寄生虫の感染方法について
寄生虫の感染方法についてご説明します。寄生虫は、宿主へ感染することで増殖します。寄生虫の宿主への感染経路は主に以下の4つです。
① 餌や水を口にした際や毛繕いをした際などに口から感染(=経口感染)
② 蚊が吸血する際やハエが止まった際などに皮膚から感染(=経皮感染)
③ 交尾や宿主同士が触れ合った際などに感染(=交尾感染・接触感染)
④ 母乳や胎盤を通じて、母親から胎仔や子供へ感染(=垂直感染)
① 餌や水を口にした際や毛繕いをした際などに口から感染(=経口感染)
② 蚊が吸血する際やハエが止まった際などに皮膚から感染(=経皮感染)
③ 交尾や宿主同士が触れ合った際などに感染(=交尾感染・接触感染)
④ 母乳や胎盤を通じて、母親から胎仔や子供へ感染(=垂直感染)
図1 感染経路
以上のように、寄生虫は様々な方法を用いて宿主へ感染することが出来ます。
寄生虫に感染している家畜を他の家畜に近づけない、蚊やハエを家畜に近づけないことは寄生虫の感染経路を断つことになり、寄生虫症対策として有効です。
寄生虫に感染している家畜を他の家畜に近づけない、蚊やハエを家畜に近づけないことは寄生虫の感染経路を断つことになり、寄生虫症対策として有効です。
生活環
そもそも宿主とはいったい何なのでしょうか。
寄生虫が寄生する動物を宿主と呼びます。寄生虫の成長ステージごとに別の宿主に寄生する場合、幼虫の段階で寄生する宿主を中間宿主と呼びます。一方で、成虫の段階で寄生する宿主を終宿主と呼びます。
中には、寄生虫にとって寄生する必要はないものの、寄生虫の感染や伝播に有利になるような宿主が存在し、これを待機宿主と呼びます。この場合、寄生虫は成長を途中で止めて、待機宿主が次の宿主に捕食される機会を待つことになります。
寄生虫が寄生する動物を宿主と呼びます。寄生虫の成長ステージごとに別の宿主に寄生する場合、幼虫の段階で寄生する宿主を中間宿主と呼びます。一方で、成虫の段階で寄生する宿主を終宿主と呼びます。
中には、寄生虫にとって寄生する必要はないものの、寄生虫の感染や伝播に有利になるような宿主が存在し、これを待機宿主と呼びます。この場合、寄生虫は成長を途中で止めて、待機宿主が次の宿主に捕食される機会を待つことになります。
図2 生活環のモデル図
寄生虫は、各宿主を経て幼虫から成虫へと発育・変態し、虫卵(ちゅうらん)や幼虫などの次の世代を生むことを繰り返します。このサイクルのことを生活環と呼びます。
寄生虫はその種類ごとに生活環が異なっています。次では、実際の寄生虫を具体例に、生活環についてより詳しくご説明していきます。
寄生虫はその種類ごとに生活環が異なっています。次では、実際の寄生虫を具体例に、生活環についてより詳しくご説明していきます。
肝蛭(かんてつ)の生活環
まずは肝蛭をご紹介します。肝蛭は吸虫の1種で、成虫が葉っぱのような形をしています。牛の肝臓や胆のうに寄生して、肝臓の炎症を起こし、食欲廃絶や削痩、貧血といった症状を引き起こします。
肝蛭の生活環は以下の通りです。
① 終宿主である牛の糞便から虫卵が排泄されます。
② その後、孵化した幼虫が水田や小川に生息する巻貝(=中間宿主)に寄生します。
③ 巻貝の中で成長した幼虫は水中に出てきて、稲や水草に付着します。
④ この稲などの植物を牛が食べることで、肝蛭に感染します。
⑤ 肝蛭は牛の体内で成虫になり、虫卵を産生します。虫卵は糞便とともに排泄されます。
肝蛭の生活環は以下の通りです。
① 終宿主である牛の糞便から虫卵が排泄されます。
② その後、孵化した幼虫が水田や小川に生息する巻貝(=中間宿主)に寄生します。
③ 巻貝の中で成長した幼虫は水中に出てきて、稲や水草に付着します。
④ この稲などの植物を牛が食べることで、肝蛭に感染します。
⑤ 肝蛭は牛の体内で成虫になり、虫卵を産生します。虫卵は糞便とともに排泄されます。
図3 肝蛭の生活環
このような生活環をもつ肝蛭は、稲わらを給与していた特定の地域にてよく見られた寄生虫でした。しかし、稲わらのサイレージ化や駆虫薬といった肝蛭症対策の普及と農薬使用による巻貝の減少などにより、現在ではあまり見られなくなりました。
牛捻転胃虫(うしねんてんいちゅう)の生活環
次に、牛捻転胃虫についてご紹介します。牛捻転胃虫は線虫の1種で、成虫の見た目が糸のような形をしています。
