牛の消化管内線虫と駆虫薬

【牛の消化管内線虫とその対策である駆虫薬について、記事を更新いたしました。】
暖かくなる春と放牧が終わる秋に、駆虫薬を投与しましょうと言われたことはありませんか?
今回は、牛の消化管内線虫とその対策である駆虫薬について、ご紹介いたします。

2026年8月19日に記事内容を一部更新いたしました。

はじめに

「寄生虫」と聞いて、何を思い浮かべますか?
日本で最も身近な寄生虫といえば、アニサキスではないでしょうか。
アニサキスのように動物の体内に寄生するものを内部寄生虫と呼びます。
今回取り上げるのは牛の内部寄生虫、とりわけ生産性に密接に関わる消化管内線虫です。
この記事では、以下の2点についてお話します。
①消化管内線虫とは…消化管内線虫による被害と紹介
②消化管内線虫に対する駆虫薬…駆虫薬の重要性と適切な投与時期

消化管内線虫とは

消化管内線虫とは、主に牛の消化管に寄生する線虫の総称です。
牛鞭虫、牛捻転胃虫、オステルターグ胃虫、クーペリア、ネマトジルス、牛腸結節虫など種類は多岐にわたります。
多くの場合、混合感染かつ種類による固有の症状が乏しいため、原因となる線虫の特定は難しいのが現状です。

消化管内線虫による被害

アニサキスが寄生している刺身を人が食べると、激しい腹痛などの症状が引き起こされます。
実はアニサキスにとって、人間は本来の宿主(=終宿主)ではありません。
そのため、本来の生活環を完遂できないまま死滅してしまいます。
一方、終宿主である海洋哺乳類(イルカなど)に寄生した場合には、人間のような激しい症状は起こさずに、本来の生活環を完遂します。
寄生虫の生活環については、別記事で紹介しています。(『おさらいしよう!寄生虫のキホン(前編:寄生虫について)』)


牛の消化管内線虫にも同じことが言えます。
牛を終宿主とする線虫が感染しても、多くの場合は、明確な症状が現れません。
しかし、寄生虫も生き物です。
牛が摂取した栄養分を横取りしたり、消化管粘膜から吸血したりして、自らの生命維持と繁殖に利用しています。

つまり、目に見える症状がなくても、増体率の低下、飼料効率の悪化、乳量の減少といった「見えない経済損失」が静かに蓄積しています。
この被害を防ぐ第一歩が、虫卵検査による感染状況の把握です。

虫卵検査から見える消化管内線虫

虫卵検査とは、牛の糞便に排出された寄生虫の虫卵を検査することで、感染状況を把握する方法です。
線虫の虫卵の中には、特徴的な形をしているものがあります。
そのため、虫卵検査によって、ある程度の種類を鑑別できます。
ここからは、鑑別しやすい2種類の虫卵をそれぞれの特徴とともにご紹介します。

①牛鞭虫卵(図1)

図1. 牛鞭虫卵

図1. 牛鞭虫卵

外観
ラグビーボール型で、両端に小さな栓(プラグ)がついている。
特徴
● 成虫は、盲腸から結腸の粘膜に寄生する。
● おが屑は虫卵が発育しやすい環境であるため、おが屑牛舎にて重感染が発生しやすい。
● 糞便1gあたり500個以上の虫卵が検出される水準になると、血便の排出といった重篤な症状がみられる。
via 写真提供:宮崎大学農学部獣医学科獣医寄生虫病学研究室

②ネマトジルス(図2)

図2. ネマトジルス

図2. ネマトジルス

外観
消化管内線虫の虫卵の中で、最大サイズを誇る。
特徴
● 成虫は、小腸に寄生する。
● 寄生数が増えると、軟便や下痢の原因となる。
via 出典:獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠 寄生虫病学 改訂版 130頁(緑書房)
一方で、虫卵検査では種類の鑑別が難しいものもあります。
図3. 毛様線虫科の虫卵

図3. 毛様線虫科の虫卵

via 出典:獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠 寄生虫病学 改訂版 130頁(緑書房)
捻転胃虫、牛捻転胃虫、オステルターグ胃虫などは、ネマトジルスと同じ毛様線虫類に属します。
これらの虫卵は、サイズ・形状が他の消化管内線虫と類似しており、虫卵の外観だけでは区別がつきません。
(ただし、牛捻転胃虫は他よりもサイズが比較的大きいため、鑑別が可能です)
そのため、種類を同定する場合は、虫卵を培養して孵化した幼虫の形態を観察する方法や、PCRなどの遺伝子検査が必要となります。

消化管内線虫対策としての駆虫薬

消化管内線虫に感染した牛は明確な症状を示さないことがほとんどです。
しかし、増体率の低下、乳量の減少、飼料効率の悪化という形で悪影響を及ぼしています。
特に影響が大きいのが育成期の若齢牛です。
この時期の発育遅延は、初産月齢の遅れ生涯生産性の低下など、長期にわたって尾を引きます。
「症状が出てないから大丈夫」ではなく、「症状が出る前に対処する」のが、計画的な駆虫の考え方です。

