鶏コクシジウムの寄生部位について
図1 腸管の部位とコクシジウム種
鶏コクシジウムについての研究は世界中で盛んに行われています。しかし、なぜ腸管の特定部位に寄生するのか、なぜ種によって寄生部位が違うのかについては、まだはっきりとはわかっていません。コクシジウムが腸管の表面に接着し、侵入するための入口となるタンパク質が異なるという説のほか、腸管の位置によるpH(酸性やアルカリ性の強さ)や栄養素、微生物の状態の違いなどが関与しているとも言われています¹⁾。
コクシジウムは「原虫」に分類される寄生虫です。原虫はヒトや動物、植物などと同じ「真核生物」にあたります。細菌などのいわゆる「原核生物」とよばれる微生物やウイルスよりも、ずっと高度な機能や生態を持つ、複雑な生き物です。そのため、性質や病態についての研究が細菌やウイルスよりもずっと難しく、研究がなかなか進まないのです。
コクシジウムは「原虫」に分類される寄生虫です。原虫はヒトや動物、植物などと同じ「真核生物」にあたります。細菌などのいわゆる「原核生物」とよばれる微生物やウイルスよりも、ずっと高度な機能や生態を持つ、複雑な生き物です。そのため、性質や病態についての研究が細菌やウイルスよりもずっと難しく、研究がなかなか進まないのです。
鶏コクシジウムの生活環について
寄生虫の生活環とは、動物の体内に入り、いくつかのステージを経て幼虫が成長して成虫となり、また卵を産み、ふたたび動物に感染する一連のサイクルのことをいいます。これから、コクシジウムの複雑な生活環をご説明していきます。
図2 コクシジウムの生活環
via 講談社「改訂 獣医寄生虫学・寄生虫病学1 総論/原虫」(2007)を元に作成
オーシストの成熟
コクシジウムの卵である「オーシスト」は、感染した鶏の糞便とともに「未成熟オーシスト」の状態で体外に出てきます。床や土の上に落ちたオーシストは、酸素・一定の温度と水分が存在する環境で、感染性をもつ「成熟オーシスト」になります。コクシジウムのオーシストが成熟するために適した温度は20~30℃で、この範囲より温度が低いと成熟が遅くなり、温度が高いとオーシストが熱で変形して感染性を失ってしまうことがあります。オーシストの中では、コクシジウムの幼虫である「スポロゾイト」が発育しています。この成熟オーシストを経口摂取することで、鶏がコクシジウムに感染します。
シゾント形成とメロゾイト
小腸上部で、消化酵素の作用を受けてオーシストからスポロゾイトが飛び出します。スポロゾイトは、腸管腔内を動きながら腸管粘膜に侵入していきます。スポロゾイトは腸管粘膜の組織内で「栄養体」に変化して細胞分裂し、「シゾント」とよばれる細胞の塊をつくります。シゾントの中では「メロゾイト」(写真1)という形態の幼虫が多数発育していて、発育した多数のメロゾイトはシゾントを破って腸管腔内に飛び出していきます。メロゾイトは再び腸管粘膜に侵入してシゾントを作り、また大量のメロゾイトを形成していきます。
鶏コクシジウムは、この過程を2~3回繰り返し、それぞれ第1シゾント期、第2シゾント期、第3シゾント期とよびます。第2または3シゾント期を経たメロゾイトはふたたび腸管腔内を移動し、今度は有性生殖を行うステージに移行します。
鶏コクシジウムは、この過程を2~3回繰り返し、それぞれ第1シゾント期、第2シゾント期、第3シゾント期とよびます。第2または3シゾント期を経たメロゾイトはふたたび腸管腔内を移動し、今度は有性生殖を行うステージに移行します。
写真1 腸管粘膜にみられた多数のメロゾイト(塗抹標本、ギムザ染色)
via 共立製薬㈱社内資料
有性生殖期
メロゾイトは再び腸管粘膜に侵入して、このステージで雄性および雌性生殖母体に分かれます。雄性を「ミクロガメトサイト」、雌性を「マクロガメトサイト」と呼び、腸管粘膜内で細胞分裂します。雄性及び雌性のガメトサイトは、細胞分裂して配偶子「ミクロガメート」「マクロガメート」となり、腸管粘膜内で受精(融合)を行います。受精したガメートを「ザイゴート(接合子)」といい、これが最終的にコクシジウムの卵、オーシストになります。鶏の体内に取り込まれた1つのオーシストが、ステージごとに細胞分裂を繰り返し、何万・何十万というオーシストを再生産するのです。
鶏の口からオーシストが取り込まれてから、体内で増殖し、ふたたびオーシストの形で体外に出てくるまでの期間を「プレパテントピリオド」とよびます。プレパテントピリオドは、コクシジウムの種類によって様々です。プレパテントピリオドが短いコクシジウムほど、増殖サイクルが早い種であるといえます。
鶏の口からオーシストが取り込まれてから、体内で増殖し、ふたたびオーシストの形で体外に出てくるまでの期間を「プレパテントピリオド」とよびます。プレパテントピリオドは、コクシジウムの種類によって様々です。プレパテントピリオドが短いコクシジウムほど、増殖サイクルが早い種であるといえます。
