伏見康生先生に聞く!「子牛のクリプトスポリジウム症」 第3回 ー予防対策について(1)ー

伏見康生先生に聞く!「子牛のクリプトスポリジウム症」 第3回 ー予防対策について(1)ー

株式会社Guardianの伏見康生先生に「子牛のクリプトスポリジウム症」についてお聞きする連載記事です。
第2回では、クリプトスポリジウム症の症状と治療についてお聞きしました。
第3回では、クリプトスポリジウム症の予防対策についてお話していただきます。

 (6371)

ご紹介

講師:伏見康生
株式会社Guardian 代表取締役
獣医師 博士(獣医学)
日本全国で牛の栄養面・環境面・疾病対策面へのトータルコンサルタントとして活躍し、クライアント農場の総飼育頭数は10万頭超に及ぶ。
その他にも、繁殖診療、医療機器の開発、講演や執筆など活動は多岐にわたる。

インタビュアー:田島優
共立製薬株式会社 PA埼玉営業所 所長
関東甲信エリアの養牛・養豚・養鶏を管轄している。
家族5人で、1日あたり牛乳2Lを消費する。

お話の前に

クリプトスポリジウム症:
① オーシストとは、体外に排出される際の形態で、外界の厳しい環境条件に耐えることができる。
② オーシストは、アルコール系・ヨード系・塩素系・逆性石けんなどの一般的な消毒薬に強い抵抗性を持っている。
③ オーシストは、低温湿潤下では感染力が長期間保持される。
 (6376)

予防対策(環境)について

田島
クリプトポリジウム症が既に発生している農場と、発生はしていない農場で、指導内容に違いはありますか?

伏見
発生していない農場には、クリプトスポリジウムが入らないように、洗浄・消毒を徹底し、農場の【守り】を固めるようにお願いしています。
第1回でもお話ししましたが、クリプトスポリジウムが農場に入っていない(ゼロか)・入っている(イチか)は非常に大きな差です。
一度クリプトスポリジウムが入ってしまった農場から排除することは、多大な労力と費用が掛かりますので、現時点で入っていない農場のアドバンテージはとても大きく、入れないための努力を徹底すべきです。
すなわち、衛生区域への外部の人間の立ち入りや、外部の牛の導入への注意です。
例えば、オーシストが100個以下でも感染は成立し、感染すると糞便からは10~100億個/日も出てきます。つまり、クリプトスポリジウムは治しても倒しても日々1億倍で返ってきて半年間も生存しているので、モグラ叩きの戦いには圧倒的に強いということです。
この部分を理解してもらえれば、入れない努力という意味と、洗浄・消毒に対する意識も変わってくると思います。
一方で、クリプトスポリジウムが入ってしまっている農場では、足元では感染の遅らせと重症化させないことに焦点を当てる必要があります。

田島
発生している農場での対策内容について優先順位があれば教えてください。

伏見
実現性やコストを考えずに、効果がある手段をご紹介します。
① 牛舎の新設
② 休舎期間を置いた牛舎へのオールイン・オールアウト
③ 牛舎の一部変更(倉庫などを牛舎の代わりにする)
連続的に牛舎を使い続ける限り、牛・器具・水・人・衣服にオーシストが存在しているため、排除はとても困難です。
牛舎を建て替えるタイミングは、クリプトスポリジウムを排除する絶好のチャンスだと考えてください。
また、子牛だけでも牛舎を移動することは効果的です。
その際は、分娩時から堆肥や設備にも気を付けて新生子牛を移動してください。オーシストが付着している可能性を考えて、哺乳器具など資材も全て一新してください。
図1 牛舎に関する対策方法

図1 牛舎に関する対策方法

オールイン・オールアウト・・・牛舎をすべて空にして水洗・乾燥・消毒を実施したうえで、一度に家畜を導入する飼養方式 感染症の慢性的な発生を防ぐ効果があり、養豚・養鶏で実施されている
④ 洗浄・乾燥・消毒
クリプトスポリジウムのオーシストは環境耐性を持っていますが、乾燥させれば感染力は数日で失われます。
そのため、洗浄でしっかり有機物を取り除いた後に乾燥させることで、感染力を持つオーシストの多くを排除できます。
次に、消毒についてです。
簡便かつ効果的なのは「熱による消毒」で、具体的には70℃以上で15秒~1分加熱するとオーシストは死滅します。それ以上の温度が可能であればもちろんより効果的です。
方法としては、1つ目が牛舎から有機物を全て落として乾燥させたうえでの火炎消毒(コンクリートや金属に限る)、2つ目がポリッシャータイプの高熱高圧洗浄機による熱湯消毒です。(動画)

動画 高熱高圧洗浄機による熱湯消毒

提供:株式会社Guardian
⑤ オルソ剤・石灰乳
オルソ剤は逆性石鹸と混ぜて使うことで、より殺オーシスト効果が高まります。
熱による消毒が難しい場所には、特にオルソ剤の使用をおすすめします。コンクリートや金属部分も熱に合わせて、あるいはオルソ剤単味であっても実施していただくのが良いです。
石灰乳の塗布も有効で、踏み込み槽には飽和消石灰水とオルソ剤の800倍混合が強い効果を示します。
※石灰乳の塗布は強アルカリによる殺オーシスト効果を期待するものではなく、吸湿性を利用した乾燥・封じ込めを目的とします。
図2 その他の対策内容について

図2 その他の対策内容について

田島
石灰乳の塗布が対策として有効とのことですが、どの範囲まで散布すれば良いでしょうか。

伏見
人が触る全ての箇所に散布することをおすすめします。
オーシストは糞便から排出されることを考えると、人の衣服や手を介してあらゆる場所に存在しています。
そのため、人の腰の高さまでの箇所や人が触る箇所は散布するべきです。
図3は石灰乳を塗布したカーフハッチです。是非このように実践してみてください。
図3 石灰乳を塗布したカーフハッチ 

図3 石灰乳を塗布したカーフハッチ 

via 提供:株式会社Guardian
田島
その他に、気を付けるポイントがあれば教えてください。

伏見
農場にクリプトスポリジウムがいる場合、分娩房にも高濃度にオーシストが存在している可能性があります。
そのため、分娩の際は清潔な桶やブルーシートに産ませて、子牛がオーシストに接触する前に母牛から離す手段が有効です。
そして、殺菌した初乳や初乳製剤、清潔なカーフハッチで飼育することで発症時期を遅らせることができます。

田島
ここまでで、様々な予防対策方法を教えていただきました。
実施した対策が効果あったのかをどのように判断していますか?

伏見
初回の下痢が生後何日に発生するかで判断しています。
農場からクリプトスポリジウムを排除することはかなりの労力が必要ですので、発症をできるだけ遅らせることが現実的な対策です。遅らせることで、子牛に体力が つき回復が容易となるためです。
基準として、まずは生後2週間より後の発症であれば合格だと考えています。
第4回でも引き続き、クリプトスポリジウム症の予防対策について、お聞きします。
次回もお楽しみに。
 (6391)



新着記事はメルマガでチェック!
登録はこちら