共立製薬における2022年魚病診断結果について[後編]~α溶血性レンサ球菌症を中心に~

共立製薬における2022年魚病診断結果について[後編]~α溶血性レンサ球菌症を中心に~

前回より、昨年度の魚病診断結果、その中でもブリ属魚類のα溶血性レンサ球菌症に関する結果についてご報告しています。後編となる今回は、当社の先端技術開発センターにてブリ、カンパチおよびシマアジを用い、魚種毎のⅢ型レンサに対する感受性の違いを調べましたので、その結果についてご報告いたします。

Ⅲ型レンサに対する魚種毎(ブリ、カンパチおよびシマアジ)の感受性の違い

昨年度のⅢ型レンサの診断結果について魚種別に検体数やその発生地域を整理してみると、シマアジ>>カンパチ>ブリの順でその被害が深刻化していると推測されました。そこで、ブリ、カンパチおよびシマアジを用いてⅢ型レンサの感染試験を実施し、Ⅲ型レンサに対する魚種毎の感受性の違いについて調べてみました。(試験概要は以下の通り)
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感染試験の結果、ブリ、カンパチおよびシマアジ全てにおいて死亡が確認され、Ⅲ型レンサは、3魚種全てに病原性を示すことが分かりました。特に、カンパチ、シマアジに関しては、菌濃度の低い試験群(1.3×10⁵個/尾)においても累計死亡率100%という結果となっており、カンパチ、シマアジはⅢ型に対し高い感受性を示すと推測されました。一方、ブリの累計死亡率は他の2魚種に比べ低い結果であり、ブリのⅢ型レンサに対する感受性は比較的低いと考えられました。(表1~表4)
表1. Ⅲ型レンサの魚種別感染実験結果(ブリ)

表1. Ⅲ型レンサの魚種別感染実験結果(ブリ)

表2. Ⅲ型レンサの魚種別感染実験結果(カンパチ)

表2. Ⅲ型レンサの魚種別感染実験結果(カンパチ)

表3. Ⅲ型レンサの魚種別実験試験結果(シマアジ) 

表3. Ⅲ型レンサの魚種別実験試験結果(シマアジ) 

表4. Ⅲ型レンサの魚種毎の感染実験結果まとめ

表4. Ⅲ型レンサの魚種毎の感染実験結果まとめ

まとめ

■ 2022年、養殖業者様から検査依頼を受けた検体の内、Ⅱ型レンサが分離・同定された件数は13件29検体、Ⅲ型レンサは12件38検体でした(表5)。
■ Ⅱ型レンサの薬剤感受性に関しては、試験を実施した14株中2株(ブリ・カンパチそれぞれ1検体ずつ)がエリスロマイシン(以降、EM)耐性でした。但し、今回分離した耐性菌の分離地域は同一地域であり、耐性菌の拡がりは限定的であると考えられました。また、リンコマイシン(以降、LCM)に対しては、13株中10株が耐性という結果でした。
■ Ⅲ型レンサの薬剤感受性に関しては、試験を実施した18株全て、EMに感受性を示しました。LCMはⅢ型レンサ発生当初から耐性であり、今回の試験でも全て耐性という結果でした。
■ ブリ、カンパチおよびシマアジを用いてⅢ型レンサの感染試験を行ったところ、カンパチ・シマアジはⅢ型レンサに対し高い感受性を示すという結果が得られました。また、病原性の変化は今後とも注視していく必要があると思いますが、今回の結果では、ブリのⅢ型レンサ対する感受性はカンパチ・シマアジに比べ低い結果となっていました。
表5. 2022年、共立製薬にて分離・同定したα溶血性...

表5. 2022年、共立製薬にて分離・同定したα溶血性レンサ球菌の魚種、地域別の検体数

共立製薬では、現場のニーズにお応えできるようⅢ型レンサのワクチン開発を検討しています。しかし、ワクチンの開発から販売までには時間を要することから、しばらくの間、抗菌剤で対処するしかありません。幸いなことに、Ⅲ型レンサは、今のところ、レンサ球菌症に効能・効果を持つ抗菌剤の内、LCM以外には全て感受性があります。今後も継続して適正投薬に努めることで薬剤の耐性化を防ぎ、ワクチンの販売時期を迎えることができるかもしれません。
今回のレポートの最後に、(LCM以外の)レンサ球菌症に効能・効果を持つ抗菌剤の概要や最近筆者があらためて抗菌剤投薬について思うことを述べさせていただければと存じます。
レンサ球菌症に効能効果を持つ抗菌剤の概要(LCM以外)
以下の表(表6)では、レンサ球菌症に効能・効果を持つ抗菌剤の中でも、EM、フロルフェニコール(以降、FF)、ドキシサイクリンおよびオキシテトラサイクリンアルキルトリメチルアンモニウムカルシウム塩について、その特徴や投薬コストについて簡単に記載したいと思います。LCMについては、Ⅱ型レンサ、Ⅲ型レンサともに耐性であることが多いので除外しています。
表6. レンサ球菌症に効能効果を持つ抗菌剤の概要(LC...

表6. レンサ球菌症に効能効果を持つ抗菌剤の概要(LCM以外)

病気の魚を持ち込まない
2014年のⅡ型レンサの発生から全国的な蔓延を見ていて、特に感じたのですが、病魚の移動によって病気は広がります。レンサ球菌症のような伝染性疾病の防疫対策は、まず病気を持ち込まないことです。中間魚等を他の地域から導入する際は、導入元の地域の疾病状況や病原菌の薬剤感受性を聞き取り、疾病が出ている際は、できる限り、移動前に投薬して健康な状態になった段階で、導入するように努めていただければと存じます。
抗菌剤を混ぜた餌をキチンと魚に食べさせる
昨年、EMを投薬してもレンサ球菌症による斃死が収まらない、EMが効かないのでは?とシマアジを養殖している業者さんから問い合わせを受けました。そのシマアジの検体を当社に送っていただき、薬剤感受性を調べてみると、EMに感受性がありました・・・
EMが効いていないのではなく、薬が餌によく混ざっていない、または薬が魚に行き渡っていないのでは?!と思い、飼料をEPからモイストに切り替え投薬するようお願いし、実際に投薬していただいたところ、EMでもレンサ球菌症を抑えることができました。
EPが主流となりつつある世の中で、今回のような飼料の種類の切り替えは、簡単にはいきませんが、そこまでせずとも生簀内の魚にまんべんなく薬を行き渡らせるような工夫(投薬の前は餌止めをする、投薬中は通常量の8割程度の給餌量等)が必要と思います。

今年、知り合いの養殖業者さんはシマアジを増産するそうです。その地域はⅡ型、Ⅲ型レンサともに発生している地域で、周囲はシマアジを減産します。増産する養殖業者さんは、日ごろから魚をよく見ており、投薬に際しても、レンサ球菌症の斃死が多い時には抗菌剤をEMからFFに切り替えたり、飼料をEPからモイストに切り替えたりと日々工夫をされて、Ⅱ型、Ⅲ型レンサにも順応しようと努めています。
次々と新たな病気が発生し、以前の歩留まりを維持することが厳しい時こそ、皆様の養殖技術が活きてくる時代なのでは思います。
昨年についてはワクチンの品薄により皆様に大変ご迷惑をおかけしましたが、共立製薬は、「動物と人の進む道を創る」ことをミッションに、ワクチン、抗菌剤、駆虫薬およびビタミンプレミックスの販売を通して、養殖業者様の生産性の向上をサポートできればと思っております。Ⅲ型レンサのワクチンに関しても、いち早く皆様にご提供できるよう努めておりますので、今後ともよろしくお願いします。