続・抗菌薬ってどんな薬? 薬剤耐性について[前編]

これまでに畜産ナビでは「抗菌薬ってどんな薬?」と題し、前編では「抗菌薬の基本」について、後編では「系統ごとの特徴」についてご紹介しました。今回はその続編ということで、薬剤耐性について取り上げ、薬剤耐性の基礎的なお話から現状とその対策、使用するにあたっての注意点について3回に分けてご紹介していきます。
前編は薬剤耐性の基礎ということで、薬剤耐性が生じるメカニズムと畜産における薬剤耐性の問題、加えて薬剤耐性にまつわるキーワードについて解説します。

薬剤耐性とは

抗菌薬は細菌を殺滅、あるいはその発育を抑制する薬剤の総称で、広く細菌感染症の治療に応用されてきました。このような中、従来の抗菌薬が効かない、または効きにくい性質を持つ細菌が出現し、その性質を「薬剤耐性」、その性質を有する細菌のことを「薬剤耐性菌」と呼んでいます。
薬剤耐性が生じる要因としては、抗菌薬の「不適正使用」が指摘されがちですが、それだけではありません。実は抗菌薬の使用自体が薬剤耐性を生じさせる原因です。つまり、抗菌薬を使用し続ける限り薬剤耐性の問題がなくなることはなく、「適正使用」および「慎重使用」に努めることでその出現を最小限に抑えるよりほかはありません(表1)。
適正使用 抗菌剤の用法・用量を遵守し、使用上の注意をよく読んで正しく使用すること
慎重使用 使用すべきかの判断を含めて抗菌剤を必要なときに適正使用することで最大の治療効果を上げ、薬剤耐性菌の出現を最小限に抑えること

表1. 抗菌剤の適正使用および慎重使用

出典:薬剤耐性菌についてのQ&A 第二版
https://www.maff.go.jp/nval/tyosa_kenkyu/taiseiki/pdf/taiseikin_q_a_20100107.pdf
農林水産省 動物医薬品検査所 検査第二部抗生物質製剤検査室

参考:動物用抗菌剤の『責任ある慎重使用』を進めるために
https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/pdf/vet_panf_prudent_use.pdf
(農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課)

薬剤耐性のメカニズム

ここでは薬剤耐性がなぜ、またどのようにして生じるのかをみていきたいと思います。

薬剤耐性はなぜ生じる?

抗菌薬の使用はなぜ薬剤耐性の原因となるのか、その答えは生物の進化と同様の「淘汰による選択」です。つまり、突然変異で生じた薬剤耐性の性質を持つ細菌に抗菌薬使用という選択圧が加わることで、薬剤耐性の遺伝子を持った細菌が選択され、一方、その遺伝子を持たない細菌は死滅していきます。その結果、耐性遺伝子を持つ細菌が優勢となります。生物の進化では環境等の変化が淘汰圧となり(自然淘汰)、選択されていきますが、薬剤耐性の場合は人的な要因、つまり、抗菌薬の使用により薬剤耐性が選択されます。

薬剤耐性はどのようにして生じる?

では、どのようにして薬剤耐性の性質が発現するのでしょうか。そのメカニズムについてはいくつかの様式に分類されます。以下に代表的なものを紹介します(図1)。

図1. 細菌の薬剤耐性メカニズム

① 抗菌薬の活性を失わせる
抗菌薬を分解する酵素を産生し、その活性を失わせることで薬剤耐性を示すようになります。
② 抗菌薬が作用する部分の構造を変える
抗菌薬の標的となる部分の構造を変化させ、その作用を受けなくすることで薬剤耐性を示すようになります。
③ 抗菌薬を菌体外に排出する
菌体内に取り込まれた抗菌薬を効率よく外に排出することで、菌体内の抗菌薬濃度を低下させ、薬剤耐性を示すようになります。
④ 抗菌薬が菌体内に入りにくくする
抗菌薬が菌体内に取り込まれにくくすることで、菌体内の抗菌薬の濃度を低下させ、薬剤耐性を示すようになります。

参考:動物⽤抗菌剤の『責任ある慎重使⽤』を進めるために
https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/pdf/vet_panf_prudent_use.pdf
(農林⽔産省消費・安全局畜⽔産安全管理課)

薬剤耐性にまつわるキーワード

交差耐性

交差耐性とはある薬剤に対して耐性が形成された際、その薬物と類似の構造の薬剤に対しても耐性が生じる現象のことで、主に同じ系統の異なる薬剤に対して耐性を示します。

多剤耐性

多くの抗菌薬に対して耐性を示すことです。その性質を有する細菌のことを多剤耐性菌といい、効果のある抗菌薬の種類が少なくなるため、治療が困難となります。代表的なものとして、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などが挙げられます。

重要な抗菌薬:第2次選択薬

第2次選択薬は他の抗菌剤が無効な場合のみ使用することのできる抗菌剤です。抗菌薬成分の中には人と動物の医療の両方で使われているものがあり、動物で生じた薬剤耐性菌が人の方へ伝播した場合、人における治療を困難にする可能性があります。そのため、人の医療上重要な、つまり、特に薬剤耐性菌を生じさせたくない抗菌薬が第2次選択薬に指定されています。
具体的にはフルオロキノロン系抗菌薬(エンロフロキサシンやマルボフロキサシンなど)や第三世代セファロスポリン系抗菌薬(セフキノムやセフチオフルなど)、15員環マクロライド系抗菌薬(ツラスロマイシンなど)、コリスチンが該当します。一方、第2次選択薬以外の抗菌薬は第1次選択薬に該当し、初期の治療から使用することが可能です。

おわりに

抗菌薬は獣医療において無くてはならない薬となっています。このことは人の医療においても同じで、薬剤耐性菌は両分野において感染症治療を困難にしているとても重要な問題です。薬剤耐性は人と動物、加えて環境の健康が相互に関係していることから、その対策についてはワンヘルス・アプローチの考え方を踏まえた施策が推進されています。そこで次回(中編)では薬剤耐性の対策についてご紹介したいと考えています。