養鶏で用いられる抗コクシジウム剤
養鶏で用いられる抗コクシジウム剤は、「治療」と「予防」の目的で使われています。主に治療のために用いられる薬剤は、抗菌剤の一種である「サルファ剤」です。サルファ剤は代謝を阻害することにより抗コクシジウム作用を示します。一方、主に予防のために使用される薬剤としては、ナイカルバジンなどの合成抗菌剤や、サリノマイシンなどのポリエーテル系抗生物質 があります。ポリエーテル系抗生物質は、コクシジウムの細胞膜に作用し、細胞を破裂させることで抗コクシジウム作用を示す「イオノフォア」と呼ばれる抗菌性物質です(表1)。
しかし、これらの薬剤は、コクシジウムの感染と増殖を完全に防ぐことはできません。抗コクシジウム剤が開発され、普及したことでコクシジウム 症の被害を大きく軽減できるようになりましたが、その一方で薬剤耐性の問題も明らかになってきました。
世界中で問題になっている鶏コクシジウムの薬剤耐性
抗コクシジウム剤は、現在でも鶏コクシジウム症のコントロールに重要な役割を果たしています。しかし、これら抗コクシジウム剤は長期にわたって繰り返し使用されてきていて、さらに近年は新しい抗コクシジウム剤が開発されていないことから、コクシジウムの耐性株の増加が懸念されます。実際に米国、南米、ヨーロッパ、中国など世界各国で報告があります 3) 4)。
コクシジウムは寄生虫の一種ですので、細菌やウイルスよりも複雑な構造の生き物です。ある薬剤に耐性かどうか(薬剤感受性)の検査は、細菌のように実験室内で実施できるわけではなく、生きた鶏を用いた感染実験が必要になります。そのため、コクシジウムの薬剤耐性の報告は少なく、その実態がはっきりとわかっているとはいえない状況です。
国内では1990年池田らの報告5)以降、大がかりな調査を行った報告はありません。そのため、現在、国内においてもコクシジウムの薬剤耐性株が潜んでいて、問題となっている可能性があります。予防として抗コクシジウム剤を使っているにも関わらず、コクシジウム症の被害が続いている農場では、耐性株が悪さをしているかもしれません。また、明らかな症状がみられなくても、耐性株による不顕性コクシジウム症が腸管粘膜を傷つけ、腸内環境の悪化や壊死性腸炎などの増加をもたらし、結果として生産成績の低下につながっている可能性があります。
コクシジウムは寄生虫の一種ですので、細菌やウイルスよりも複雑な構造の生き物です。ある薬剤に耐性かどうか(薬剤感受性)の検査は、細菌のように実験室内で実施できるわけではなく、生きた鶏を用いた感染実験が必要になります。そのため、コクシジウムの薬剤耐性の報告は少なく、その実態がはっきりとわかっているとはいえない状況です。
国内では1990年池田らの報告5)以降、大がかりな調査を行った報告はありません。そのため、現在、国内においてもコクシジウムの薬剤耐性株が潜んでいて、問題となっている可能性があります。予防として抗コクシジウム剤を使っているにも関わらず、コクシジウム症の被害が続いている農場では、耐性株が悪さをしているかもしれません。また、明らかな症状がみられなくても、耐性株による不顕性コクシジウム症が腸管粘膜を傷つけ、腸内環境の悪化や壊死性腸炎などの増加をもたらし、結果として生産成績の低下につながっている可能性があります。
薬剤耐性問題への対策
抗コクシジウム剤耐性対策の一般的な方法として、抗コクシジウム剤のローテーションがあります。定期的に予防のための薬剤を切り替えることにより、同じ抗コクシジウム 剤の長期的な連続使用を避けることができます。ただし、世界的な動きとして、薬剤耐性への問題意識の高まりや、消費者からの要望や規制の強化などの要因により、抗コクシジウム剤の代わりとなる、コクシジウムの対策が求められてきています。
その 一つとして、鶏コクシジウム感染症ワクチンの接種があります。抗コクシジウム剤を使わずにワクチンでコクシジウム症のコントロールができれば、薬剤使用量を削減することができます。さらに、コクシジウムの症状を軽減し、オーシストの排出数を減らすことができれば、農場全体の汚染レベルを低下させ、治療に用いる薬剤の使用量を減らせることが期待できます。
また、ワクチンの使用により、抗コクシジウム剤に耐性のある野外株が、感受性のあるワクチン株に置き換わることで、抗コクシジウム剤に対する感受性を回復させる(薬剤の効きがよくなる)ことを示す報告があります3) 6) 7)。
