おさらいしよう!微生物のキホン(第2回:細菌の基礎編)

おさらいしよう!微生物のキホン(第2回:細菌の基礎編)

農場を悩ませる感染症の原因はウイルスだけではありません。第2回の今回は「細菌の基礎編」になります。
(第1回の「ウイルスの基礎編」はページ下部のリンクからご覧ください。)

細菌とは?

 様々な種類の細菌が、海や川、土の中などあらゆる環境に存在しています。人間や動物の中にも細菌はいて、その大半は無害ですが、一部は病気(感染症)を引き起こし、農場を悩ませます。
 さて、具体的に細菌の正体を見ていきます。人間や家畜のような「動物」とは何が同じで、何が違うのでしょうか。
 第1の違いは、「体を作る細胞の数」です。細菌は「単細胞生物(=1つの細胞でできた生き物)」ですが、動物は「多細胞生物(=たくさんの細胞から成る生き物)」です。動物は細菌よりも体を構成する細胞の数が桁違いに多いので、体の大きさも桁違いです。
 具体的に比較します。細菌の大きさは約1μm(マイクロメートル)程度で、一般的な顕微鏡で観察可能です(図1)。動物の細胞は(様々な種類がありますが)その10倍程度の大きさです。動物と細菌では細胞の大きさからして違いますので、それが何兆個も集まってできた動物の体は、細菌とは比較にならないくらい大きいという訳です。
図1. 大きさの比較(1目盛りで大きさが10倍違います)

図1. 大きさの比較(1目盛りで大きさが10倍違います)

 そして第2の違いは、「体を作る細胞の種類」です。細菌の体は「原核細胞」、動物の体は「真核細胞」という、それぞれ別の種類の細胞でできています。
 まとめると、細菌とは「動物とは細胞レベルで異なる、1つの細胞でできたとても小さな生物」なのです。
 ちなみに、同じく感染症の原因となるウイルスの体は、「細胞」とはまた異なる、独自の構造をしています。大きさは細菌の10~100分の1程度です(図1)。細菌は小さくとも動物と同じれっきとした「生物」ですので、細胞を持たないウイルスとは違い、環境が整えば自分だけで増殖し、生きるために必要なものを自分で生み出せます。
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細菌の構造

 「細菌の細胞」と「動物の細胞」は種類が違う、というお話をしましたが、具体的には何が違うのでしょうか。以下で細菌の構造を見ていきましょう(図2)。
図2. 細菌の構造

図2. 細菌の構造

図3. 動物の細胞の構造

図3. 動物の細胞の構造

細菌が持つ代表的な部品(=細胞小器官)について簡単に説明します。
・核様体(かくようたい):
 生物の設計図であり、DNAでできている。
 細菌が生きるために必要な情報が記録されている。
・リボソーム:
 タンパク質をつくる工場(粒)。
・細胞壁:
 細胞を外側から覆う固い壁。

細菌と動物の細胞(図3)を比べると、以下の違いがあります。
・「細菌」と「動物の細胞」に共通する部品:
 リボソーム、DNA など
・「動物の細胞」しか持っていない部品:
 ミトコンドリア など
・「細菌」しか持っていない部品:
 細胞壁、プラスミド など
一番の大きな違いは「細菌には細胞壁がある」という点です。
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細胞壁について

 細胞壁は細菌を知る上で特に重要な構造です。「グラム陽性菌」や「グラム陰性菌」という言葉を聞いたことはありませんか?細菌は細胞壁の構造によって、大きくこの2つに分類できるのです​。
 どういうことかと言うと、細菌を区別する方法として「グラム染色」という細菌を染める検査があるのですが、これは細胞壁の構造によって染まり方に違いが出ます。細胞壁の構造は2種類に分けられるため、染まり方も「陽性」と「陰性」の2パターンに分かれるのです。
 それぞれの特徴を簡単に説明します(図4)。
 ・グラム陽性菌の細胞壁:壁(ペプチドグリカン層)が厚い。
 ・グラム陰性菌の細胞壁:壁(ペプチドグリカン層)が薄く、最外層に外膜と呼ばれる構造を持つ。
図4. 細胞壁の構造(簡略化したもの)

図4. 細胞壁の構造(簡略化したもの)

 グラム陰性菌が持つ外膜は脂質でできているため、水溶性の物質をはじく性質があります。実は、これは抗菌薬の効きやすさに関係しています。また、外膜には毒性のある成分もあります。
 ちなみに細菌であるにもかかわらず、細胞壁自体を持たない例外的な菌もいます。マイコプラズマです。

細菌の生存戦略について

 細菌には、それぞれ「生きるのに適した環境」があります。具体的には、菌の種類によって発育できる温度、酸素濃度などに違いがあります。例えば、増殖するのに酸素が必要な菌もいますし(呼吸器病を起こす結核菌など)、逆に酸素があると死ぬ菌(破傷風菌など)もいます。大腸菌やサルモネラは、酸素があってもなくても増殖できます。
 また、細菌は厳しい外部環境(栄養不足など)に耐えるための形態をとることがあります。代表的なものとして「芽胞(がほう)」と「バイオフィルム」があります。
 「芽胞(がほう)」は、栄養不足や周囲の環境の悪化により、細菌が変化した姿です。植物の種のような姿になることで、DNAやリボソームなどの生きるのに必要な部品を守ります。これにより、通常では細菌が死滅してしまうような高温や乾燥にも耐え、消毒薬も効きづらくなります。芽胞となった細菌は、水分や温度、栄養などの周囲の環境が整うと元の姿に戻って増殖を始めます。ちなみに、芽胞を作るのは一部の細菌だけです。代表的な菌は、クロストリジウム属やバシラス属です。
 「バイオフィルム」は、固体・液体表面に集団で固まった細菌が、菌体を保護する物質を覆うように分泌して形成するものです。バイオフィルムは乾燥に強く、消毒薬や抗菌薬も効きづらいのが特徴です。バイオフィルムを形成する細菌としては黄色ブドウ球菌が有名です。
 さて、連載第2回目の今回は細菌についてお話ししました。細菌はれっきとした生き物ではありますが、動物とはまた随分違った生き物ですね。
 次回の第3回は、これまでお話ししたウイルス・細菌の話を踏まえて「感染症対策」についてお話しします。ぜひご覧ください。
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