有機酸で飲水の管理を見直してみませんか? 第2回 ~有機酸の特徴について~

有機酸で飲水の管理を見直してみませんか? 第2回 ~有機酸の特徴について~

日頃、畜舎での飲水の管理はどのように実施されていますか?このシリーズでは、飲水の管理に役立つ有機酸についてご紹介していきます。第2回では有機酸の特徴についてご説明します。

前回まで
第1回では、給水管理の重要性と給水システムの定期的な衛生管理の重要性をお伝えしました。今回は家畜の飲水に添加することで、飲水のpHを低下させ、家畜の上部消化管内のpHを良好な状態に維持できるという特徴を持つ有機酸についてご紹介したいと思います。

飲水のpHのチェック

給水システムの洗浄後、簡易キットなどで飲水のpHをチェックしましょう。水源、給水タンクの出口付近、配水ラインの中間と末端をサンプリングします。水源が変わったり、水源の環境が変化した場合も水質検査の実施をお勧めします。飲水の細菌検査をする場合は、温度の上昇で細菌が繁殖するため、採取後は冷蔵し速やかに検査します。

給水システム内のバイオフィルムの付着を防ぐためには、飲水のpHを4以下に維持することが大事です。有機酸などの酸性化剤を飲水に添加し、pHを低い状態で一定に保つことで飲水中の動物にとって有用ではない細菌(一部のグラム陰性菌など)が増殖しづらい環境を作ることになり、動物の健康管理にもつながります。

私たちの生活に身近な有機酸

有機酸は酸性を示す有機化合物の総称です。私たちの身近なところにも有機酸はたくさんの種類があります。例として食品では、柑橘類に含まれるクエン酸、ヨーグルトに含まれる乳酸、食酢に含まれる酢酸などです。有機酸は、pHを下げて人の体にとって有用ではない細菌などの増殖を抑制するので、食品の品質を保つための添加物としても広く活用されています。

有機酸の摂取でなぜ家畜の健康管理ができるのか?

なぜ有機酸を摂取させることが、家畜の健康管理につながるのでしょうか。それは給与し続けることで上部消化管内を酸性に保つことできるからです。第1回でも紹介しましたが細菌が増殖しやすいpH域というものがあり、胃の中のpHを下げることで一部のグラム陰性菌などの細菌の生存しにくい環境を作ります(図1)。一方で、乳酸菌など生体に有用な細菌は酸性環境下でも増殖することができます。
子豚は胃酸の分泌機能が未発達なため、飲水を酸性にすることで、胃酸による飼料の消化のサポートにもつながります。結果的に一部のグラム陰性菌などのエネルギー源となる未消化のタンパク質が下部消化管に移動するのを減らすことができます。
図1.

図1.

有機酸の細菌への作用

少し化学のお話になりますが、pHが下がり酸性に傾くとは、水中の水素イオンが増えた状態を指します。(図2)
図2. pHと水素イオンの関係

図2. pHと水素イオンの関係

有機酸の中でギ酸を例に挙げて説明します。酸が水に溶けると、分子が解離して陽イオンの水素(H⁺, 以下水素イオン)が水のpHを下げる働きをします(図3)。このように解離した水素イオンは、細菌が生存しにくい環境とすることで、増殖を抑制します(図1, 図3)。

図3. 水中での有機酸の働き

図3. 水中での有機酸の働き

一方で、水に溶けずに分子が解離しない(非解離の)有機酸は細菌の細胞膜を通過します。有機酸は、細菌の細胞内で解離し、pHを下げ、酵素などのタンパク質を変性させます。この結果、細菌は細胞活動が維持できなくなり、死滅すると考えられています※(図4)。
図4. 細菌に対する非解離の有機酸の作用

図4. 細菌に対する非解離の有機酸の作用

①環境中に存在する非解離の有機酸は、細胞膜を通過し、細菌の中に流入することができます。
②細菌内に流入した有機酸は、細菌内で解離して水素イオンを放出し、細胞内のpHを下げます。
③細菌内が酸性になり、タンパク質が変性するため、細胞活動が阻害され、細菌は死滅すると考えられています。
解離した酸で胃のpHを下げて菌の発育を抑制し、非解離の酸が消化管に到達することで細菌内に流入して細胞活動を阻害するという、2種の方法で細菌に対して有機酸は作用すると考えられています。

有機酸の特徴のまとめ

1) 飲水のpHを下げ、動物にとって有用ではない細菌(一部のグラム陰性菌など)が発育し
づらい環境を作ります。
2) 胃に到達した有機酸は、解離して水素イオンを放出することで、上部消化管内を酸性にするため、胃酸による飼料の消化をサポートします。
3) 動物にとって有用ではない細菌(一部のグラム陰性菌など)のエネルギー源となる未消化の飼料が減ることになり、下部消化管においてこれらの細菌の増殖が抑えられます。
参考文献
岡本晋,亀谷宏美:酸ストレスによる細菌細胞の損傷とその耐性機構.日本食品科学工学会.65(3), 148-153, 2018
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