牛の第4胃に寄生して、栄養障害や貧血といった症状を引き起こします。牛捻転胃虫をはじめ、牛の消化管に寄生する多種類の線虫による胃腸炎を「寄生性胃腸炎」と呼ぶこともあります。
牛捻転胃虫の生活環は以下の通りです。
① 宿主である牛の糞便から虫卵が排泄され、孵化します。
② その後、孵化した幼虫を牧草とともに牛が食べることで、牛捻転胃虫に感染します。
③ 牛捻転胃虫は牛の体内で成虫となり、虫卵を産生します。虫卵は糞便とともに排泄されます
牛の第4胃に寄生して、栄養障害や貧血といった症状を引き起こします。牛捻転胃虫をはじめ、牛の消化管に寄生する多種類の線虫による胃腸炎を「寄生性胃腸炎」と呼ぶこともあります。
牛捻転胃虫の生活環は以下の通りです。
① 宿主である牛の糞便から虫卵が排泄され、孵化します。
② その後、孵化した幼虫を牧草とともに牛が食べることで、牛捻転胃虫に感染します。
③ 牛捻転胃虫は牛の体内で成虫となり、虫卵を産生します。虫卵は糞便とともに排泄されます
図4 牛捻転胃虫の生活環
このように牛捻転胃虫は中間宿主を必要としません。また、牧草と一緒に食べることで感染するため、放牧牛で発生が見られます。
ここまでで2種類の寄生虫について、それぞれご説明しました。
同じ牛に感染する寄生虫でも、中間宿主がいるかいらないか、寄生する部位(肝臓や第4胃など)が異なり、多種多様であることが分かります。
ここまでで2種類の寄生虫について、それぞれご説明しました。
同じ牛に感染する寄生虫でも、中間宿主がいるかいらないか、寄生する部位(肝臓や第4胃など)が異なり、多種多様であることが分かります。
猫胃虫(ねこいちゅう)の生活環
最後に牛ではありませんが、待機宿主が存在する生活環の具体例として猫胃虫をご紹介します。猫胃虫は線虫の1種で、牛捻転胃虫と同様に成虫の見た目が糸のような形をしています。
猫の胃粘膜に寄生して、胃炎や潰瘍といった症状を引き起こします。
猫胃虫の生活環は以下の通りです。
① 終宿主である猫の糞便から虫卵が排泄されます。
② その後、ゴキブリなどの昆虫(=中間宿主)が糞便とともに虫卵を食べることで、昆虫の中で虫卵が孵化します。
(③ ネズミやカエル、小鳥などの小動物(=待機宿主)が昆虫を食べた場合、孵化した幼虫は小動物に寄生します)
④ この昆虫または小動物を猫が食べることで、猫胃虫に感染します。
⑤ 猫胃虫は猫の体内で成虫となり、虫卵を産生します。虫卵は糞便とともに排泄されます。
猫の胃粘膜に寄生して、胃炎や潰瘍といった症状を引き起こします。
猫胃虫の生活環は以下の通りです。
① 終宿主である猫の糞便から虫卵が排泄されます。
② その後、ゴキブリなどの昆虫(=中間宿主)が糞便とともに虫卵を食べることで、昆虫の中で虫卵が孵化します。
(③ ネズミやカエル、小鳥などの小動物(=待機宿主)が昆虫を食べた場合、孵化した幼虫は小動物に寄生します)
④ この昆虫または小動物を猫が食べることで、猫胃虫に感染します。
⑤ 猫胃虫は猫の体内で成虫となり、虫卵を産生します。虫卵は糞便とともに排泄されます。
図5 猫胃虫の生活環
このように、猫胃虫は待機宿主である小動物がいない場合でも生活環が成立します。待機宿主が存在する寄生虫は、食物連鎖の流れを利用して宿主への感染や伝播を有利にします。そのため、待機宿主が存在する寄生虫は、終宿主が肉食動物である場合が多いです。
プレパテントピリオド
肝蛭や牛捻転胃虫、猫胃虫は、幼虫の状態で宿主に感染します。中には、虫卵の状態で宿主に感染する寄生虫も存在します。いずれにしても、寄生虫が宿主に感染してから、幼虫が成虫に発育し、虫卵を産出するまでには時間がかかります。この期間をプレパテントピリオドと呼びます。
プレパテントピリオドは、寄生虫の種類ごとにそれぞれ決まっています。しかし、線虫の種類によってはその限りではありません。
線虫の中には、冬に糞便中の虫卵数が激減するものがいます。これは秋から冬の間は幼虫の発育が停止するためです。その後、春になり暖かくなると成虫への発育を再開し、糞便中の虫卵数が増えます。これをスプリングライズ(=春季顕性化現象)と呼びます。
プレパテントピリオドは、寄生虫の種類ごとにそれぞれ決まっています。しかし、線虫の種類によってはその限りではありません。
線虫の中には、冬に糞便中の虫卵数が激減するものがいます。これは秋から冬の間は幼虫の発育が停止するためです。その後、春になり暖かくなると成虫への発育を再開し、糞便中の虫卵数が増えます。これをスプリングライズ(=春季顕性化現象)と呼びます。