豚への必須アミノ酸給与 ~大切な飼料、無駄になっていませんか~

豚への必須アミノ酸給与 ~大切な飼料、無駄になっていませんか~

家畜に必要な三大栄養素のひとつであるタンパク質は、家畜の生命維持や、発育、繁殖などの活動のために大変重要な役割を果たしています。タンパク質は20種類のアミノ酸から構成され、その一部は体内では合成できないため、飼料から必須アミノ酸として摂取する必要があります。今回は養豚における必須アミノ酸給与についてご紹介します。

制限アミノ酸「リジン」の要求量と給与のポイント

アミノ酸はバランスが重要

タンパク質を構成するアミノ酸のうち、体内では合成されないものは必須アミノ酸と呼ばれています。アミノ酸要求量に関する研究は急速に進み、飼料タンパク質の栄養価は必須アミノ酸で評価されるようになりました。必須アミノ酸のなかに1つでも不足するものがあると、タンパク質の合成量は不足するアミノ酸の量に合わせられてしまいます。この不足しやすい必須アミノ酸のことを、制限アミノ酸と呼び、豚では特に“リジン”が制限アミノ酸となることが知られています。飼料中の制限アミノ酸が不足すると、下の図のように他のアミノ酸が十分に含まれていても桶から溢れ出す水のように無駄になってしまい、アミノ酸は肝臓で尿素に変換されて尿中に窒素として排せつされてしまいます。このことはアミノ酸の「桶の理論」と呼ばれています。
アミノ酸の「桶の理論」の概念図

アミノ酸の「桶の理論」の概念図

子豚、肥育期、授乳期において最も不足しやすく重要なのはリジンです。リジンの要求量は豚の発育ステージによって変化することが知られています。暑熱条件下では肥育豚の飼料摂取量が減少し、腸管上皮がダメージを受けることから¹(LIUら,2009)、肥育成績が悪化してしまいます。
松本ら(2018)※² は暑熱環境下の肥育後期の豚にリジン、トレオニン、メチオニンを要求量の2倍の含量になるように添加して給与することで飼養成績が改善されることを明らかにしています。必須アミノ酸を給与する際は、各ステージでの要求量を与えるだけではなく、飼養条件によって給与量を変化させることも必要です。

妊娠末期、授乳期はリジンの要求量が増大

妊娠末期は胎子の成長の影響もあり、タンパク質合成に不可欠な必須アミノ酸であるリジン要求量が高くなります。梶ら(1992)³ によると、豚のリジン要求量は妊娠中期(交配後50~65日)では6.3g/日、および妊娠末期(交配後90~105日)では10.8g/日となっております。授乳期におけるリジン要求量はさらに高くなります。『日本飼養標準・豚』(2013年版)では、哺乳子豚を10頭、子豚の1日当たりの期待増体量を0.2kgとして授乳期のリジン要求量を46.8g/日と示しています。このように授乳期のリジン要求量は妊娠末期と比較しても非常に多いことが分かります。

最後に

多産系母豚を使用する農場も多くなり、1母豚あたり年間30頭離乳を達成することも珍しくなくなりました。1頭でも多く離乳させるためには飼養管理技術はもちろんですが、適切な飼料の設計が求められています。産子数が増えるにつれて母豚のアミノ酸要求量は先ほど紹介した要求量よりも多くなることもあるので注意が必要です。妊娠末期、授乳期に必須アミノ酸を配合したプレミックスを飼料に添加することで、母豚が飼料から効率よくエネルギーを利用し、農場成績が改善した事例も多くあります。



参考資料
1. LIU, F., J. YIN, M. DU, P. YAN, J. XU, X. ZHU and J. YU :2009, Heat-stress-induced damage to porcine small intestinal epithelium associated with downregulation of epithelial growth factor signaling, J.Anim. Sci. 87, 1941-1949

2. 松本 光史 , 髙木 勇治 , 井上 寛暁 , 山崎 信 , 村上 斉 , 高田 良三 :リジン、トレオニンおよびメチオニン強化飼料の給与が暑熱環境下の肥育豚の飼養成績に及ぼす影響.日本養豚学雑誌,55-4,2018.

3. 梶 雄次 , 羽鳥 恭章 , 古谷 修 , 石橋 晃:未経産豚の妊娠期および授乳期におけるリジン要求量 , 日畜会報 , 63,955-963,1992.
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