初乳中の糖度と免疫グロブリンについて
できるだけ早く、質の良い初乳を十分に飲むことが重要
豚は胎子期に母豚から胎盤を介しての免疫グロブリンなどの免疫物質の移行がありません。初乳を飲むことで免疫グロブリン(=移行抗体)を獲得することができます。
初乳には、免疫グロブリンの1種であるIgGが多く含まれてますが、分娩後の時間経過とともにその含有量は減少していきます。IgGはタンパク質でできており、子豚はIgGを小腸上皮細胞の微絨毛から吸収する必要がありますが、吸収能は徐々に低下していきます。遅くとも12時間以内に初乳を摂取することが推奨されています。
初乳には、免疫グロブリンの1種であるIgGが多く含まれてますが、分娩後の時間経過とともにその含有量は減少していきます。IgGはタンパク質でできており、子豚はIgGを小腸上皮細胞の微絨毛から吸収する必要がありますが、吸収能は徐々に低下していきます。遅くとも12時間以内に初乳を摂取することが推奨されています。
初乳中の抗体(免疫グロブリン)量は糖度で分かる?
母豚の初乳中の免疫グロブリン量が多ければ、初乳を摂取して子豚が獲得できる免疫グロブリン量も多くなります。初乳中の免疫グロブリンに関しては、IgG量を直接計測する方法もありますが、測定は容易ではありません。そのため、生産現場ではデジタル糖度計を用いて初乳中の免疫グロブリン量を推定する方法が用いられています。牛においては初乳の糖度(Brix値)と乳清IgG濃度との間には高い相関があることがわかっています(※¹)。初乳の糖度(Brix値)の計測は下の写真に示すようなデジタル糖度計に、採取した乳汁を数滴測定部位に垂らすだけで数秒以内に計測することができます。
※1 斎藤ら(2007).ホルスタイン種乳牛における初乳中免疫グロブリン(IgG)濃度の簡易推定法.岩獣会報(Iwate Vet), Vol. 33 (№ 4), 145-147
豚においても同様に、初乳中の糖度(Brix値)を免疫グロブリン値の推定に使用することが可能です。Hasanら(2016)※²の報告では以下のように、初乳中Brix値とIgG濃度に関して評価しています(表1)。
※2 S.M.K. Hasan , S. Junnikkala , A. Valros , O. Peltoniemi and C. Oliviero .(2016).Validation of Brix refractometer to estimate colostrum immunoglobulin G content and composition in the sow, Animal,Volume 10, Issue 10, Pages 1728-1733
初乳糖度計測試験紹介
必須アミノ酸を含有した種豚用混合飼料(以下「必須アミノ酸混合飼料」という)を妊娠末期と授乳期に給与することで、Brix値が変化するかについて糖度計(PAL-初乳,株式会社アタゴ)を使用し産歴毎に測定しました。また母豚の生産成績を試験群と対照群で比較しました。
試験概要
● 試験農場 : 関東地方養豚場
● 経営規模 : 母豚約200頭、一貫経営
● 試験区分
■ 試験群 : 必須アミノ酸混合飼料を母豚の通常飼料に分娩1週間前から離乳時まで添加して給与
(2021年11月20日~12月12日採材分)
■ 対照群 : 通常飼料のみ母豚に給与
(2021年10月26日~11月6日採材分)
● 経営規模 : 母豚約200頭、一貫経営
● 試験区分
■ 試験群 : 必須アミノ酸混合飼料を母豚の通常飼料に分娩1週間前から離乳時まで添加して給与
(2021年11月20日~12月12日採材分)
■ 対照群 : 通常飼料のみ母豚に給与
(2021年10月26日~11月6日採材分)
結果及び考察➀(初乳のBrix値の平均)
初乳のBrix値に関して、2産目を除いて、試験群が対照群を上回りました(表2)。Hasanら(2016)の報告を指標とすると試験群の結果は25%以上で概ね良好であったと考えられます。2産目でBrix値が低下してしまった要因としては、母豚に明らかな健康異常などは無かったことから、1産目における原体への感作の有無が関係している可能性も考えられました。
結果および考察②(出生時の体重のバラつき)
出生時体重に関しては、平均値で試験群(1.34kg)が対照群(1.32kg)を若干上回り、図1からもわかるように全体の50%の分布が平均値付近に集中していることから、必須アミノ酸混合飼料の給与により、出生時のバラつきが少なくなっていることがわかりました。試験農場様からも「子豚の大きさがまとまっていて、活力も良い」とのお声をいただきました。
結果および考察③(哺乳中事故率と離乳率)
全産次において、離乳率(正常に出生した子豚が離乳した割合)は試験群が対照群に比較して有意差はありませんでしたが、3.3%高いという結果となりました。また、本農場では種付け時の暑熱の影響で12月に離乳率が下がる傾向がありましたが、試験を実施した2021年では離乳率の低下は見られませんでした。必須アミノ酸混合飼料給与によって母豚がエネルギーを効率よく利用でき、乳量が増加し、圧死などの哺乳中事故率低下や離乳時体重の増加にもつながったと考えられました。
最後に
今回は免疫グロブリンを例にして必須アミノ酸混合飼料の給与が初乳の質にも影響するのではないかと仮説を立て初乳の糖度(Brix値)に注目して検証しました。泌乳期に不足しやすい必須アミノ酸を妊娠末期、授乳期に添加することによって、母豚の初乳に含まれる免疫グロブリン量の増加につながることが示唆されました。さらに、出生子豚の体重のバラつきも少なくすることができるため、農場での飼養管理に役立つことが期待されます。