更なる飛騨牛深化の取り組み ~JAひだインタビュー~ 第2回 ➀ 更なる飛騨牛深化への道のり JAひだ畜産部 桑山部長

更なる飛騨牛深化の取り組み ~JAひだインタビュー~ 第2回 ➀ 更なる飛騨牛深化への道のり JAひだ畜産部 桑山部長

「更なる飛騨牛深化の取り組み」第2回は、飛騨HACCP研究会の発起人でもあり、この取り組みの立役者でもあるJAひだ畜産部の桑山部長にお話を伺いました。
いかにして地域を巻き込んでプロジェクトを始動したかを伺いました。

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畜産ナビ編集部(以下、畜産ナビ):
初めに更なる飛騨牛深化の取り組みを始めたきっかけを教えてください。

JAひだ畜産部 桑山部長(以下、桑山部長):
「飛騨牛」は銘柄となってからまだ30数年しかたっていないので、他の銘柄に比べると比較的新しい銘柄になります。
銘柄として知名度を上げることができた要因のひとつは「一県一銘柄」であるという点です。岐阜県には「飛騨牛」という一つの銘柄しかないので、関係者がみんな同じベクトルに向かって作業分担ができる。これが、他の地域との一番の違いだと思います。
行政・JA・流通団体それぞれが「飛騨牛」という看板のもとそれぞれの役割を担って活動をしています。

岐阜県内ではもともと地域ごとに和牛改良を進めており、それぞれに独自の名称がありました。昭和後期、肉用牛情勢が厳しかった中、産地間競争に打ち勝ち肉用牛の安定生産を進める為、県が中心となって銘柄統一の動きが出ました。そして、県内産の肥育牛を「岐阜牛」とし、銘柄化を図りました。
さらに昭和63年には様々な団体と更に協議を進め「飛騨牛銘柄推進協議会」が発足、今の「飛騨牛」が誕生しました。
そこから現在まで皆さんがそれぞれの持ち場で働いている。そういう銘柄です。

飛騨牛が多くの方に認知されるきっかけとなったのは、岐阜県で開催された平成14年(2002年)の全共(全国和牛能力共進会)です。そこでトップをいただくことができて、そのあたりから徐々に評価されるようになったと思います。

また、その頃から飛騨地域への国内外の観光客の増加もあり、戦略がうまく打てたのではないかと考えています。

以前は飛騨の名産品というと漬物や酒、味噌といったものが主流でした。飛騨牛や高山ラーメンが脚光を浴びるようになったのは、最近です。宿泊関係では飛騨牛メニューを用意することがマストであると旅行関係会社の方から聞いています。飛騨牛の知名度があがったのはそういう方たちのお陰でもありますよね。

畜産ナビ:
深化を目指す中でHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の取り組みをスタートされたということですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

桑山部長:
ブランドとして認知されていく中で、消費者の方から「サシが多いお肉って食べにくいよね」という声をいただく一方、農家の方はサシが多い肉を目指して作っているという実情があって、本当に消費者の目線と同じものを作っているのかな、という疑問が自分の中にありました。このままでは消費者のニーズと乖離していくのではないかと。
それと、飛騨地域の牛、ブランドをもっとしっかり確立しておかなければという思いがありました。

過去にはBSEをはじめ様々な要因がもとで相場が下がってしまって、農家さんが大変な思いをした事がありました。良いものを生産しているのに風評被害で買ってもらえないのです。ですから、「消費者がいる」、「ブランドの前に食品である」という意識をもって飛騨牛に接していく必要があると考えるようになりました。
そんな中で農場HACCPという言葉を耳にして、いろいろ調べていくうちに共立製薬さんとの出会いにたどり着きました。
いろいろお話を伺う中で、飼養衛生管理基準についてはもう一度ちゃんと取り組まなければ、と。

飛騨高山には飛騨牛メインに商売されている業者さんがたくさんいらっしゃって、それを目当てに観光客の方が来て下さる。そういったところにも支えられている飛騨牛ですから、万が一、1戸の農家で口蹄疫が出て、広がってしまうとその資産もつぶれてしまうことになります。
今まで改良を重ねてきた財産が一瞬にして崩れてしまう。一度途絶えてしまった血統を再現することはできないし、飛騨牛を中心にした経済が崩れてしまうと元に戻すことは容易ではありません。

HACCP推進農場については、飼養衛生管理基準を進めていく中でのモチベーションとして「HACCP推進農場の認証を取るために農場の衛生レベルを上げていきましょうね」、ということで始めました。(2022年12月時点:42戸(会員数58戸中)
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畜産ナビ:
JA主導ではじめられた、ということでしょうか。

桑山部長:
そうですね。こちらで提案させていただきました。
飛騨肉肉牛生産協議会の当時の三役の方にお声がけさせていただいて、二人三脚ではじめました。

畜産ナビ:
飼養衛生管理基準に取り組んでいる農場で生産をしている、という付加価値をつけるということですね。

桑山部長:
飛騨牛は県一銘柄ですが、私はJAひだの職員ですから、飛騨で育った飛騨牛を一番高く売りたい、という思いがあります。取材をしていただく機会が増えるにしたがって「飛騨の飛騨牛の特色」や「飛騨地域は他の地域と何が違うから良い牛が育つのですか」といった質問をいただいた際に、「水がきれい」「空気がきれい」といったありきたりなことしかお話だけではなく、飛騨の農家はこういう取り組みの中で「安全な飛騨牛生産」にこだわっているんですよ、ということもしっかり伝えていきたいと思っています。

畜産ナビ:
JAひだ管内で飼養衛生管理基準の取り組みを進めやすかった要因などはありますか?

桑山部長:
JAひだは出荷のほとんどがJA飛騨ミートであるという点が大きいと思います。飛騨牛の輸出に取り組んでいることもあり、その衛生基準の高さは常に農家の皆さんも意識されており、飼養衛生管理基準の推進については話を進めやすかったです。