おさらいしよう!微生物のキホン(第1回:ウイルスの基礎編)

おさらいしよう!微生物のキホン(第1回:ウイルスの基礎編)

突然ですが、皆様は「ウイルスと細菌の違いは何か?」と聞かれたとき、なんと答えるでしょうか。……説明しようとすると、意外と上手く言葉にできない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
農場では感染症対策が重要な課題の一つとなっています。感染症を引き起こす「微生物」について、正体を知ることでより適切な対策を講じることができると思います。
そこで今回は「微生物」、特に【ウイルス】と【細菌】について、基本的な知識を3回に分け、改めておさらいしていきます。第1回の今回は「ウイルスの基礎」について、第2回は「細菌の基礎」について、最後の第3回はウイルスと細菌を比較しながら「感染症対策」についてお話いたします。
この3回の連載を読めば、どうしてこの消毒剤や抗菌薬を使うのか?ワクチンがどう効いているのか?など、感染症対策への理解がより深まることと思います。

ウイルスとは?

ウイルスは簡単に言うと「生きた細胞内のみで増殖する、とても小さな粒子」です。粒子という言葉を使ったのは、ウイルスは場合によっては「生物」ではないと見なされることがあるからです(この場合の生物とは、細胞で構成される生命体のことを指します)。何故なら、我々の人間の体を構成するような細胞とは違い、ウイルスは自分だけで増殖することができないからです。どういうことかと言いますと、ウイルスが増殖するためには、細胞の中に侵入し、中にある「細胞が活動したり増殖したりするために必要な道具(=細胞小器官)」を借りる必要があるのです。しかも、その道具は細胞の中で「使える状態」でないといけません。つまり、生きて活動している細胞の中でないとウイルスは増殖できないのです。
細胞の生命活動に便乗して増殖する粒子、これがウイルスです。
ちなみに大きさはおおよそ20~300nm(ナノメートル)と非常に小さく、普通の顕微鏡では見ることすらできません。人間の細胞(様々な種類がありますが約20μm(マイクロメートル)程度)と比較すると、約1000倍程度大きさが異なります。これは人と山ぐらいの差がありますので、ウイルスが細胞の中に入るのは、人間が山の中に入るのと同じようなスケール感になります。
このようにウイルスは非常に小さいため、姿を確認するには電子顕微鏡という特殊な機械が必要です。
図1 大きさの比較

図1 大きさの比較

ウイルスの構造

では、ウイルスの構造を見ていきましょう。
図2 ウイルスの模式図

図2 ウイルスの模式図

図3 動物細胞の模式図

図3 動物細胞の模式図

構造自体はとてもシンプルです(図2)。「カプシド」と呼ばれるタンパク質でできた殻の中に、遺伝情報を記録している「核酸」が入っています。これはウイルスの設計図と考えてください。核酸には二種類あり、一つは壊れにくく細胞の核に遺伝子として使われる「DNA」、もう一つは不安定で変化しやすい「RNA」です。細胞(図3)ではDNAとRNA両方の核酸を利用していますが、ウイルスの場合はこの内のどちらかしか持っていません。
ウイルスの種類によっては、「カプシド」の外側を「エンベロープ」と呼ばれる脂溶性の膜が覆っています。これは細胞膜と同じ成分で出来ています。一方で、エンベロープを持たないウイルスもおり、アデノウイルスやサーコウイルス、パルボウイルスなどが代表例です。
以上が基本的なウイルスの構造になります。単純な構造をしているからこそ、増殖するのに他の生物の手を借りる必要があるのです。

ウイルスの増殖の仕方

では具体的にウイルスはどのように細胞へ侵入し、増殖するのでしょうか?
図4 ウイルスの増殖過程

図4 ウイルスの増殖過程

上に、ウイルスが細胞へ侵入してから中で増殖し、細胞の外へ出てくるまでの様子を図で示しました。順を追ってみていきましょう。
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ここで特に注目したいのは①吸着​です。この段階をよりミクロな視点で見ると、ウイルス表面上のタンパク質(=リガンド)が、細胞の受け皿(=レセプター)にはまる形になります。この時、リガンドとレセプターの形が合わないと、ウイルスは細胞に吸着できず、その先のステップへ進めず、増殖できません。リガンドを「鍵」、レセプターを「鍵穴」と考えてください。形の合わない鍵では細胞に侵入する扉を開くことができないイメージです。実は、ここがウイルス感染のポイントになってきます。
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リガンドやレセプターの形はウイルスの種類や宿主となる動物の種類、臓器によって異なる場合があります。ウイルスによって、どの動物・どの臓器の細胞に感染できるのか異なるのは、こういう理由からです。
また、リガンド自体がなくなったり、リガンドの形が変わったりすれば、ウイルスは細胞に吸着できません。例えば、エンベロープを消毒薬で壊したり、リガンドに抗体を結合させたりすると、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐことができます。

いかがでしたでしょうか?
ウイルスが「実は生物として扱われないこともある」というお話に驚かれた方もいるのではないでしょうか。我々人間とは全く異なる「粒子」であるウイルスの正体を知ることで、感染症とその対策に関する知識の深化にお役立ていただけていれば幸いです。
第2回の次回は「細菌の基礎」についてお話いたします。