夏の乳牛の栄養管理をもう一度見直してみませんか? ~ヒートストレスの影響と栄養管理について~

夏の乳牛の栄養管理をもう一度見直してみませんか? ~ヒートストレスの影響と栄養管理について~

地球温暖化が進行しており、牧場を経営されている皆さんの地域でも夏の気温が年々上昇しているのではありませんか?高温によるヒートストレスは乳産生に大きな影響を与えます。今回はヒートストレスの影響を受けやすい乳牛の暑熱対策についてご紹介します。

ヒートストレスとは?

気温と湿度の上昇によって牛が不快になる状況をヒートストレス(暑熱ストレス)と呼びます。気温と湿度から計算される不快指数(THI)が72を超えると牛はヒートストレスを感じ始めます。

 不快指数(THI)=0.81×気温(℃)+0.01×湿度(%)×(0.99×気温-14.3)+46.3
 THI≧72とは、気温24℃、湿度70%、以上の状態です。

牛はヒートストレスを感じると代謝変化を起こし、体温調整機能やルーメン機能が低下して、体温上昇や食欲減退の症状を示します。その症状は乳量低下や繁殖不良につながっていきます。

ヒートストレス時のルーメン環境の悪循環

ヒートストレスを受けた牛は体温の上昇を防ぐために体内(特にルーメン)で発生する熱を体外に発散させる代謝を行います。呼吸回数(パンティング)や体表面の血流量を増やすことで熱の発散を促しますが、この代謝を行うために通常より多くのエネルギーを消費することになり、エネルギー不足に陥ります。
また、熱の発生を抑制するために、エサの選び喰いを起こします。エサを消化する際にルーメンで発生する発酵熱が熱源となるため、食下量を減らす代謝も促進します。ルーメンの滞留時間が長く発酵熱を発生しやすい粗飼料の食下量を減らして、留時間が短い濃厚飼料を選び食いするようになります。
粗飼料が減って濃厚飼料が増えるとルーメンpHが低下して「ルーメンアシドーシス」を引き起こします。ルーメンアシドーシスで消化機能が低下すると「乾物摂取量(DMI)の低下」に繋がります。DMIの低下は更なる粗飼料食下量の低下に繋がりルーメンアシドーシスを悪化させることに繋がり、悪循環のサイクルが生じます。この悪循環がさまざまな弊害(乳量の低下、乳成分の低下、蹄トラブル、感染症、繁殖障害)の引き金となります。
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◆ヒートストレスにより不足する栄養の補給

ヒートストレスでエネルギー不足や体温上昇すると栄養不足の状態となり、栄養の補給が必要となります。熱発散のためにパンティングが増えると呼気からの水分蒸発量が増え、体内の水分が減少します。水分は体調維持に欠かせない重要な栄養です。新鮮な飲み水を十分に与えて下さい。
更にDMIが低下すると代謝に必要なエネルギーと乳産生に必要な糖質やタンパク質も不足します。DMI低下時でもエネルギーが補給できるようにルーメン滞留時間が長くない高消化性で嗜好性の良い粗飼料に変更することをお勧めします。また、不足するエネルギーを補給する補助飼料にバイパス油脂、低下した代謝活性の回復にビタミンやミネラルの増給をお勧めします。

◆アシドーシスへの対策

アシドーシスの緩和や予防も重要なヒートストレス対策となります。ルーメンpHはルーメン細菌のバランスが崩れると酸性化しやすくなります。ルーメン細菌バランスを適正な状態に維持するには機能性飼料の給与をお勧めします。特に乳酸を過剰に産生するルーメン細菌の増えすぎを抑えるものが効果的です。また、ルーメン液の中性化に役立ちバッファー効果がある重曹の給与も有効な対策です。

◆ヒートストレス対策

飼養管理から対策をまとめると、①~④が効果的です。

 ①新鮮で十分な飲水の給与
 ②DMI低下を予防する消化性が高く嗜好性の良い粗飼料の給与
 ③DMI低下で不足する栄養分のバイパス油脂やビタミンでの補給
 ④アシドーシスの予防となる機能性飼料や重曹の給与

◆最後に、

地球温暖化の影響で気温の上昇や酷暑の長期化が進んでいます。温暖化に伴ってヒートストレスも長期化や重症化して、牛に辛い環境変化が進行しています。牛の体温上昇を抑える送風機などの設備面の対策と併せて、飼養面からルーメン環境を良い状態で維持するヒートストレス対策を試してみませんか?