魚の養殖の重要管理点 水温編 第1回

魚の養殖の重要管理点 水温編 第1回

ほとんどの海面養殖魚の場合、稚魚で導入してから、最低でも一回以上の春夏秋冬を経て出荷されます。その間に自然環境は大きく変化し、そのことは養殖魚にも大きく影響します。そうした自然環境を知り、上手く対応・利用して育てていくのが海面養殖です。
特に大きく変化するのが水温です。国内の養殖海域のほとんどで10℃台~30℃弱の間で周年変化をしているので、1年の間で20℃以上も水温は変化することになります。
水温の変化を知ることは養殖の最重要管理点です。

魚の体温=水温

ヒトの場合、体調変化を知るのに検温をしますが、養殖魚の場合は検温は不要です。水温が体温と同じだからです。そして何千尾何万尾単位で生簀を泳いでいる養殖魚の体温は全て同じです。だから海域の水温を測ることで魚群全体の体温を知ることが出来ます。
魚にとって体温(=水温)の変化は以下の項目に影響します。

魚病への影響

基本的には水温が高いほど病原体(バクテリア、ウイルス、寄生虫)の活性が高くなるので、魚病の発生は増えます。
但し、病原体によって活性化する水温は異なるので、18℃付近で発生する魚病もあれば、23℃付近で発生が多い魚病、もっと高水温で発生する魚病もあります。つまり、水温帯毎に発生する可能性が高い魚病は異なるので、その時の水温によって魚病を予測することが可能です。この水温と魚病の関係はかなり密接で、現場での魚病対策の要と言っても良いものです。
「18℃台から出始めたビブリオ病は落ち着いてきたけど、そろそろ20℃を越えるので次は連鎖球菌症に気を付けよう!」等の予測は魚病の発生を早期に感知するには効果的です。
もちろん魚種や海域によって発生する魚病や水温帯は異なるので、まずはその魚種のその海域での水温と魚病の関係を知ることが重要です。

給餌への影響

基本的には水温が高いほど摂餌は活発になるので摂餌率は高くなります。
また、水温が高いほど消化管内の酵素活性も高くなるので、消化速度や消化率それに吸収率も高まります。
但し、高水温時の注意点としては、摂餌は活発でも消化率や吸収率には限界がある事です。 消化率や吸収率の限界を超える過給餌は効率が悪くなるばかりでなく魚病の発生原因にもなるので、適切な給餌量に抑えるべきです。
また、低水温期には消化速度が遅くなるので、給餌間隔を空けないと餌が未消化・未吸収のまま排泄されることになり、餌料効率が悪くなります。

赤潮の予測

特に夏季に発生して大きな問題となる赤潮の原因プランクトンにも適水温があります。例えば鹿児島の海域の場合は、水温が上がるにつれてヘテロシグマ・アカシオ、カレニア・ミキモトイ、シャットネラ属、コクロデニウム属が順に発生します。
このように赤潮に対しても水温の把握による発生予測は被害防止に役立ちます。

水温のモニタリング方法

現在はセンサーによる電気的な水温計が昔に比べてかなり安価に販売されるようになりました。
もちろんアルコール温度計でも良いのですが、水温を測る水深は表層だけでなく魚の遊泳層も意識すると良いでしょう。特に夏場は表層水温は高くなりますが、実際に魚が泳いでいる深い層は表層よりも2~3℃も低いことがあります。
また、水温は潮汐による海水の交換によっても変化するので、満ち潮で上がったり引き潮で下がったりする海域もあります。給餌のタイミングで摂餌活性が活発になったり、緩慢になったりする場合には、 そうした潮汐による水温変化の影響もあるかも知れません。
最近は通信機能を持った連続で測定する機器も普及し始めています。定期的に測定された結果をメールやWebで確認できるので、海域に一台あれば共有することもできます。

このように水温は養殖魚には最も大きく影響する要素です。さらに注意深く見ることはより高度な管理に繋がります。