消化管内線虫への駆虫薬といえば、ポアオン剤が普及しています。
ポアオン剤とは、牛の背中にかけて塗布することで投与できる薬剤です。
投与が簡便で省力的であり、牛に対してもストレスが少ないのがメリットです。
以下に、代表的なポアオン剤2製剤の比較をお示しします。(表1)
大きな違いは、エプリノメクチンは使用禁止期間が短く、泌乳牛に対して投与できる点です。
製剤名 効能・効果 使用禁止期間
内部寄生虫 外部寄生虫 牛乳
イベル
メクチン
オステルターグ胃虫、牛腸結節虫、クーペリア、毛様線虫、乳頭糞線虫及び牛肺虫 疥癬ダニ(食皮ヒゼンダニ)、シラミ及びノサシバエ マダニによる吸血の抑制 食用に供するためにと殺する前37日間 泌乳牛には
投与不可
エプリノ
メクチン
オステルターグ胃虫、クーペリア、毛様線虫、ネマトジルス、牛鞭虫、牛鉤虫及び牛肺虫 疥癬ダニ(食皮ヒゼンダニ)、シラミ及びハジラミ 食用に供するためにと殺する前20日間 牛乳に対して、使用禁止期間なし

表1. イベルメクチン製剤とエプリノメクチン製剤の違い

※殺ダニ効果を期待する場合は、フルメトリンを使用してください。

農場の飼養形態や使用対象牛に合わせて、使いやすい製剤をご活用ください。
薬剤の選択には、かかりつけの獣医師にご相談いただくことをお勧めします。

駆虫薬の投与時期

消化管内線虫の感染は、季節と放牧に密接に関係しています。
そのため、春(入牧)から秋(下牧)までの間、定期的な駆虫が推奨されます。

春(入牧)の駆虫

牛の体内では、消化管内線虫が発育を休止した状態で越冬していることがあります。
春になり気温が上昇すると、これらが一斉に活動を再開し、大量の虫卵を糞便中に排出し始めます(=スプリングライズ)
この時期に駆虫を行わずに放牧を開始すると、牧草地が虫卵で汚染され、放牧シーズンを通じて感染圧が高い水準に上昇していきます。
入牧前に駆虫を実施することで、牧草地への虫卵排出を抑制し、シーズン全体の感染リスクをコントロールすることができます。

秋(下牧)の駆虫

放牧期間中、牛は牧草とともに虫卵・感染幼虫を繰り返し摂取しています。
そのため、秋には体内の寄生虫負荷が年間で最も高い水準に達しています。
下牧の際に駆虫を行うことで、蓄積した虫体を排除し、冬での栄養ロスや体調不良を予防できます。
さらに重要なのが、発育を休止している消化管内線虫への対応です。
これらに対して駆虫することで、翌春の問題を先手で抑えることが可能になります。

放牧する場合の駆虫プログラム

春(入牧)
秋(下牧)

駆虫タイミング

しずくしずく

消化管内線虫が
活発になる時期

しずく

放牧によって
感染圧が高い時期

しずくしずく

体内の寄生虫負荷
が最も高い時期

舎飼いのみの場合での駆虫

「うちは放牧をしていないから関係ない」と思われるかもしれません。 しかし、舎飼い中心の農場でも、敷料や飼料を介した感染、導入牛からの持ち込みなどにより、線虫類が侵入する可能性は十分にあります。
例として、2000年の宮城県の疫学調査(1のデータをご紹介します。 舎飼い黒毛和牛の母牛(45頭)を虫卵検査した結果、ネマトジルスが2.2%、牛捻転胃虫が4.4%、一般線虫が15.6%で検出されたと報告されています。
駆虫薬の効果を最大限発揮するためには、最適な駆虫プログラムを組むことが重要です。
実際の駆虫プログラムを検討される際は、かかりつけの獣医師にご相談いただくことをお勧めします。

舎飼いの場合の駆虫プログラム

必要に応じて
分娩2週間前 分娩

駆虫タイミング

しずく

子牛への伝播リスクの軽減
乳量や乳質の改善

1ヵ月齢 6ヵ月齢

駆虫タイミング

しずく

母牛から伝播した
寄生虫の駆虫

しずく

同居子牛から伝播した
寄生虫の駆虫

おわりに

今回の記事では、牛の消化管内線虫を紹介するとともに、駆虫薬の重要性と投与時期について、ご紹介しました。
計画的な駆虫を実施することで、生産性の向上を図っていきましょう。
出典
(1:臨床獣医2018年2月号「消化管内線虫の湿潤状況と駆虫の効果(髙橋史昭)」


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