鶏コクシジウム感染症混合弱毒生ワクチン「エバロン®」・「エバント®」ご紹介

鶏コクシジウム感染症混合弱毒生ワクチン「エバロン®」・「エバント®」ご紹介

鶏コクシジウム症の予防において、ワクチンは重要な役割を担っています。今回の記事では、鶏コクシジウム症ワクチン「エバロン®」「エバント®」についてご紹介いたします。記事中のコクシジウムの種類や病態については、「鶏コクシジウム症の基礎と対策」の記事で解説していますので、そちらも併せてご覧ください。

鶏コクシジウム感染症混合弱毒生ワクチン「エバロン®」「エバント®」とは

「エバロン®」「エバント®」は、それぞれ5種のアイメリア属コクシジウムについて、早熟化オーシストを選抜・継代することで弱毒化したワクチンです(表1)。効能又は効果は、鶏コクシジウム症に関連する臨床症状(下痢)、消化管病変及びオーシスト排泄の軽減です。国内で販売されているワクチンの中で最も多くの種類のコクシジウムが含まれているだけでなく、溶解用液中に、散霧後のついばみを刺激する独自の着色料及び芳香剤、アジュバントを加えることで効率的なワクチンの投与と長期間にわたる免疫付与を実現しました。
HIPRA社が欧州で「エバロン®」を2015年に、「エバント®」を2018年に発売して以来、多くの国で承認され、鶏用コクシジウムワクチンの市場において高いシェアを獲得しています。
表1 エバロン®、エバント®に含まれるコクシジウムの種

表1 エバロン®、エバント®に含まれるコクシジウムの種

使用方法:初生ひなへの散霧

添付文書の説明に従って希釈したワクチン液を、散霧器を用いて初生ひなに直接散霧します。散霧したワクチン液の液滴には、ワクチン株のオーシストが含まれます。ひなの体に付着した液滴をついばむことにより、ワクチン株のオーシストをひなが摂取します。ひなの体に直接散霧することができるので、餌に均一に混ぜる作業がなく接種作業の省力化が可能になります。

溶解用液の特徴①: ワクチン接種を促進する色と香り

溶解用液には着色料と芳香剤(バニリン)が含まれ、その色と香りが、ひなのついばみ行動を促進します。ライトパープルは、ひなのついばみ行動を強く促進する(図1-1)ことがわかっています。芳香剤のバニリンは、バニラの香りの主成分であり、その甘い香りはついばみ行動をさらに促進(図1-2)し、暗い環境中でも液滴のついばみを可能にします。
図1-1(左) ライトパープルが最もついばみ頻度が高い...

図1-1(左) ライトパープルが最もついばみ頻度が高い  図1-2(右) バニリンの香りがさらについばみを刺激

溶解用液の特徴②:細胞性免疫を刺激するアジュバント

溶解用液には、アジュバントが含まれています。このアジュバントにはインターロイキン2(IL-2)やインターフェロンγ(IFN-γ)といった細胞性免疫を活性化する生理活性物質の産生刺激作用が確認されていて、「エバロン®」「エバント®」の高い免疫付与効果と長い免疫持続期間に寄与しています。(図2)
図2 腸粘膜組織に対してIL-2およびIFN-γを蛍光...

図2 腸粘膜組織に対してIL-2およびIFN-γを蛍光染色(接種後23日)

採卵鶏・種鶏向け「エバロン®」の特徴

アイメリア・ブルネッティを含む5種のコクシジウム

エバロン®は、長期間飼養する採卵鶏・種鶏向けのワクチンです。若齢で発生するアイメリア・テネラ、アイメリア・マキシマ、アイメリア・アセルブリーナの3種類に加え、中雛以降や採卵期に問題になるアイメリア・ネカトリックスやアイメリア・ブルネッティの2種類を含んでいます。特にアイメリア・ブルネッティは慢性コクシジウム症の中でも比較的病原性が強いため日本においても問題視されていましたが、国内ではアイメリア・ブルネッティを防御するワクチンの販売がなく(2024年3月現在)、対策が困難でした。エバロン®は、アイメリア・ブルネッティを含む国内初のワクチンとなります。2017~18年の調査結果では、アイメリア・ブルネッティの浸潤率は国内種鶏場においても高い(37農場中17農場でPCR検査陽性)ことが示されています1)

60週間の長期免疫持続

エバロン®は、アイメリア・ブルネッティを含む5種類のコクシジウムに対し、接種後60週間の免疫持が確認されており、長期にわたるコクシジウム症の防御を可能としています。(図3)
図3 各種コクシジウムで攻撃したときの病変スコア

図3 各種コクシジウムで攻撃したときの病変スコア

ブロイラー向け「エバント®」の特徴

アイメリア・プレコックスを含む5種のコクシジウム

エバント®は、飼養期間の短いブロイラー向けのワクチンです。若齢で発生するアイメリア・テネラ、アイメリア・マキシマ、アイメリア・アセルブリーナの3種類に加え、不顕性感染を起こすアイメリア・ミチスとアイメリア・プレコックスの2種類を含んでいます。特に、アイメリア・プレコックスは明確な症状を起こさないため問題視されてきませんでしたが、近年の研究により、生産性に悪影響を及ぼすことがわかってきました2)3)4)。エバント®は、アイメリア・プレコックスを含む国内初のワクチンとなります。

アイメリア・プレコックスの病変と生産性への影響

アイメリア・プレコックスは、通常不顕性感染を起こすため、明確な症状を示すことはありません。しかし、アイメリア・プレコックスのオーシストを人工的に感染させた試験の報告では、病理組織学的に腸絨毛の萎縮が認められました(図4)。腸絨毛は腸管から栄養を吸収する働きをもつことから、腸絨毛の損傷は組織が回復するまでの期間、栄養の吸収に悪影響を及ぼします。別の報告では、アイメリア・プレコックスの感染により平均増体重と飼料要求率が非感染鶏よりも悪化しました2)3)。さらに、アイメリア・プレコックスとアイメリア・アセルブリナを混合感染させると、それぞれを単独感染させたときよりも生産性の低下が増悪することがわかっています4)。野外では1つのコクシジウムが単独感染していることは少なく、複数のコクシジウムが重複感染していることが多いため、アイメリア・プレコックスとアイメリア・アセルブリナの混合感染が野外でも起こっていることは十分考えられます。エバント®はこれら不顕性感染を起こす種のコクシジウムを含み、コクシジウム症に関連する臨床症状(下痢)、消化管病変及びオーシスト排泄を軽減します。

図4 アイメリア・プレコックスに感染させた小腸粘膜組織の病変

図4 アイメリア・プレコックスに感染させた小腸粘膜組織の病変

※「エバロン®」「エバント®」は製造販売業者:LABORATORIOS HIPRA, S.A.、販売元:共立製薬株式会社の製品となります。

ご使用に際しては、製品添付文書をお読みください。

【参照】
1)Matsubayashi et.al. Morphological and molecular identification of Eimeria spp. in breeding chicken farms of Japan. J. Vet. Med. 2020
2)Williams et.al. Pathogenesis of Eimeria praecox in chickens: virulence of field strains compared with laboratory strains of E. praecox and Eimeria acervulina. Avian Pathology, 2009
3)HIPRA社内資料
4)Reperant et.al. Pathogenicity of Eimeria praecox alone or associated with Eimeria acervulina in experimentally infected broiler chickens. Avian Pathology, 2012
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