続・抗菌薬ってどんな薬? 薬剤耐性について[中編]

前編では薬剤耐性の基礎的な内容として、薬剤耐性とは何か?どのようにして薬剤耐性が生じるかについて解説しました。それを踏まえ本編では、畜産動物における薬剤耐性の問題について、また、その対策の枠組みである薬剤耐性対策アクションプランについて解説します。


📖 前回までのおさらい【続・抗菌薬ってどんな薬?シリーズ】


📖 おさらい【抗菌薬ってどんな薬?シリーズ】

薬剤耐性の問題とその対策

薬剤耐性の問題とは

薬剤耐性菌の出現により薬が効かなくなると、感染症の治療が困難になります。そのため、いつまでも治癒に至らず、最悪の場合、死に至るケースもあります。畜産動物においては成長に悪影響を及ぼしたり、斃死により生産性が低下したりします。一方、生産物、つまり、食肉等を介して人へ薬剤耐性菌が伝播する可能性も指摘されており、公衆衛生の観点からも大変重要な問題となっています。
このような背景から、薬剤耐性対策については動物と人で別々に考えるよりも、同じ目的をもって一緒に取り組むことが効果的であると考えられます。そこで人と動物、さらにそれらを取り巻く環境も加え対策を考えるワンヘルス・アプローチという考え方が生まれています(図1)。
ワンヘルス・アプローチ:ヒトと動物と環境の関わり

図1 ワンヘルス・アプローチ:ヒトと動物と環境の関わり

(出典:厚生労働省ウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000172990.html))

国内の薬剤耐性に対する取り組み:第1期 薬剤耐性アクションプラン2016-2020

薬剤耐性問題に対し、世界保健機関(WHO)は「薬剤耐性に係る国際行動計画」を2015年に策定しました。国内においても、2016年にワンヘルス・アプローチに基づく「薬剤耐性対策アクションプラン(2016-2020)」が策定されました。ここでは以下の6分野の目標が設定されており、薬剤耐性対策を推進してきました。
①    普及啓発・教育
②    動向調査・監視
③    感染予防・管理
④    抗微生物剤の適正使用
⑤    研究開発・創薬
⑥    国際協力
加えて、畜産分野の具体的な数値目標として、大腸菌におけるテトラサイクリンおよび第3世代セファロスポリン、フルオロキノロンの耐性率が設定されました(表1)。
2020年の目標値
テトラサイクリン耐性率 33%以下
第3世代セファロスポリン耐性率 G7各国の数値と同水準
フルオロキノロン耐性率 G7各国の数値と同水準

表1 第1期アクションプラン 2016-2020 の成果指標(大腸菌の耐性率の割合)

取り組みの結果、第3世代セファロスポリンとフルオロキノロンの耐性率については目標値を達成しました。一方、テトラサイクリンについては2014年よりも耐性率は増加していましたが、畜種によってその状況は異なり、牛では目標値(33%)以下でしたが、豚と鶏については大幅に上回っていました(表2)。
テトラサイクリン 19.8% 62.4% 52.9%
第3世代セファロスポリン 0.0% 0.0% 4.1%
フルオロキノロン 0.4% 2.2% 18.2%

表2 2020年における健康な家畜由来の大腸菌に対する薬剤耐性率

(出典:福永.畜産技術.2023.9)

なお、この期間(2016-2020年)の畜産分野における国内の抗菌薬使用量(目標値はありませんが)について目を向けると、その削減率は僅か1.6%で、欧米諸国と比較すると使用量の削減が進んでいないことが分かります(表3)。
国名 削減量(t) 削減率(%)
フランス 367.1 48.2
ドイツ 621.1 47.6
イタリア 742.3 51.9
英国 215.2 50.1
米国 3477.2 36.7
カナダ 69.2 6.2
日本 10.2 1.6

表3 欧米諸国と日本における動物用抗菌剤の削減状況(2016-2020年)

(出典:福永.畜産技術.2023.9)

国内の薬剤耐性に対する取り組み:第2期 薬剤耐性(AMR)アクションプラン2023-2027

その後、新型コロナウイルスの蔓延もあり、先のアクションプランは2022年度まで延長され、2023年に新たなプラン「第2期 薬剤耐性アクションプラン2023-2027」が策定されました。このプランにおいても第1期同様の6分野の目標が示され、畜産分野でのテトラサイクリンと第3世代セファロスポリン、フルオロキノロンの耐性率については畜種別に目標値が設定されました(表4)。加えて、第1期にはなかった抗菌薬の使用量(販売量ベース)についてもその削減目標が定められました(表5)。
テトラサイクリン 20%以下 50%以下 45%以下
第3世代セファロスポリン 1%以下 1%以下 5%以下
フルオロキノロン 1%以下 2%以下 15%以下

表4 健康な家畜由来の大腸菌に対する耐性率の目標値(2027年)

(出典:福永.畜産技術.2023.9)

2027年の目標値
畜産分野の動物用抗菌薬の全使用量 15%減(2020年比)
畜産分野の第2次選択薬*の全使用量 27t以下に抑える

* 第3世代セファロスポリン、15員環マクロライド、フルオロキノロン、コリスチン

表5 第2期アクションプラン 2023-2027 の成果指標(抗菌薬の使用量)

(出典:福永.畜産技術.2023.9)

これらの数値についてどのように考えたらよいのでしょうか?参考までに2020年以降の状況を少し見てみたいと思います。
第1期アクションプラン終了の2020年から第2期開始年の2023年までの畜産分野における抗菌薬使用量が報告されており、毎年その量が減少していることが示されています(表6)。一方、畜種別大腸菌のテトラサイクリン耐性率は年によって増減しており、2020年と比べてさほど減少していないことが分かります(表7)。
2020年 2021年 2022年 2023年 2027年目標
抗菌剤の使用量 626.8 598.1 568.0 559.4
減少率* 4.6%減 9.4%減 10.8%減 15%減

表6 畜産分野の動物用抗菌薬の全使用量(t)(販売量)

* 2020年比

(出典:薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書 2025)

畜種 2020年 2021年 2022年 2023年 2027年目標
19.8 23.8 23.4 20.0 20.0
62.4 52.0 55.1 56.3 50.0
52.9 46.2 43.0 53.5 45.0

表7 畜種別テトラサイクリン薬剤耐性率(%)の推移(大腸菌)

(出典:薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書 2025)

このように耐性率については足踏み状態にあり、目標達成には継続した抗菌剤使用量の低減が重要であると考えられ、これまで以上の抗菌薬の慎重使用を含めた薬剤耐性対策の推進が求められています。

おわりに

中編では薬剤耐性の対策に関するこれまでの国内動向についてご紹介しました。現在は2期目のアクションプランの最中で、畜産動物における目標達成に向けた取り組みが推進されています。
薬剤耐性菌の発現頻度と抗菌薬の使用量は確かに相関しますが、行き過ぎた抗菌薬使用量の削減は、生産性の低下につながる恐れがあります。そこで次回(後編)では薬剤耐性菌の問題を考慮しつつ抗菌薬を使用するには、どのような点に注意したらよいか?について解説したいと思います。



新着記事はメルマガでチェック!
登録はこちら

畜産ナビでは新着記事の更新やウェビナーの開催情報等をメール配信にてご案内しています。
ぜひメール配信サービスをご利用ください!