鶏コクシジウム症の基礎知識と対策

鶏コクシジウム症の基礎知識と対策

コクシジウム症に悩まされた養鶏の関係者は少なくないのではないでしょうか。今回は、あらためて鶏コクシジウム症とはどのようなものか、効果的な対策はどのようなものがあるのか、について基本的なことから解説していきます。

はじめに

コクシジウム症に悩まされた養鶏の関係者は少なくないのではないでしょうか。今回は、あらためて鶏コクシジウム症とはどのようなものか、効果的な対策はどのようなものがあるのか、について基本的なことから解説していきます。

コクシジウムとは

コクシジウムは、単細胞の微生物である「原虫」に分類され、世界中に広く存在する寄生虫のひとつです。主に腸管に寄生し、下痢や血便などの消化器症状を起こします。コクシジウムには多くの種類があり、それぞれ寄生する動物(以下「宿主」)や、症状の重さが異なります。
コクシジウムは直径10~30μmの「オーシスト」とよばれる状態で環境中に存在しています。環境中で成熟し、感染性を獲得したオーシストを宿主が口から摂取すると、腸管内で発育して増殖し、ふたたびオーシストの状態で糞の中に排出されます(図1)。その発育・増殖の過程で宿主の腸管粘膜を傷つけるため、下痢や出血を起こしたり、腸管からの栄養吸収を阻害して成長へ悪影響を及ぼしたりします。重症の場合には、下痢による脱水や削痩、出血による貧血で死亡する場合もあります。
図1

図1

鶏コクシジウム症の種類

鶏に寄生するコクシジウム類は 「アイメリア属」に分類されるコクシジウムです。鶏コクシジウム症は、その症状の重さと寄生部位により大きく3つに分けられます(図2)。
図2

図2

急性盲腸コクシジウム症
アイメリア・テネラという種類のコクシジウムが原因です。盲腸のみに病変を起こします。盲腸に激しい粘膜出血(写真1・2)を起こし、イチゴジャムのような特徴的な血便(写真3)がみられます。非常にへい死率が高く、被害が大きいコクシジウム症です。比較的若い鶏に感受性が高く、24~30日齢で発症することも多いため、ブロイラー、採卵鶏、種鶏すべてにおいて問題になります。
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拡大画像は以下よりご覧いただけます。
写真1
写真2
写真3
急性小腸コクシジウム症
アイメリア・ネカトリックスという種類のコクシジウムが原因で、小腸全域に病変を起こす重症のコクシジウム症です。症状は小腸粘膜からの出血(写真4)による血便(写真5)で、こちらも高いへい死率がみられます。アイメリア・テネラより比較的増殖が遅いため、中雛以降の日齢の進んだ鶏で発生することが多く、ブロイラーよりも飼育期間の長い採卵鶏や種鶏で問題になることが多いコクシジウム症です。
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拡大画像は以下よりご確認いただけます。
写真4

写真5
慢性小腸コクシジウム症
アイメリア・テネラ、アイメリア・ネカトリックス以外のコクシジウムによるコクシジウム症を指します。アイメリア・マキシマやアイメリア・ブルネッティ、アイメリア・アセルブリナなど、病原性が比較的強く、粘血便や下痢など明確な症状がみられるコクシジウムもあります。一方で、アイメリア・プレコックス、アイメリア・ミチスなど、感染を起こしていても見た目には症状がみられないものもあります。ただし、症状がみられなくても、感染量によっては腸管粘膜がダメージを受けて消化吸収が阻害され、飼料要求率や増体重に悪影響を及ぼすことがわかっています。さらに、慢性のコクシジウム症は、クロストリジウムによる壊死性腸炎の引き金になることも知られています。

鶏コクシジウム症の対策

鶏コクシジウム症を発症した場合にはサルファ剤などの治療薬が有効ですが、実際の養鶏の現場では、食品中への残留などを考慮した使用禁止期間があるため、治療薬の投与は獣医師の指導のもと慎重に行う必要があります。また、抗菌性物質の継続的な使用により、薬剤耐性が発現する懸念もあります。コクシジウム症を発生させないためには、まずは飼養管理や予防がとても大事であることから、下記のような対策を講じることが重要です。
・畜舎・環境の消毒
鶏は、床などに落ちているオーシストを経口摂取することで感染します。そのため環境中に存在するオーシストの量を減らすことが重要です。オールアウトの際に、鶏舎の床や壁、ケージ、集糞ベルトなどを徹底的に洗浄・消毒しましょう。コクシジウムのオーシストは消毒薬に強く、通常使われる逆性石けんなどの消毒剤単独ではほとんど死滅しません。オーシストの消毒にはオルソジクロロベンゼン(オルソ剤)が一般的には有効といわれていますが、トライキル(共立製薬)のようなオルソ剤と逆性石けんが混合された消毒薬は、オルソ剤単独よりも短時間でオーシストを死滅させることができる ため効果が高いことがわかっています。

共立製薬㈱社内資料

・飼養管理の徹底
鶏にストレスがかかると免疫の低下や腸内環境の悪化により発症しやすくなります。まずは基本的な飼養管理を確認し、できるかぎり鶏にストレスを与えないような環境を整えてあげましょう。
・健康な腸内環境を維持
腸内環境が悪くなると、コクシジウムが増殖しやすくなります。有機酸や生菌剤の給与などにより、健康な腸内環境を維持しましょう。
・ワクチンの接種
鶏コクシジウム症に対する弱毒生ワクチンが実用化されており、症状やオーシスト排出を軽減することが確認されています。飼養形態や農場の状況に応じて、効果的なワクチン接種を行いましょう。

おわりに

鶏コクシジウム症は、飼養衛生管理の向上などによって、今ではあまり関心が高い感染症ではないかもしれません。しかし、コクシジウム自体は環境中や養鶏場において広く存在しています。環境中に存在している以上、何かのきっかけでいつ発症しても不思議ではありません。一度発症すると鶏への被害が大きいだけでなく、環境がオーシストに濃厚に汚染されてしまうため、対応に大きな手間とコストがかかります。目に見える被害が出ていなくても、慢性コクシジウム症によって生産性が低下していることもあります。成績が思わしくない農場では、一度コクシジウムの浸潤状況を調べてみてもよいかもしれません。この機会にあらためてコクシジウムに関心を向けて、農場の状況や、十分な対策ができているかを見直してはいかがでしょうか?
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