共立製薬における2022年魚病診断結果について[前編]~α溶血性レンサ球菌症を中心に~

共立製薬における2022年魚病診断結果について[前編]~α溶血性レンサ球菌症を中心に~

ブリ属魚類のα溶血性レンサ球菌症は、1974年にブリで発生して以来、養殖業者に多大な被害を与えてきました。
2000年代に入り、ワクチンの普及とともに本症による被害は一旦減少しましたが、2014年に通称Ⅱ型レンサと呼ばれる型、2021年にはシマアジ・カンパチを中心にⅢ型レンサと呼ばれる新たな型が出現しており、その被害が再興してきています。
そこで、ブリ属魚類のα溶血性レンサ球菌症にフォーカスをあて、共立製薬が把握できている情報を2回に分けてご報告したいと思います。今回は、2022年の共立製薬における魚病診断結果・分離されたレンサ球菌の薬剤感受性に関してご報告いたします。

ブリ属魚類のα溶血性レンサ球菌症

ブリ属魚類のα溶血性レンサ球菌症(以降、レンサ球菌症)は、グラム陽性のLactococcus garvieaeを原因とする細菌性疾病です。病魚の症状としては眼球突出(写真1)、尾柄部の潰瘍(写真2)、心外膜炎等が挙げられます。発症は周年見られますが、一般的には夏以降の水温の高い時期にかけて大きな被害が見られます。
本症は1974年に初めて発見されて以来、被害は拡大し、養殖業者に多くの経済的損失を与えてきました。当時は、レンサ球菌症対策といえば抗生物質による対処療法のみであり、年によってはレンサ球菌症に対する代表的な抗生物質であるエリスロマイシンの耐性株が出現し、餌止めを織り交ぜながら、レンサ球菌症を出さないよう、ごまかし、ごまかし、なんとか出荷していました。
2000年代に入り、待望のワクチンが販売され、ワクチンの普及とともに、レンサ球菌症による被害は減少しました。(1974年~2000年代までに猛威を振るっていたレンサ球菌症を、以降、Ⅰ型レンサと記載)その頃のⅠ型レンサ注射ワクチンは効果が高く、適切に稚魚に接種すれば、出荷までレンサ球菌症が出ることはほとんどありませんでした。
ところが、2014年に、Ⅰ型レンサの抗血清では凝集しない型 L.formosensis(以降、Ⅱ型レンサ)が出現しました。このⅡ型レンサは、従来のⅠ型レンサのワクチンを接種しても、抑えることができず、その被害は全国的に広がりました。
当社では、現場のニーズにいち早く応えるため、2017年にⅡ型レンサを含む混合ワクチン、ピシバック注レンサα2を上市。
また、2020年にはⅡ型レンサの特性(魚のサイズに比例して感受性が高くなる傾向)に対応するため、長期に渡る免疫持続が期待できるオイルアジュバント加注射ワクチン、ピシバック注5oilを開発しました。
ピシバック注5oilの発売で、Ⅱ型レンサもある程度コントロールができるようになり、レンサ球菌症による被害が落ち着き始めたと思った矢先、今度は、シマアジやカンパチを中心に、Ⅰ型、Ⅱ型レンサの抗血清に凝集しないⅢ型レンサと呼ばれる新しい型が出現し、その被害が広がりつつあります。
現在、浜では「×型レンサのエリスロ耐性菌が出た」、「××にⅢ型レンサが出た」等の色々な噂が流れています・・・。
そこで、今回、皆様のレンサ球菌症被害状況の整理の一助となればと思い、2022年に当社が魚病診断依頼を受けた中でもブリ、カンパチおよびシマアジのレンサ球菌症をメインに、その集計結果についてご報告させていただきます。
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2022年ブリ、カンパチおよびシマアジの魚病診断結果

共立製薬では、当社営業を介して生産者様からの魚病診断を受け付けております。以下では、2022年1月~12月に受け付けたブリ、カンパチおよびシマアジの診断結果についてご報告します。(依頼ベースでの診断結果ですので、地域、魚種に偏りがあることを留意ください。)
2022年に受け入れたブリ、カンパチおよびシマアジの総検体数*は36件143検体でした。(三重県、愛媛県、高知県、長崎県、大分県、宮崎県、熊本県および鹿児島県の8地域からの検体)その内、レンサ球菌症疑いで依頼を受けた数は、25件77検体となっており、2021年のレンサ球菌症疑いの依頼件数10件34検体に比べると倍増していました。(2021年はモジャコが不漁であった関係で、導入サイズも小さく、イリドウイルス病の診断依頼が多い結果となっていました。)
分離したレンサ球菌の一部をⅠ型、Ⅱ型およびⅢ型レンサの抗血清を用いて凝集試験をおこなったところ、Ⅰ型レンサは同定されず、Ⅱ型レンサについては合計29検体、Ⅲ型レンサに関しては、シマアジの検体が最も多く26検体、ついでカンパチ7検体、ブリ5検体、合計38検体、同定されました。分離地域に関しても、ブリ・カンパチは1県からのみ分離されたのに対し、シマアジでは4県と、ブリ・カンパチに比べ多くの地域からⅢ型レンサが分離されており、Ⅲ型レンサの被害は、シマアジで特に広がっていることが推測されました(図1)​。
* 同一生産者様からの別時期の依頼もそれぞれ1件として換算(例えば、4月、8月に同一業者様から依頼があった場合は、2件として換算)
1件の依頼で2魚種送付の場合は2件として換算(例えば、8月生産者様からシマアジとカンパチの依頼がまとめて来た場合、魚種別に1件ずつとして2件として換算)
図1. 2022年に受け入れたブリ、カンパチおよびシマ...

図1. 2022年に受け入れたブリ、カンパチおよびシマアジの検体内訳

2022年に分離・同定したⅡ型およびⅢ型レンサの薬剤感受性

分離・同定したⅡ型およびⅢ型レンサの一部を培養し、薬剤感受性ディスク法による薬剤感受性試験を実施しました。
使用した薬剤は、エリスロマイシン(以降、EM)、 リンコマイシン(LCM)、 フロルフェニコール(FF)、 アンピシリン(ABPC)、 オキシテトラサイクリン(OTC)、チアンフェニコール(TP)およびドキシサイクリン(DOXY)計7種類。
Ⅱ型レンサの薬剤感受性は、(表1)の通りで、14株中2株のみEM耐性であり(ブリ・カンパチから1検体ずつ分離)、EM耐性菌の分離地域も限定的でした。ついで、Ⅲ型レンサについては、2021年に出現した菌であるということもあり、感受性を調べた18株全てEMに感受性がありました。LCMについては発生当初から耐性(表2)。
Ⅰ型レンサ全盛の時代に比べ、まだまだ薬剤への感受性はありますが、Ⅱ型、Ⅲ型レンサ共に薬剤耐性化を防ぐため、薬の取引代理店様や水産試験場に依頼し、薬剤感受性を調べ、用法用量に従って投薬していただければと思います。
表1. Ⅱ型レンサの各薬剤の阻止円の直径(単位 : mm)

表1. Ⅱ型レンサの各薬剤の阻止円の直径(単位 : mm)

表の数字は分離、薬剤感受性試験を実施した菌株の数を示す
表2. Ⅲ型レンサの各薬剤の阻止円の直径(単位 : mm)

表2. Ⅲ型レンサの各薬剤の阻止円の直径(単位 : mm)

表の数字は分離、薬剤感受性試験を実施した菌株の数を示す