この性質を利用して、海外の事例では、ブロイラー農場で抗コクシジウム剤を予防として添加する期間(投薬期)と、薬剤を使用せずコクシジウムワクチンを接種する期間(ワクチン接種期)を、数サイクルごとに交互に繰り返すローテーションプログラムの報告があります7)。抗コクシジウム剤/ワクチンのローテーションプログラムにより、年間を通しての抗コクシジウム剤の使用量を削減でき、またコクシジウムの薬剤感受性の回復ができれば投薬期のコクシジウムコントロールがより効果的になることから、生産性向上につながる可能性があります。
その 一つとして、鶏コクシジウム感染症ワクチンの接種があります。抗コクシジウム剤を使わずにワクチンでコクシジウム症のコントロールができれば、薬剤使用量を削減することができます。さらに、コクシジウムの症状を軽減し、オーシストの排出数を減らすことができれば、農場全体の汚染レベルを低下させ、治療に用いる薬剤の使用量を減らせることが期待できます。
また、ワクチンの使用により、抗コクシジウム剤に耐性のある野外株が、感受性のあるワクチン株に置き換わることで、抗コクシジウム剤に対する感受性を回復させる(薬剤の効きがよくなる)ことを示す報告があります3) 6) 7)。
この性質を利用して、海外の事例では、ブロイラー農場で抗コクシジウム剤を予防として添加する期間(投薬期)と、薬剤を使用せずコクシジウムワクチンを接種する期間(ワクチン接種期)を、数サイクルごとに交互に繰り返すローテーションプログラムの報告があります7)。抗コクシジウム剤/ワクチンのローテーションプログラムにより、年間を通しての抗コクシジウム剤の使用量を削減でき、またコクシジウムの薬剤感受性の回復ができれば投薬期のコクシジウムコントロールがより効果的になることから、生産性向上につながる可能性があります。
おわりに
コクシジウムの被害を軽減し、薬剤コストを抑えるために抗コクシジウム剤の適切な使用は重要です。抗コクシジウム剤を今後も効果的に使っていくため、薬剤耐性問題に対してもぜひ関心を向けてみてください。また、これを機に、農場のコクシジウム対策状況や抗コクシジウム剤の使用プログラムをあらためて見直されてはいかがでしょうか?この記事がその一助になれば幸いです。
【参考文献】
1) 角田. 鶏コクシジウム症. チクサン出版社,1983
2) 川原. 鶏コクシジウム症の対策および今後の戦略. 鶏病研究会報48巻, 2012
3) Peek et.al. Coccidiosis in poultry: anticoccidial products, vaccines and other prevention strategies. Veterinary Quarterly 31, 2011
4) Bafundo et.al. Sensitivity of Eimeria field isolates in the United States: responses of nicarbazin-containing anticoccidials. Poultry Science 87, 2008
5) 池田. 野外における鶏コクシジウムの薬剤感受性の現状. 鶏病研究会報26巻, 1990
6) Chapman et.al. Restoration of sensitivity to salinomycin in Eimeria following 5 flocks of broiler chickens reared in floor-pens using drug programs and vaccination to control coccidiosis. Poultry Science 94, 2015
7) Chapman et.al. Vaccination of chickens against coccidiosis ameliorates drug resistance in commercial poultry production. International Journal for Parasitology: Drugs and Drug Resistance 4, 2014