更なる飛騨牛深化の取り組み ~JAひだインタビュー~ 第4回 後編 飛騨ミート農業協同組合連合会 JA飛騨ミート 小林代表理事専務、溝脇参事

更なる飛騨牛深化の取り組み ~JAひだインタビュー~ 第4回 後編 飛騨ミート農業協同組合連合会 JA飛騨ミート 小林代表理事専務、溝脇参事

前回に引き続き飛騨ミート農業協同組合連合会の小林代表理事専務・溝脇参事にお話しを伺いました。輸出の取り組みや、日本一厳しい衛生基準で運営されている飛騨食肉センターの業務改善についてお聞きしています。

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畜産ナビ:
輸出にも力を入れていらっしゃるということですが、輸出への取り組みをはじめたきっかけを教えてください。

小林専務:
飛騨牛の輸出に取り組み始めたのは11年ほど前からになります。
契機の一つは自治体の海外プロモ―ションの活発化でした。岐阜県が主体のプロモーションを香港ですることになって。最初は県外の牛肉輸出認定施設で1、2回処理をして香港へ輸出したのですが他の県に頼るのではなく、岐阜県のことは県内でやろう、ということで輸出の役割を担うことになりました。もう一つはインバウンド需要の増大です。以前から飛騨には海外から多くの観光客が訪れていました。もともとは輸出先の国で食べてもらって、食べてくれた人に飛騨へ訪れてもらって食べてもらうというのが目的でもありました。ものを売るだけではなく、食べてもらって産地である飛騨に訪れてもらいたかったのです。そんなコンセプトで始めました。知事や飛騨地域の市村長が積極的に香港、オーストラリア、米国などに飛騨牛のPRに行ってくださって。
飛騨食肉センターはEU・米国・オーストラリアを含む18か国・地域に輸出をすることができますが、それらの主要な国のほとんどは岐阜県が観光プロモーションを仕掛けたところです。飛騨食肉センターは日本と相手国が要綱を作っている国にしか輸出をしていません。

畜産ナビ:
販売先にもこだわっているのですね。

小林専務:
飛騨牛は国内で最も枝肉価格の高い牛です。いい加減な売り方はしたくありません。きちんとしたルートで適正な価格で販売しなければならないと考えています。
 (2604)

畜産ナビ:
輸出を始める上でご苦労された点があれば教えてください。

小林専務:
現在のと畜場法は1997年(平成9年)に発生したO157の時に見直されています。2002年(平成14年)に現在地に新築移転するときに輸出をすることは想定していなかったのですが、国は当時、と畜場を整備する際のガイドラインをほぼ対米輸出基準のものを採用しています。輸出を目指したときは、米国等の輸出基準を満たす最新の施設ではなかったのですが、ハードとしては国のガイドラインを満たすものになっていて、輸出相手国が求める部分を再整備しました。日本でも、食品衛生法が改正され、2021年6月からは、全ての食品事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務化され、codex食品衛生の一般原則(以下GPFH)が基本となっていますので、輸出についてはそこまで苦労することはありませんでした。

畜産ナビ:
もともと施設は整備されていい環境だったので、輸出を始める際もそこまで負担になることはなかったのですね。

小林専務:
HACCPに取り組んでみると、ハード面を完璧に整備しなくても、ソフト面で十分カバーできることが多くあり、職員の力量が大きな要素です。
特に米国には海外事業者の管理プログラムがあって、自国と同じレベルの衛生管理基準を満たしているかの査察があります。1~2年ごとに米国農務省食品安全検査局(FSIS)が現地査察に来るのです。査察官がおっしゃるのは「いくらハードがよくてもソフトが動かないといけない。ハード面は厳しく見るが、そういったところの問題点の多くはソフトでカバーできる」ということです。
現在は、codex GPFHで運営しているので、施設の不備が出たら修繕もしますし、職員のトレーニングも継続して実施しています。例えばcodex GPFHの重要な原則である、手洗いですね。石鹸で洗ってしっかりゆすいで流して、ペーパータオルでふき取って決められたごみ箱に入れる。毎日が大掃除くらい掃除を重要視しています。当たり前のことをうちの職員はしっかりやってくれています。この当たり前のことが、他の施設ではなかなか出来ないのです。

畜産ナビ:
海外への販売と国内販売で区別されていることや気を付けていらっしゃることはありますか?

