更なる飛騨牛深化の取り組み ~JAひだインタビュー~ 第4回 前編 飛騨ミート農業協同組合連合会 JA飛騨ミート 小林代表理事専務、溝脇参事

更なる飛騨牛深化の取り組み ~JAひだインタビュー~ 第4回 前編 飛騨ミート農業協同組合連合会 JA飛騨ミート 小林代表理事専務、溝脇参事

「更なる飛騨牛深化の取り組み」第4回前編は、JA飛騨管内の肉牛の受け入れから加工までを一手に担う飛騨ミート農業協同組合連合会の小林代表理事専務、溝脇参事にお話を伺いました。世界基準の衛生管理を実現する飛騨食肉センターの概要をお話しいただきました。

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畜産ナビ:
JA飛騨ミートさんの生体受け入れ要件について教えてください。

飛騨ミート農業協同組合連合会 小林代表理事専務(以下、小林専務):
出荷された肉牛(生体)を、まずと畜する前にと畜検査員が全頭検査します。食肉センターの受け入れ要件としてはその生体検査に合格したもの、ということになります。病気ではない、体温が高くない、書類では病気の履歴、そういうもので食に害があるものがないか。食品衛生システムで管理していく中で、原材料としての肉牛の安全性を一番問われます。生産段階で生産者が飼養衛生管理基準を守っているという裏付けがしっかりと取れていれば一番安全ですね。第一は肉牛が健康であること、生体を汚染するような農薬の使用や抗生物質等の薬品を違法に使っておらず、生体検査に合格したものは食肉センターへの受け入れが可能です。ただ、飛騨食肉センターでは輸出牛肉の処理も行っているため、さらにEUなどの相手国の求める輸出基準が追加されます。家畜輸送運搬車の完全洗浄と消毒や、生産者自身が自分の出荷した肉牛は安全であると証明しサインした書類を添付するなどいくつかの要件があります。

畜産ナビ:
飛騨エリアが他の地域と比べて違う点はありますか。

小林専務:
飛騨地域の生産者は、自分たちの組織できちんとしたものを作るという前向きな意識を特に感じます。

畜産ナビ:
私たちもお話を伺って地域として銘柄を守っていくという強い意識を感じました。

小林専務:
現在は、食肉センターでの食の安全を守るためのガイドラインは食品衛生法の改正でより明確になりましたが、実際にそれをやることで利益につながることは多くありません。消費者にとっても、食の安全は「当たり前」でお金を取ることがなかなか難しいですね。ただし、衛生管理をしっかりしようと思うとやはりコストがかかります。生産者も、生産の段階で手間と費用が掛かるけれど果たしてどれくらい高く売れるのかというところです。中でも、飛騨の生産組織の方たちは、消費者に安全できちんとしたものを届けるという意識が特に高いと思います。意識していてもなかなか徹底することは難しいですね。

畜産ナビ:
損益が先に来てしまうということでしょうか。

小林専務:
飛騨食肉センターでは、1997年(平成9年)からcodex食品衛生の一般原則(以下GPFH)に基づく衛生管理を開始しましたが、当初はやはり資材や職員への教育・訓練などの費用が掛かりました。開始当初は大変でしたが、現在は当然のこととして運用しています。近年は生産者も消費者に安全・安心なものを届ける義務があるということが浸透してきました。一生懸命働きかけた結果だと思います。飛騨食肉センターには消費者に安全な飛騨牛を届ける責任があるので。

畜産ナビ:
先ほどHACCPを開始した当初はご苦労があったとのことですが、具体的にどのような点が大変だったのでしょう。

小林専務:
ひとつは食肉センターの衛生管理という点です。当初は原材料となる肉牛(生体)の安全性にあまり触れてはおらず、O157による食品事故が問題になった時期に飛騨食肉センターの肉牛処理の段階でCodex GPFH に基づく衛生管理を入れてどれだけ衛生管理を徹底するかに注力していました。日本でもこのO157による食中毒事故の多発を機に日本の食肉事業者へのHACCP導入がスタートしました。特に東京オリンピックを機に食品衛生法が改正され、食品事業者にHACCPに沿った衛生管理が制度化されました。現在はと畜場と大型の食鳥処理場はHACCPに基づく衛生管理の領域になっています。その衛生管理の仕組みの中でも、原材料である肉牛が安全であるという担保がないとフードチェーンでつながっていきません。その点をしっかりすることで飛騨食肉センターがモデルケースとして成り立っていけばよいと思っています。
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畜産ナビ:
原材料の安全性確保という要望が発信された当初、生産者さんの反応はいかがでしたか。

小林専務:
飛騨食肉センターから生産者への要望は決して多くはありません。しっかりとした肉牛の飼養管理と健康な肉牛を出荷すること、与える飼料は工場の保証があるものを使用すること、生体の汚れのないきれいな肉牛を出荷することです。全国から多くの関係者が視察にお越しいただきますが、飛騨食肉センターほどきれいな生体が出荷されるところはめったにないと言われます。これも特徴の一つですね。

畜産ナビ:
生産者の方々も飛騨食肉センターで枝肉を見て自分の取り組んできたことの確認をするとおっしゃっていました。ほかの農家さんとも情報交換も活発だそうですね。

小林専務:
飛騨食肉センターの前身は明治33年頃に民間のと畜場としてできたと聞いています。それまでと畜場は食肉事業者と家畜商のものでした。食肉事業者はほぼ家畜商の免許を持っていたので、農家で直接豚や牛を買い、買った家畜をと畜場へ持ち込んで自分で食肉にしていました。そこで流通過程への不透明感が出てしまったのですね。その不透明感を是正するために国の事業で全国に農協系統食肉センターが作られました。
系統食肉センターとして飛騨くみあいミート㈱ができたのは昭和39年のこと。生産者に寄り添った食肉センターを目指しました。その場で出荷した枝肉を見ることができ、売れた値段を確認できる。そういう系統食肉センターが全国に31か所ほどあります。
飛騨食肉センターの地の利は、生産者は自分の牛の出荷した時の姿を見て、セリの前に枝肉を確認し、いくらで売れたかを見ることができること。近いところで見える化ができていているのです。
うちの職員もお問い合わせがあれば、内臓の状態や、病気の有無なんかを窓口でお答えします。生産者はそういうところからも情報を集めることができる。このような取り組みを行っているのはここしかありません。

畜産ナビ:
「今日の牛はよかったですよ」と職員の方から言われるとおっしゃる生産者さんもいらっしゃいました。他ではないことなのですね。

小林専務:
いつでも生産者は自分の出荷した肉牛の枝肉の状態と売れた値段を直接見ることができるので、枝肉価格への納得感があると思います。