牛の消化管内線虫と駆虫剤

牛の消化管内線虫と駆虫剤

「寄生虫」と聞いて、頭の中には何が浮かぶでしょうか?日本では一番身近な寄生虫はアニサキスでしょうか。最近世界各国ではトコジラミが問題になっています。
アニサキスは動物の体内に寄生するので内部寄生虫、トコジラミは体外に存在するので外部寄生虫と呼ばれますが、今回は牛の内部寄生虫である1.線虫類の虫卵と検査について、2.駆虫剤についてお伝えしたいと思います。

線虫類の虫卵と検査

アニサキスが人間の胃に入ると、強い腹痛などの症状が見られることがあります。人間にとっては災難ですが、アニサキスも人間には寄生できないので、目的を果たせないまま命を終えることになります。しかし、本来の好適宿主である海洋哺乳類に寄生した場合、人間のような症状は起こしません。
牛の場合も、牛を好適宿主とする線虫類が感染しても多くは症状を示しません。明確な症状は見えないかもしれませんが、寄生虫も生き物ですので、生きるためエネルギー補給が必要になります。そのため、牛が摂取した栄養分を横取りしたり吸血したりして、生体を維持し繁殖を行います。
牛が線虫類に感染しているかどうかは、主に糞便検査により確認することができます。
線虫類の卵の一部には、特徴的な形をしているものもあり、それらは外観からある程度顕微鏡検査で種類を特定できます。
例えば鞭虫卵は以下のような形をしています。
鞭虫卵

鞭虫卵

via 提供:宮崎大学農学部獣医学科獣医寄生虫病学研究室
写真は牛鞭虫卵ですが、ラグビーボールのような形で、成虫は盲腸や結腸に寄生します。この虫卵が糞便1g中に500個以上検出されると、血便排出など重篤な症状がみられるとされています。
次は、ネマトジルスの卵です。
ネマトジルス卵

ネマトジルス卵

via 出典:獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠 寄生虫病学 改訂版 130頁(緑書房)
この卵の特徴は、なんといってもその大きさ。写真では分かりにくいと思いますが、線虫類の中で一番大きい虫卵がネマトジルス卵です。成虫は小腸に寄生し、寄生の程度によっては軟便や下痢の原因となることもあります。
最後の写真は、ネマトジルスと同じ毛様線虫類の虫卵ですが、虫卵の形だけでは判別できません。
毛様線虫卵

毛様線虫卵

via 出典:獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠 寄生虫病学 改訂版 130頁(緑書房)
虫卵の中には判別するための特徴がないものもあります。これらの種類の詳細を調べたい場合は、虫卵を培養して孵化した虫の形態で判断したり、分子生物学的検査で同定したりします。

駆虫剤

牛の生産性を最大限引き出すためにも、定期的な駆虫は重要です。
線虫類の駆虫剤として、イベルメクチンやエプリノメクチンのポアオン剤がよく使われているかと思います。
両製剤の特徴を以下に挙げてみました。
※殺ダニ効果を期待する場合は、フルメトリンを使用する。

※殺ダニ効果を期待する場合は、フルメトリンを使用する。

農場の飼養形態や使用対象牛に合わせて、使いやすい製剤をご活用ください。
山羊や綿羊への使用についてご相談いただくことがありますが、ポアオン剤は牛ほどには体内吸収されないと言われます。山羊・綿羊は体が小さい分、臓器も小さいので、牛よりも少数の感染で症状が現れる可能性があります。しっかり駆虫するためには経口剤の使用をお勧めします。