してしまいます。感染していない鶏が、その菌を消化管内に取り込むことによって、感染を拡げていきます。

②垂直感染(In Egg感染とOn Egg感染)
垂直感染とは、親から子へ病原体が感染する感染様式のことを言います。鳥類では、特に卵を介することから「介卵感染」とも呼ばれます。産んだ卵にサルモネラが入り込むことで、卵の中のヒナがサルモネラに感染した状態で生まれてくることをいいます。
では、どのように卵の中にサルモネラが入り込むのでしょうか。卵の中にサルモネラが入り込むためには2つの経路があります。ひとつは、「In Egg感染」です。In Egg感染とは、親鶏の体内で卵が形成する過程で、サルモネラが卵の中に入り込むことによって起こります。親鶏の腸管内に常在していたサルモネラが、腸管粘膜から血中に移行し、血流を介して卵管内に侵入することによって起こる感染です(図1)。卵殻を形成したときに、サルモネラを含んだ卵黄と卵白を囲い込んでしまうことになります。
もうひとつが、「On Egg感染」です。これは、産卵後、卵の表面に付着したサルモネラが、卵殻を通過して中に入り込むことによって起こります(図2)。

図1. In Egg感染

図2. On Egg感染

なぜ鶏のサルモネラ感染が問題なのか

このような経路で侵入したサルモネラが食用の卵に含まれていると、食中毒の原因となることがあります。しかし現在では、農場の衛生管理向上による卵自体のサルモネラ汚染率の低下、食用の卵は流通される前にしっかり洗浄・消毒されることから、日本国内では卵の生食によるサルモネラ食中毒のリスクは非常に低いものになっています。

採卵鶏や肉用鶏のコマーシャル農場に向けてヒナを生産販売する孵卵場においては、サルモネラのIn Egg感染を起こした卵があると、孵卵器での死卵・爆発卵(卵が腐敗し、ガスが溜まって破裂する卵)の原因になることがあります。あるいは、サルモネラに感染したヒナが孵化すると、孵化後数日でサルモネラ症を発症したり、発症しなくても虚弱な状態のまま、サルモネラを排菌しつづけて農場汚染(水平感染)の原因になってしまったりすることがあります。そのため、直接的に畜産物を生産しない種鶏場においても、サルモネラ対策には非常に気を使っています。

なぜサルモネラ対策が難しいのか

養鶏場にかかわらず、サルモネラが一度農場に入ってしまうと、サルモネラを清浄化するために多大な労力と時間が必要になります。それは、サルモネラが以下のような非常にやっかいな性質を持つことが理由です。

理由①宿主域が広く、世界中どこにでも分布している
前回の記事でもご説明したように、サルモネラには数多くの種類があり、様々な動物に感染し増殖することができます。動物の腸管中だけではなく、土壌や水場など世界中の自然環境中にも広く存在しています。農場への侵入ルートとしては、鶏の移動、ヒトや器材による持ち込み、カラスやネズミなどの野生動物やハエなどの昆虫による持ち込みなどが考えられます。

理由②環境中の生存性が高い
サルモネラは、乾燥した状態でも数週間、水中で数カ月間生存することがわかっています1)。特に土壌中や糞便中のような栄養豊富な環境であれば、数カ月~数年間生存が可能です。
温度は7℃から45℃程度まで、pHも3.8~9.5の範囲で増殖が可能と、広範囲な環境条件で増殖することができます2)

理由③増殖が早い
サルモネラは、血清型等にもよりますが、増殖に適した条件下では、およそ20~30分で分裂増殖します3)。つまり、1個の菌が1時間で4~8倍に増殖するため、半日~1日で数百万から数十億個に増殖します。たとえば消毒で99.9%の菌を死滅させたとしても、栄養分と水分さえ十分にあれば、数時間で元の数に戻ることができるわけです。

理由④不顕性感染と無症状排菌
不顕性感染を起こしている鶏は、見た目には健康な鶏ですが、サルモネラが腸管内に定着した状態で、サルモネラを糞便中に排出しつづけます。そのような個体を「キャリア」と呼びます。キャリアが農場に存在しているかぎり、農場をサルモネラで汚染させていくことになります。見た目では健康な鶏と変わらないため、キャリアの鶏だけを排除する、ということが非常に難しいのです。また、キャリアの鶏では、強制換羽後などのストレス状態や腸内環境の悪化によって、腸管内に定着しているサルモネラの数が増加することがあります。この状態では、発症には至らなくても、通常より多くの菌を糞便中に排出することがあります。

理由⑤生体の免疫から逃れるシステムを持つ
サルモネラは、細胞内寄生相変異といった免疫から逃れるシステムや性質を持つため、感染した鶏が、自らの免疫で完全に体内から菌を排除することが難しいのです。免疫から逃れる仕組みについては、前回の記事で詳しくご説明しましたので、そちらもご一読いただけると幸いです。

おわりに

今回は、養鶏におけるサルモネラの問題と感染経路、サルモネラ対策の難しさについてお話しました。次回は、養鶏場において実践できる具体的な「養鶏場におけるサルモネラ対策」についてお話していきたいと思います。
【出典および参考】
1) 厚労省検疫所HP サルモネラ(チフス以外)について (ファクトシート)(2017年)
 https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2017/01061306.html
2) 食品安全委員会. 食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ 鶏卵中のサルモネラ・エンテリティディス ~(2010年)
 https://www.fsc.go.jp/sonota/risk_profile/risk_salmonella.pdf
3) Silva et.al. Validation of a predictive model describing growth of Salmonella in enteral feeds. Braz J Microbiol. 2009 Mar 1;40(1):149–154.