魚の養殖の重要管理点 モジャコ編 ~健康に育てるポイント~

魚の養殖の重要管理点 モジャコ編 ~健康に育てるポイント~

春は養殖の魚にとっても始まりの季節です。この時期に多くの養殖魚種で稚魚の導入が始まります。
今回は導入から1~2ヵ月間の稚魚期の飼育管理についてお話します。

稚魚の扱いに注意が必要な理由

・稚魚は乳幼児
 数グラムから数十グラムまでの稚魚はヒトでいう乳幼児と同じで免疫機能が発達途上であるために弱く、病原菌やウイルスに感染すると発症し易いことが特徴です。

・厳しい自然環境へのデビュー
 ほとんどの海面養殖魚種の場合、稚魚を海面の生簀に導入するタイミングが自然環境に初めて晒される時になります。それまで稚魚が育成されていた陸上水槽の水は一定の管理がされているので、寄生虫や病原菌・ウイルスが排除され、少ないことが多いのですが、養殖場の海水中には多種多様な生き物が混在していて、その中には寄生虫や病原菌・ウイルスも沢山含まれている可能性が高いのです。
 そのため、特に気を遣うべきことが多く、この時期の管理は生残率に大きく影響します。

稚魚の扱いで注意するポイント

給餌について

・まずはしっかりと餌付けをする(健康に育てる基本)
 ブリの稚魚の場合は、天然種苗を導入するケースと、最近では人工種苗を導入するケースがありますが、特に天然種苗の場合は十分な餌付けが必要です。魚病を発症した際には投薬による治療が必要な場合もありますが、魚が餌を食べてくれないことには薬剤の経口投与ができません。そもそも餌を食べることが出来ない個体は、十分な栄養を摂ることが出来ないので健康な状態を維持することができません。

・栄養補給は十分に(生残率向上のため)
 一般的に稚魚期は栄養要求量が高く飼料効率も高い傾向にあります。そのため、与える餌は多少単価が高くても高品質で栄養価の高い(ビタミンやミネラルも十分な)餌を与えることをお勧めします。高い栄養価の給与は魚の免疫力を高めることになり、生残率が高ければ結果的にはコストを抑えることに繋がります。

・給餌量は適切に(多過ぎも少な過ぎもNG)
 健康な状態を維持するには十分な栄養を与えることが大事です。ただし、餌をやり過ぎることは魚の体調を崩す原因となるので禁物です。
 逆に、極端な給餌制限や栄養不足は魚にとって必要な栄養素を摂れずに成長に影響するだけでなく、お腹が減った魚は網の付着生物や海水中の浮遊物を捕食しようとします。そうした捕食物は寄生虫の中間宿主である場合もあるので、それらを多く捕食することで寄生虫が経口感染する可能性が高くなります。
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適切な飼育環境について

・高密度飼育は避ける(感染リスクの低減)
 稚魚はサイズが小さいので1つの生簀網に収容する尾数は数千~数万尾となり、飼育密度は高くなります。飼育密度が高いと群の中での感染が広がり易くなるので、可能な限り密度は低い方が感染のリスクは低くなります。

・ハンドリングによる稚魚への負荷を軽減する(網替え、分養作業時のポイント)
 稚魚期には目合いの細かい網を使うため、短期間に網が汚れるので頻繁な網替えや網洗浄が必要です。また、サイズ選別や成長に応じて密度を下げるために分養することも多く、その作業では直接魚を扱うことも多いのですが、その際には体表を傷つけないような方法で作業を行うことも重要です。
分養作業時には例えば以下のようなことに注意しましょう。
 ・魚を集めるのに網を絞る際には、できるだけ高密度にならない程度に緩く絞る
 ・できるだけ短時間で作業を終わらせる
これにより魚同士の接触を減らすことができ、体表を傷つけることや粘液の剥離、接触による感染症の拡大を防ぐことになります。
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寄生虫と感染症対策について

・魚種の混合を避ける(ベネデニア寄生の防御)
 天然モジャコの場合は沖で採捕される際に一緒にカンパチやイシガキダイが混じることがありますが、養殖する際にこれらの魚とモジャコを混養するのはお勧めしません。カンパチやイシガキダイはベネデニアの寄生率が高いので、生簀内全体でベネデニアの寄生率が高くなってしまいます。

・遅れることなく寄生虫の対策を(ベコ病の防御)
 養殖場の環境にもよりますが、近年は高水温化の影響もあってかベコ病の発生が増えています。ベコ病の病原体である微胞子虫はブリ、カンパチ、ヒラマサ、マダイ等の魚種で寄生が確認されていますが、特にブリではモジャコ期に感染して筋肉にシストを形成してしまうと出荷までシスト痕が残ることがあり、商品価値を著しく落としてしまいます。また、これらは稚魚が養殖場に入った時点から寄生が始まることが確認されています。
 現在は、スポチール200というベコ病に有効な治療薬がありますが、シストが形成されてしまってからでは手遅れです。そのため、稚魚を導入して、魚がきちんと餌を食べるようになったら、すぐのタイミングで、出来るだけ早い時期から投薬治療を始める必要があり、その後も暫くの間は定期的な対策を続けることでシストの形成を防ぐことが出来ます。
 投薬治療の詳しい用法については製剤メーカーにご相談されることをお勧めします。

・適切な時期にワクチンの接種を(適切な接種が魚を守る)
 稚魚も数十グラム程度になると、免疫機能が発達してきます。
 そして水温が上昇するにつれて複数の魚病の流行期になるので、できるだけ早い時期にワクチンによる予防を行う必要があります。
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ワクチンの適切な使用時期については、次回お話をします。
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