※2024年8月20日に公開した記事ですが、リライト記事に必要な文言等を追記・修正し、2024年10月3日に再度公開いたしました。
2023年 共立製薬における魚病診断結果
以下に、2023年1月~12月に実施したブリ、カンパチおよびシマアジの診断結果についてご報告いたします。尚、ご依頼ベースでの診断結果ですので、地域、魚種に偏りがあることを留意ください。
2023年に受け入れたブリ、カンパチおよびシマアジの総検体数は35件209検体でした(高知県、徳島県、愛媛県、三重県、和歌山県、熊本県および鹿児島県の7地域からの検体)。診断結果の内訳としては、α溶血性レンサ球菌症が9件で全体の25.7%と昨年に引き続いて発生し(次項で詳細を報告)、ノカルジア症が7件20.0%(2022年は3件)、イリドウイルス病が4件11.4%(2022年は1件)と高水温期に斃死が増加する疾病の診断件数が多くなっている傾向が認められました。また、例年の診断結果と異なる点として、2023年は9月~11月の検査依頼が17件と2021年同時期の8件並びに2022年の9件と比較して倍増しており、夏期の水温上昇や高水温期の長期化により、例年よりも魚病の流行期が長くなったことが依頼数増大の要因として考えられました。
2023年に受け入れたブリ、カンパチおよびシマアジの総検体数は35件209検体でした(高知県、徳島県、愛媛県、三重県、和歌山県、熊本県および鹿児島県の7地域からの検体)。診断結果の内訳としては、α溶血性レンサ球菌症が9件で全体の25.7%と昨年に引き続いて発生し(次項で詳細を報告)、ノカルジア症が7件20.0%(2022年は3件)、イリドウイルス病が4件11.4%(2022年は1件)と高水温期に斃死が増加する疾病の診断件数が多くなっている傾向が認められました。また、例年の診断結果と異なる点として、2023年は9月~11月の検査依頼が17件と2021年同時期の8件並びに2022年の9件と比較して倍増しており、夏期の水温上昇や高水温期の長期化により、例年よりも魚病の流行期が長くなったことが依頼数増大の要因として考えられました。
2023年に分離されたレンサ球菌について(検査状況及び薬剤感受性試験結果)
2023年、当社で実施した検査でα溶血性レンサ球菌症と診断された数は9件24検体となっています(表2)。診断数が2022年の25件67検体と比較して少なくなっていますが、これはII型およびIII型レンサ対策のために、各血清型の判別が可能な抗血清の配布や農林水産省による対策推進の通知等により、自治体・大学・民間による検査体制が強化されたことが、一つの要因ではないかと考えています。なお、分離したレンサ球菌を用いて抗血清による凝集試験を行ったところ、I型レンサ2検体(シマアジのみ)、II型レンサ17検体、III型レンサ5検体(シマアジのみ)が同定されました。
分離・同定したII型・III型レンサの一部を培養し、薬剤感受性ディスク法による薬剤感受性試験を実施した結果を以下に示します。使用した薬剤は、エリスロマイシン(以降、EM)、 リンコマイシン(LCM)、フロルフェニコール(FF)、オキシテトラサイクリン(OTC)およびドキシサイクリン(DOXY)の計5種類 です。
II型レンサの薬剤感受性は表3の通り、11株中5株でEM耐性(カンパチ由来2株、ブリ由来3株)となりましたが、2022年同様、発生地域は限定的でした。III型レンサについては、感受性を調べた1株(シマアジ由来)はEMに感受性がありました。現時点で、全国的にもEM耐性となったIII型レンサの報告はありません。しかし、疾病を抑えるために抗菌剤を適正に使用しなければ、将来、薬剤耐性化のリスクが増加する可能性はあります。
共立製薬では、今後も適切な検査の実施及び薬剤感受性の確認を継続して取り組むことで、引き続き養殖場における疾病発生動向を注視いたします。また、抗菌剤等の治療薬や、I型・II型レンサを予防するピシバックワクチンシリーズの安定供給に努めると共に、既存のワクチン製品では予防ができないIII型レンサを予防するワクチンの早急の開発に努めてまいります。