小林専務:
飛騨食肉センターは、世界でも最も厳格な衛生管理基準が求められるEU・米国に合わせているので、日本の基準は十分クリアできます。飛騨食肉センターから出荷される牛肉は、輸出向け・国内向けで一切区別がありません。生産者が出荷してくる牛にも区別がありません。国内外を問わず、肉牛の搬入から枝肉や部分肉などの出荷まで、最も厳しい衛生管理で対応しています。

畜産ナビ:
一番厳しい衛生管理で処理されて、結果としてそれに見合う金額で販売されているということですね。

小林専務:
「日本一の飛騨牛は日本一の衛生基準で消費者に届ける」というのが、2002年の施設の新築移転時に決めたコンセプトです。

畜産ナビ:
職員の皆様のプライドやモチベーションにもつながりそうですね。

小林専務:
とにかく基本を徹底しています。例えば毎日15時から17時まで最低2時間清掃の時間を設けています。なかなか大変なことではありますが。また、全職員に年3回食品衛生システムの研修を行ったり、手洗いや消毒の重要性を教育しています。これは地道に続けるしかありません。FSISは換気扇の中まで点検します。施設の隅々まで徹底して清潔にしなければなりません。

畜産ナビ:
日々の業務改善が世界一の衛生基準に適合する設備を維持する秘訣なのですね。
 (2606)

小林専務:
米国への輸出認証を取っていると月に1回(2日間)厚生労働省(厚生局)の査察も入ります。査察官が書類や現場作業、施設をすべてチェックします。
例えば記録であれば日付の間違いであるとか、清掃であればサビ・カビや脂肪・肉片の残存、壁や扉などに結露が残っているとか、そういった一見単純に見えるような指摘も真摯に受け止めて改善することができる素直な人づくりが大切だと思います。衛生管理の原点に返って当たり前のことを当たり前と素直に受け入れられることが大切です。これには、組織として食品安全文化の構築が必須ですね。
もちろん高度な技術が必要な部門もありますが、基本を当たり前に行うことが重要です。

畜産ナビ:
自分の業務がきちんと評価されると嬉しいですものね。

小林専務:
飛騨食肉センターを核として川上である生産者と川下である消費者をしっかりつながなければならないと思っています。それぞれ立場で遵守せねばならない法律が変わってくるからです。農場では家畜伝染病予防法、食肉センターではと畜場法、枝肉や部分肉になった後は食品衛生法が関わってきます。これらの情報は、フードチェーン全体に発信しなければなりません。

畜産ナビ:
消費者向けにはどのようなことをされているのですか?

小林専務:
消費者に対しては食肉安全フォーラムを毎年実施しています。一般の方々に参加いただいて食肉の安全知識とか栄養のこと、飛騨食肉センターの役割などをお話ししています。生産者には食品安全に関する飼養衛生管理体制を構築してほしいし、消費者には正しい知識をもっておいしい飛騨牛を安全な方法で食べてほしいという思いがあります。
精肉店や生産者へは法令順守等についての食肉流通フォーラムを毎年実施しています。

畜産ナビ:
生産者から消費者まで幅広く働きかけをされているのですね。

小林専務:
生産者には、きれいな生体の肉牛を出荷してほしいという要望を聞いてもらえていますが、その根底には我々が出荷してもらった肉牛をその生産努力に見合った価格で販売しているという信頼があるからだと思います。飛騨食肉センターは玄関から事務所、冷蔵庫までいつも清潔にしています。ここをピカピカにしておけば、生産者もきれいな肉牛をもってきてくれます。また、販売業者も食肉の衛生的な取扱いを遵守してくれます。施設が汚くては、誰も規則は守らないし、協力してくれませんから。

畜産ナビ:
生産者さんのお手本になっているのですね。

小林専務:
良いものを、出荷者の努力に見合った価格で販売するということを継続しています。
この飛騨食肉センターの強みは、衛生管理が全て基礎からの積み上げだというところです。1997年(平成9年)頃からHACCPをはじめて地道に取り組んできて、今ようやく花開いた。何のために必要なの?という声もありましたし、手間のかかることも多い。ただ、安全はお金儲けの手段ではありません。
米国、EUをはじめとする最も厳しい衛生管理基準をクリアし、その国に認可されているということが強み。これからも限りなく挑戦し続けなければなりません。

畜産ナビ:
本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
最後にひとことお願いします。

小林専務:
JAひだでは、共立製薬さんと生産者の方々が農場HACCP構築について様々な取り組みをしていて、全国的にも珍しいことだと思っています。生産者と食肉センターを食品安全の観点から結ぶという、JAひだと共立製薬さんのような取り組みは重要で必須なものです。
この取り組みをもっと外にアピールできるといいですね。