水産用ワクチン接種のタイミング

水産用ワクチン接種のタイミング

現在では複数の魚病に対するワクチンが開発され、それらを混合した多価ワクチンや効果を高めるためにアジュバントが添加されたワクチンも販売されています。
一方で種苗の導入時期の多様化や高水温になる時期の早期化などの環境変化も起きていることから、ワクチンの接種時期は非常に重要な養殖の管理点になっています。
そこで、今回は接種タイミングを中心に、ワクチンをより効果的に使用する方法についてご紹介します。

適切な水温であること(低過ぎず、高水温になる前に!)

接種の適水温は魚種やワクチン種によって若干異なりますが、ブリの場合は15~25℃です。

これ以外の低水温や高水温帯では十分な免疫が獲得できないことや、高水温の場合は接種時の酸欠リスクや後述する病気が発生する可能性が高いことからも接種はできません。
特に最近は25℃以上の高水温になる時期が早まっていることから、できるだけ早めに接種を検討する必要があります。

販売されている水産用ワクチンの場合、それぞれ用法・用量をはじめ使用上の注意が記された添付文書が添付されています。
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また、ぶり属の場合は20~25℃の水温帯での接種のほうが高い効果が得られますが、早期採卵の人工種苗の場合は稚魚期が冬場になる等の場合は15℃以上で接種することになります。

魚は適切なサイズで(大きいほど効果は高い)

水温同様に添付文書には接種対象のサイズも記されています。これも魚種とワクチン種によって異なりますが、ブリの場合は10g若しくは20g以上が対象となっています。

接種できるサイズは上記の通りですが、最近使用が増えているオイルアジュバントワクチンの場合は、接種時のサイズが小さいと魚への負担が大きいため、できれば50g以上での接種をお勧めします。また、100g以上と大きくなるほど免疫反応が良く効果が高く持続性も高い傾向があるようです。

但し、これらのサイズになるまで接種をしないということは、それまでに魚病が発生してしまうリスクが高いことが問題です。また、オイルアジュバントワクチンのイリドウイルスの抗体誘導は水性ワクチンに比べて遅い傾向があります。イリドウイルス感染症が心配な時は水性ワクチン、もしくは早めの接種が必要です。

魚病の発生前に(手遅れにならないうちに!)

ワクチン接種の目的は発生前に魚病を予防することです。よって、魚病の発生前に接種して免疫を獲得させることが重要です。

ブリの場合、モジャコを導入するとすぐに魚病の発生が始まり、水温が上がるにつれてその種類もどんどん増えていきます。代表的な魚病の発生の目安の水温は、ビブリオ病は18℃、レンサ球菌症は20℃、類結節症は23℃、イリドウイルス病は24℃などで、それぞれの病気に対してワクチンの効果を得るためにはそれぞれの発生水温になる前に接種を済ませておく必要がありますし、接種してから魚が免疫獲得するための期間も必要です。

もし接種がこれらの魚病の発生に間に合わなかった場合は、投薬等で治療を行い、魚病が治まってから接種することになりますが、それによって接種時期が遅れることになり、更に他の魚病の発生時期にもなってしまうといった悪循環に陥ってしまいます。

特にイリドウイルス病はワクチン以外に対処方が無く、ワクチンの接種が手遅れになるのは絶対に避けるべきで、一旦発病してしまうと接種もできなくなり手の打ちようが無い魚病です。

まずはこれらの魚病への対策を考えて、接種はできるだけ早い時期に行うべきで、遅くとも水温が23℃台になる前(多くの海域では6月中)には接種を終える必要があります。

もし接種前に魚病が発生してしまった場合には治療を行い、治まってから接種するようにしましょう。魚病が発生した状態での接種はワクチン効果が得られないばかりか、感染を広げたり重症化してしまう可能性があるので絶対に避けてください。
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より効果を上げるために(追加接種が有効!)

モジャコ期により多種の魚病に対する予防効果を得るためには“できるだけ早期の接種”が必要ですが、出荷まで長期的に発生するレンサ球菌症に対しては100g以上のサイズでの接種のほうがより高い効果が得られるようです。特に最近増加しているⅡ型α溶血性レンサ球菌症(Ⅱ型レンサ)は出荷まで発症が続くことが問題になっていて、より長いワクチン効果が求められます。

一般的に不活化ワクチンは十分な効果を得るために2回接種されることが多く、1回目の接種から2週間程度開けて2回目を接種することにより効果が更に上がるとされています。Ⅱ型レンサの場合も接種サイズが大きいほど効果が高い傾向が見られます。

そこで、“できるだけ多くの魚病の対策”と“より長期の効果”を両立させる方法として、追加接種があります。

具体的な追加接種のスケジュールとしては、以下のように早期に1回目の接種を行い、サイズが100gを超えた後に(以降に)2回目の接種を行う方法があります。

1回目の接種が早いほど2回目の接種を早く行うことができます。もし2回目の接種時期が高水温期になってしまう場合には、高水温期を避けて水温が下がった秋以降に接種する方法でも良いでしょう、1回目の接種効果が持続している間であれば2回目の接種はそれほど慌てる必要はありません。
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最近は耐性菌が増加していることもあり、発生してからの投薬では確実な効果を得ることが難しくなっています。

今後の確実な魚病対策は、早期にワクチンを接種し、更に追加接種することによって効果を高めて長期的に予防効果を得ることです、また、そのことが薬剤耐性菌の発生を抑えることにも繋がります。

また、全ての生産コストが上昇する中、生残率を向上させることが最大の生産コスト抑制法であることは間違いありません。
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