抗菌薬ってどんな薬?[後編]系統ごとの特徴

抗菌薬ってどんな薬?[後編]系統ごとの特徴

畜産現場で使われる薬のひとつに、「抗菌薬」があります。これらは細菌に効く薬ですが、様々な系統・種類がありその作用や効果もそれぞれです。前回は抗菌薬の基本についてお話ししました。後編の今回は、畜産でよく使われる系統ごとの特徴を見ていきたいと思います。

βラクタム系

βラクタム系は、さらにペニシリン系とセフェム系に大きく分けられます。どちらもβラクタム環という構造を持つためまとめてこのように呼ばれるのです。
βラクタム系の作用は殺菌性で、細胞壁合成阻害によってはたらきます。また、時間依存性の薬剤になります。
ペニシリン系ではペニシリン、アンピシリン、アモキシシリンなどがあります。
セフェム系は開発された時期や抗菌スペクトルによって、第1世代~第4世代に分類され、動物用としては第1世代のセファゾリンや、第3世代のセフキノムなどが使われています。第3世代のセフェム系は第二次選択薬に指定されていますので、他の抗菌薬が無効な場合のみ使用してください。

※第二次選択薬とは、人の医療上重要な抗菌薬について、薬剤耐性菌が選択されにくくする目的で他の抗菌薬が無効な場合にのみ使用するよう定められています。フルオロキノロン系や第3世代のセフェム系、コリスチンなどが該当します。

キノロン系

キノロン系は核酸合成阻害によってはたらき、殺菌作用をもつ系統です。濃度依存性に分類されます。組織移行性が良く、臓器に広く分布します。また抗菌スペクトルは広いです。
開発された時期と構造の違いによって、オールドキノロン、フルオロキノロンなどと分類されることもあります。畜産ではマルボフロキサシン、オルビフロキサシン、エンロフロキサシンなどが使われています。

マクロライド系

マクロライド系もスペクトルは広い方でマイコプラズマにも効果がありますが、グラム陰性菌には効きにくいです。
作用は静菌性で、タンパク合成阻害によってはたらく、時間依存性の薬剤です。
マクロライド系の代表的な薬剤としては、タイロシンやチルミコシンがあります。

テトラサイクリン系

テトラサイクリン系は抗菌薬の中でも広いスペクトルを持つことが特徴です。グラム陽性菌やグラム陰性菌だけでなく、マイコプラズマなどにも効果を示します。幅広く作用する反面、テトラサイクリン系の抗菌薬は細菌に耐性を獲得されやすいという問題もあります。
作用は静菌性で、タンパク合成阻害によってはたらく、時間依存性の薬剤です。
経口投与した際の吸収性に優れていることも特徴で、組織への移行性、細胞内への移行性にも優れています。
テトラサイクリン系の代表的な薬剤としては、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、ドキシサイクリンなどがあります。

チアンフェニコール系

チアンフェニコール系もスペクトルは広い方で、グラム陽性菌、陰性菌だけでなくマイコプラズマにもスペクトルがあります。作用は静菌性で、タンパク合成阻害によってはたらく薬剤です。
チアンフェニコール系の代表的な薬剤は、チアンフェニコールやフロルフェニコールがあります。

ST合剤

ST合剤は、サルファ剤とトリメトプリムの合剤です。頭文字を取ってST合剤と呼ばれます。サルファ剤とトリメトプリムはどちらも、葉酸合成阻害によって作用します。
詳しく説明すると、細菌は葉酸を使ってDNAを合成しますが、この葉酸の合成過程を阻害するのがST合剤です。
サルファ剤は、パラアミノ安息香酸がジヒドロ葉酸に変わる過程を阻害、トリメトプリムはその後でジヒドロ葉酸をテトラヒドロ葉酸に変える役割を持つ、ジヒドロ葉酸還元酵素のはたらきを阻害します(図)。

図:ST合剤の作用機序

図:ST合剤の作用機序

サルファ剤とトリメトプリムの作用機序が異なるため、合剤として使うことで相乗効果が期待できるというわけです。

おわりに

今回は、抗菌薬の系統ごとの特徴をお話ししました。それぞれの特徴をおさえて適正に使用していただくことが、家畜の健康を守ること、畜水産物の安定的な生産につながります。

※動物用医薬品をご使用される際には、各製品添付文書をよく読んでご使用ください。また、抗菌薬は獣医師の指示に従ってご使用ください。
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