ランピースキン病から牛を守ろう!

2024年11月6日、福岡県内の2農場でランピースキン病の発生が国内では初めて確認されました。
2025年1月23日時点では、福岡県19農場、熊本県3農場で発生を確認し、各農場における吸血昆虫の防除や消毒、自主淘汰等の防疫対策、並びに福岡県の発生農場から半径20㎞以内のワクチン接種が効果を上げ、発症頭数が0頭になっています。

国内でのランピースキン病発生の経過

国内でのランピースキン病発生の経過

出典:「国内でのランピースキン病発生の経過(農林水産省)」 (https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/lsd.html) (2025年3月26日時点のグラフを引用)
ランピースキン病(Lumpy Skin Disease:以下LSD)の疾病名は、英語で「ボコボコした」「こぶだらけの」を意味しているLumpyを由来として、皮膚の状態を表したものになっています。病原体はランピースキン病ウイルスというポックスウイルス科カプリポックス属のウイルスです。このウイルスはエンベロープと呼ばれる脂質の膜を有しており、ほとんどの消毒薬が有効です。牛や水牛に感染しますが、人に感染した事例は報告されていません。家畜伝染病予防法において「届出伝染病」に指定されています。
ウイルスについて詳しく知りたい場合は「微生物のキホン」記事をご確認ください。
海外での発生は、1929年にザンビアで初めて報告されて以降、アフリカで感染が拡大しました、2014年以降には中東、南ヨーロッパ、中央アジアへと急速に拡がり、2019年に中国、インド、2020年にネパール、台湾を含む8国、2021年にタイ、カンボジアを含む6国、2022年にインドネシア、シンガポール、2023年10月には韓国で発生するなど感染の拡大が危惧されていました。一方、イギリス、EU(ギリシャ、ブルガリアは除く)、アメリカ大陸、オーストラリア、ニュージーランドでは、2005年1月以降に発生の報告はありません。
アジアにおけるランピースキン病の発生報告状況

アジアにおけるランピースキン病の発生報告状況

症状は、感染後4~14日間の潜伏期間を経て発熱、脚の腫れ、跛行、体表リンパ節の腫脹、泌乳量の減少が見られます。皮膚の結節は、最初は硬く丸くわずかに盛り上がる程度から、その後、直径1~8㎝に肥厚し、全身へ広がります。とくに頭、首、乳房、外陰部、陰嚢周辺は多発傾向がみられます。口腔、消化管の粘膜、気管、肺にも発生しますので、食欲の減退や呼吸器症状が現れます。泌乳ピーク期の乳牛や子牛では症状が重くなる傾向があり、生産性の低下や経済的な被害が起こります(死亡率は1~5%)。
Molecular Characterization of the 2020 Outbreak of Lumpy Skin Disease in Nepal (4732)

© 2022 by the authors. Licensee MDPI, Basel, Switzerland. Molecular Characterization of the 2020 Outbreak of Lumpy Skin Disease in Nepal (閲覧日:2025年3月4日)
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感染経路は主に以下の三つがあげられます。
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感染拡大の要因には、サシバエ等の吸血昆虫の関与が考えられています。サシバエの体内ではウイルスの増殖が証明されていませんが、サシバエは24時間で21~28㎞を移動できる飛翔能力を持ち、さらに羽化後1週間で産卵開始(生涯800個程度)する繁殖能力、牛床や堆肥を主な発生源とする特徴があります。さらにウイルスについても感染能力を8日間持つウイルスが存在していることから、発生農場でのサシバエ対策(幼虫対策)の重要性が理解できます。
感染拡大の要因例

感染拡大の要因例

皮膚の結節病変部やかさぶたに存在しているウイルスは最大35日間感染能力を保ち、牛舎内で脱落した皮膚結節等は感染源としても注視していかなくてはなりません。
日本への侵入ルートについては、ウイルスを保持した吸血昆虫が風に乗り長距離を移動した可能性や船舶により運ばれた可能性が考えられていますが、特定には至っていません。近隣国での発生状況について警戒感を持って注視していくことが必要です。
LSDは、「届出伝染病」ではありますが、主な症状が皮膚病変であることや死亡率の低さから「福岡県での発生でしょ」「発症牛がいなくなったので終了では」との認識を持っているのではないでしょうか。しかし、6年間でアジア全体に発生が拡大したスピードを考慮し、これから気温が上昇する季節を迎えるにあたり、日本中のどこでも発生のリスクがあるという認識を持つことが肝要です。
対策は、早期発見が大事であるとともに、発生のリスクに対して準備しておくことが求められます。
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具体的な対策例

具体的な対策例

防虫ネット

防虫ネット

ランピースキン病から牛を守り、早期の清浄化を図るためにも、早期発見や各農場での「侵入防止対策」、万が一発生した場合における迅速かつ広範囲なワクチン接種によるコントロールなどの「まん延防止対策」、並びに清浄化を維持している国の状況も参考にしながら「発生予防対策」の推進が望まれます。
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