II型レンサの薬剤感受性は表3の通り、11株中5株でEM耐性(カンパチ由来2株、ブリ由来3株)となりましたが、2022年同様、発生地域は限定的でした。III型レンサについては、感受性を調べた1株(シマアジ由来)はEMに感受性がありました。現時点で、全国的にもEM耐性となったIII型レンサの報告はありません。しかし、疾病を抑えるために抗菌剤を適正に使用しなければ、将来、薬剤耐性化のリスクが増加する可能性はあります。
共立製薬では、今後も適切な検査の実施及び薬剤感受性の確認を継続して取り組むことで、引き続き養殖場における疾病発生動向を注視いたします。また、抗菌剤等の治療薬や、I型・II型レンサを予防するピシバックワクチンシリーズの安定供給に努めると共に、既存のワクチン製品では予防ができないIII型レンサを予防するワクチンの早急の開発に努めてまいります。
高水温期における免疫応答への影響(ブリ)
2023年は各地で高水温が記録されており、NOAA国立環境情報センター(NCEI)によると、2023年が174年間の観測史上、最も暖かい年だったと発表されています。また、2024年4月時点もこの歴史的な気温上昇は継続しており、今後も、世界的な水温の上昇や高水温期の長期化が懸念されています。本件に関連して、以下では古いデータとはなりますが、当社にて2010年にピシバック注3混を用いて実施した高水温期におけるブリの免疫応答への影響に関する調査結果をご紹介いたします。(試験概要は表4および図1の通り)
※ピシバック注3混:当社の製品であるブリ属魚類を対象としたイリドウイルス病・ぶりビブリオ病・α溶血性レンサ球菌症混合不活化ワクチン
試験の結果、免疫後に水温を30℃まで加温した高水温区(ピシバック注3混(30℃))ではI型レンサ感染による生残率は0%となり、明らかに高水温条件がワクチンの有効性に悪影響を及ぼすことが示唆されました(図2)。高水温の条件下では、海水中の溶存酸素が低下する一方で、魚が消費する酸素量(酸素要求量)は増加することから、より魚に対する負荷が掛かっている状態と言えます。そして、このような環境・魚の双方コンディションの変化が、結果としてブリの免疫能に影響を及ぼしているという可能性が考えられます。さらに、夏場に病勢が強まるレンサ球菌は高温条件下で活性が高まることから、感染後の魚体内において免疫を上回る速さで菌が増殖していることも考えられ、特に健康への負担が大きくバランスを崩しやすい状況下においては、これらが相互的にワクチンの有効性低下を引き起こしたと推測しています。
先月の畜産ナビ投稿記事「魚類の養殖の重要管理点 水温編 第2回」にてご紹介させていただいたように、高水温期は無理に魚を太らせることよりも歩留まりを重視し、適切にワクチンを接種できたと安心するのではなく、飼育密度を低く、網を深く、給餌をほどほどにする等ご対応いただければと存じます。
こぼれ話
私は学生時代に獣医学を専攻してきましたが、牛の健康管理を考える上で、ストレスだけでなく、飼料も重要なファクターであるということを学びました。例えば、牛で下痢などの不調が続いていたところ、餌の内容を見直すことで血中のタンパク質濃度が正常に戻り、症状が改善したという話もあります(低タンパク質からより適切なタンパク質量の餌に切り替えて改善した事例)。このような事例は、もしかすると魚でもある?と思うと、病気の対策として、医薬品だけでなく「医*・食・住」すべての点から対策が重要なのかもしれません。
*医:魚に衣は必要ないので、ここでは、魚病や医薬品に対する適切な知識・使用、診断体制などの観点から医療としました。
食:餌の質、量、タイミング。
住:水質や水温、飼育密度、ハンドリングなどの外部環境。
*医:魚に衣は必要ないので、ここでは、魚病や医薬品に対する適切な知識・使用、診断体制などの観点から医療としました。
食:餌の質、量、タイミング。
住:水質や水温、飼育密度、ハンドリングなどの外部環境。