鶏コクシジウムの病態について
コクシジウムが症状を起こしたり、また明らかな症状を起こさなくても生産性を低下させたりするのは一体なぜでしょうか?生活環の中では、腸管粘膜の中に入って細胞分裂し、また腸管腔内に出てくる、ということが繰り返し起こっていることがわかります。この過程で、腸管粘膜を傷つけていることが原因です。
生活環で「シゾント」という言葉が出てきました。シゾント期のうち、2回目の「第2シゾント期」が最も病原性に関わっていると言われています²⁾。それは、この第2シゾントが最もサイズが大きく、腸管粘膜の深部に形成されるためです。このシゾントの大きさや位置は、種によって異なることがわかっています。シゾントが崩壊してメロゾイトが飛び出すとき、粘膜組織や粘膜の下にある血管を傷つけます。そのため、シゾントの大きさが大きければ大きいほど、位置が深ければ深いほど腸管組織のダメージが大きく、症状も重くなります。特に、アイメリア・テネラやアイメリア・ネカトリックスは、粘膜組織や血管の損傷が強いため、激しい出血性の下痢を起こします。また、症状がなくても、傷付いた腸管粘膜は栄養を吸収する能力が低下します。そのため、増体重や飼料要求率といった生産性に悪影響を及ぼすのです。
さらに、コクシジウムによる腸管のダメージが、腸内細菌叢のバランスに悪影響を及ぼしていることがさまざまな研究でわかってきました³⁾⁴⁾⁵⁾。コクシジウムによって傷ついた粘膜表面からはムチンとよばれる粘液が分泌されます。このムチンや、出血による血液、壊れた粘膜細胞の破片などの存在が、出血性腸炎の原因となるクロストリジウム・パーフリンジェンスなどの悪玉菌が増殖しやすい環境を作り出します。最近では、腸内細菌叢が免疫をはじめとしたさまざまな身体機能に影響することが報告されていることから、コクシジウムによる腸内細菌叢の乱れが、それらの機能に影響しているかもしれません。
ちなみに、鶏コクシジウム感染症生ワクチンでも、コクシジウムのワクチン株が鶏の体内で同様の感染・発育のサイクルを繰り返しています。ただし、ワクチンに含まれる弱毒株では、特に第2シゾント期における腸管粘膜の損傷が弱くなっていることがわかっています。韓国のブロイラー農場における大規模な調査報告では、鶏コクシジウム感染症生ワクチンの接種が腸内細菌叢における病原性細菌の数に影響を与えないことが示唆されています⁶⁾。
おわりに
今回は、鶏コクシジウムの生活環と、その生活環の中でどのように鶏に病原性を示すかについて、詳しく説明してきました。鶏コクシジウム感染症についてより理解を深めていただき、コクシジウムの対策について、さらに意識を高めていただければ幸いです。
【参考文献】
¹⁾ Lopez-Osorio et.al. Overview of Poultry Eimeria Life Cycle and Host-Parasite Interactions. Front Vet. Sci. (2020)
²⁾ 鶏コクシジウムEimeria tenellaの病態を発現する発育ステージの同定と単離方法の確立. 農研機構(https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/niah/2012/170a2_02_05.html)
³⁾Macdonald et.al. Effects of Eimeria tenella infection on chicken caecal microbiome diversity, exploring variation associated with severity of pathology. PLoS One (2017)
⁴⁾ Jebessa et.al. Influence of Eimeria maxima coccidia infection on gut microbiome diversity and composition of the jejunum and cecum of indigenous chicken. Front Immunol. (2022)
⁵⁾ Campos et.al. Effects of Eimeria acervulina infection on the luminal and mucosal microbiota of the duodenum and jejunum in broiler chickens. Front Microbiol. (2023)
⁶⁾ Nguyen et.al. Large-Scale Field Trials of an Eimeria Vaccine Induce Positive Effects on the Production Index of Broilers. Vaccines (Basel). (2024)