サルモネラとは ―血清型と病原性について―

サルモネラとは ―血清型と病原性について―

「サルモネラ」という菌の名前はみなさん聞いたことがあると思います。サルモネラは、ヒトの食中毒や、家畜に病気を起こす「人獣共通感染症」の原因となる菌としてよく知られています。今回は、そのサルモネラについてお話ししていきます。
なお、記事をお読みいただく前に、畜産ナビ記事「おさらいしよう!微生物のキホン(第2回:細菌の基礎編)」もあわせて読んでいただくとより理解が深まると思いますので、ぜひご一読ください。

サルモネラとは

サルモネラは、大腸菌などの仲間の腸内細菌科に分類される菌です。
サルモネラは牛や鶏・豚などの家畜や、野鳥・ネズミなどの野生動物の腸管内に広く存在しています。ヒトの食中毒などの感染症、家畜に大きな被害をもたらす家畜感染症を引き起こす、公衆衛生上・家畜衛生上の両面で、世界的に重要な病原体のひとつです。

サルモネラは、「サルモネラ・エンテリカ」「サルモネラ・ボンゴリ」の2種に大別され、さらに「血清型」と呼ばれる分類により、2,500種類以上に細かく分けられます。この血清型の違いによって、発症する動物種や、起こす症状などがまったく異なりますので、血清型による分類は非常に重要です。たとえば、ヒトや家畜に下痢などを起こすことで知られている、「サルモネラ・ティフィムリウム」という菌があります。この菌名を正確に表記すると「サルモネラ・エンテリカ・サブスピーシーズ・エンテリカ・セロバー・ティフィムリウム」となります。このままでは長くて読み書きが大変なので、「サルモネラ・ティフィムリウム」という呼びかたをするのが一般的です。
図1 サルモネラの構造

図1 サルモネラの構造

サルモネラの構造は、(図1)のようになっています。血清型は、菌の本体部分の「O抗原」
と、鞭毛(べんもう)と呼ばれる運動器官の「H抗原」の組み合わせの型によって決定されます。
(図2)
図2 サルモネラの菌種名と記載法のルール

図2 サルモネラの菌種名と記載法のルール

鞭毛は、表面の構造(抗原性)を変化させることにより、免疫から逃れるシステムを持っています。これを「相変異」と呼びます。H抗原には第Ⅰ相と第Ⅱ相の2種類があり、これは言ってみればリバーシブルの服のようなものです。Ⅰ相に対する免疫を作った宿主に対して、Ⅱ相に着替える(相変異する)ことによって免疫から逃れることができる仕組みです。(図3)
図3 相変異によって免疫から逃れる仕組み

図3 相変異によって免疫から逃れる仕組み

またサルモネラには、細胞内に入り込むことのできる「細胞内寄生」という性質があり、これによって血流に乗って全身に運ばれたり、免疫細胞や抗体から逃れたりすることができます。

このように、サルモネラはさまざまな手段を使って宿主の免疫から逃れ、生体内での生存率を高めています。

抗原と抗体による免疫については畜産ナビ記事「やさしい免疫のおはなし」シリーズを読んでいただくとよりスムーズに理解ができると思いますので、そちらもぜひご一読ください。

サルモネラの血清型

それでは、サルモネラの血清型はどのように調べているのでしょうか。少し専門的な話になるので、難しいと思った方は、本項目を読み飛ばして「3.ヒトと家畜のサルモネラ症」に移動していただいても問題ありません。

前の項目で、「O抗原とH抗原の組み合わせで決まる」とお伝えしました。これは、O抗原、H抗原の型を、抗血清を用いた抗原抗体反応によって調べることができます。

サルモネラ・ティフィムリウムは血清型で「O4:i:1,2」あるいは「O4:i:-」と表現します。何やら暗号のようですが、「O4」の部分がO型、以降の部分がH型を示しています。H型はさらに、Ⅰ相・Ⅱ相それぞれの血清型を表しています。O型、H型Ⅰ相、H型Ⅱ相の間には、それぞれ「:(コロン)」を入れて表記するのがルールです(図3)。血清型によっては、複数の抗血清に反応するものがあったり(g,mや1,2のように併記)、H抗原のⅡ相のないもの( - と表記)があったりします。
図4 サルモネラの血清型の記載法のルールと血清型名

図4 サルモネラの血清型の記載法のルールと血清型名

血清型にはそれぞれ対応した血清型名がつけられ、多くは初めて見つかった地名が由来になっています。
すべての血清型はデータベースに記載¹⁾があり、一覧表に照らし合わせて血清型名を調べることができます。

検出されたサルモネラについて、O抗原とH抗原がどの型にあたるのかを総当たりで調べようとすると非常に大変なのですが、検出される型はおおむね限られますので、症状や発生状況から、ある程度はあたりをつけて調べられる場合がほとんどです。また近年では、主要な血清型であれば、遺伝子検査(PCR法)によって調べることもできるようになっています。

ヒトと家畜のサルモネラ症

それでは、どのような血清型が、どの動物種に、どのような症状を起こすのかについて見ていきましょう。下の表に、代表的な血清型を挙げました。(表1)
(表1)代表的なサルモネラの血清型名と症状

(表1)代表的なサルモネラの血清型名と症状

このように、血清型によっては、ある特定の動物種にのみ症状を引き起こす血清型もあれば、ヒトや家畜に広く症状を引き起こす血清型もあることがわかります。また、上の表に挙げた代表的なサルモネラは比較的病原性の強い血清型ですが、血清型によってはほとんど症状を引き起こさないものもあります。

感染する動物かどうか、どのような症状を示すか、その病原性の強さは、

・サルモネラが体内に侵入したあとに定着・増殖できるかどうか
・体内のどこに運ばれてどこで増殖するか
・宿主の免疫から逃れることができるか
・増殖の速さ
・増殖したときの周囲組織のダメージ

などの要素によって異なると考えられています。
サルモネラは、黄色ブドウ球菌などの食中毒菌とは異なり、毒素を体内で産生して症状を引き起こす菌ではありません。サルモネラ自体が、体内の組織で増殖するときに炎症を起こし、周囲の組織を破壊することによって病原性を示します。
サルモネラの感染は、生きたサルモネラに汚染された食物や飼料、水などを経口摂取することで起こります。ブドウ球菌などによる食中毒や、カビ毒による飼料の汚染などと異なり、加熱や消毒によってサルモネラが殺菌されていれば、感染を防ぐことができます。

おわりに

今回は、サルモネラとはどのような菌なのか、どのような種類があってどのような症状を起こすのか、について基本的なことから、少し専門的なことまでお話ししました。サルモネラの対策にあたり、まずはサルモネラとはどのような菌であるかを知っておいていただければと思います。次回から「鶏におけるサルモネラとその対策」についてお話していきます。


【参考文献】
¹⁾ Antigenic Formulae of the Salmonella serovars, (9th ed.) Paris: WHO
Collaborating Centre for Reference and Research on Salmonella
 (6619)



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