魚の養殖の重要管理点 水温編 第2回 ~暑い夏をどう乗り越えるか~

魚の養殖の重要管理点 水温編 第2回 ~暑い夏をどう乗り越えるか~

前回の「水温を知る・水温で知る」では、養殖管理においての水温の影響をお話しましたが、その中で高水温の影響については以下をご紹介しました。

・魚病への影響(水温が高いほど魚病の発生は増える)
・給餌への影響(水温が高いほど摂餌は活発になる)
・赤潮の発生(水温が高いほど赤潮の発生リスクも高い)

今回は、特に様々なリスクが高くなる高水温の影響とそれに対応した管理についてご紹介します。

はじめに

地球温暖化が叫ばれて久しいのですが、特に最近は暑い夏をどう乗り越えるかが人類に限らずその他生物全体でも課題となっています。
気温の上昇に伴った海水温の上昇によって、魚もこれまでにない過酷な高水温下で生きていかなければならなくなっています。

水温と酸素消費量

前回の話題でも触れた通り、水温が上がると魚の体温も上がります。そして、体温が上がると魚の活性も上がり、それによって酸素消費量は増加することが知られています。
一方、水の中に溶けている酸素濃度も水温によって溶ける量が変化します。例えば水温が5℃の場合の酸素飽和濃度は約10mg/Lですが、30℃になると6mg/L程度となり、海水中の溶存酸素濃度は40%も少なくなるのです。

つまり、高水温になると海水中の溶存酸素濃度は少なくなるのに、魚が消費する酸素量(=必要とする酸素量)は増加するのです。
また、魚の活動で酸素消費量に大きく影響するのが摂餌運動と摂餌後の消化です。摂餌の際には遊泳が激しくなることで酸素の消費量が増えますし、摂餌後数時間は消化するために酸素の消費量は増えます。つまり、餌を沢山与えれば与えるほど魚は酸素を多く必要とします。

また、魚は水温が高いほど活動性が高まり、摂餌意欲も向上して、与えればいくらでも餌を食べようとします。給餌する時点で海水の溶存酸素濃度が極端に低い場合には餌を食べないこともありますが、ある程度の酸素濃度があれば餌を食べます。

そこで問題は餌を食べた後に酸素の要求量が上がったタイミングで酸欠になることです。
酸欠になると消化・吸収率が極端に悪くなるので成長にもつながりませんし、最悪の場合は斃死することもあります。
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海水の溶存酸素濃度は水温の影響を強く受けますが、魚が利用できる酸素の量(絶対量)は潮流の速さ(潮汐の大小)の影響を強く受けます。
特に内湾性で干満の差の大きな漁場では大潮で潮流が速いタイミング(潮汐が大きい時期)には生け簀内の海水交換率が上がるので魚が利用できる酸素量は多くなりますが、小潮(小潮~長潮)で潮流が遅いタイミング(潮汐が小さい時期)には利用できる酸素の量はとても少なくなります。網が汚れていると更に海水の交換率が下がるので網の管理も重要です。
つまり給餌に関しては水温だけでなく潮汐も意識すべきで、例えば給餌は大潮の期間を中心に給餌を行い、小潮の期間はできるだけ控えたり一度に与える量を減らする等の対策も良い方法だと思います。

適切な放養密度管理を

最も効果的な対策は放養密度を下げることです(もちろん経済的なことも考慮はした上で)。
生け簀のサイズを大きくするか1生け簀あたりの放養尾数を減らすことが有効です。
生け簀のサイズを変えることは容易には出来ませんが、生け簀網の深さを深くすることでも密度を下げることは出来ます。また、深くすることで魚が高水温時に水温の低い層に逃げることができ、更に赤潮発生時には赤潮が最も濃密になる表層から逃げることも可能になります。

お勧めする管理法は以下の通りです。
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おわりに

一般的にどの魚種も高水温期は大きな体重の増加は期待できません(太る時期ではない)、むしろ魚病等が発生した場合には大量斃死になり易く、生残率に大きく影響する時期です。
高水温期の育成には無理に成長させることよりも歩留まりを重視した管理が肝要です。
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