魚病検査と魚病分野への貢献活動のご紹介

当社では、魚病対策の一環として、現場の営業担当者を通し、養殖業者様から魚病検査の依頼を受け付けています。本稿では、当社の検査概要及び実績などについてご紹介します。また、検査を通して魚病に関する新たな知見を収集し、養殖業者様を中心に情報共有することで魚病分野へ貢献することも目的としています。今回は、その活動の一例についてもご報告いたします。

魚病検査の概要

当社では、剖検、細菌学的、遺伝子学的及び組織学的検査手法を用いて、養殖現場で問題となっている養殖魚の死亡や不調の原因を特定しています。細菌学的検査では、分離された細菌について抗菌性物質の薬剤感受性試験も実施しており、養殖業者様が適切な薬剤を選択するためのサポートを行い、魚病被害の軽減や耐性菌対策に貢献しています。更に、原因不明の死亡が続いているなど、養殖現場での判断が難しい症例についても、病理組織学的検査を含む幅広い検査内容に対応することで、原因究明並びに早期発見の一助となることを期待しています。

当社の魚病検査では、顧客の皆様へ迅速に検査結果をご報告するだけでなく、より確実な検査結果をお届けすることを大切にしています。例えば、分離された細菌に複数種類の菌が混在していることが疑われた場合は、複数の分離菌を単離し、それぞれ菌種を同定した上で、既報の文献やその他の検査結果も踏まえて、死因と関連する菌を特定するなど、より慎重に原因の究明に努めています。


★お役に立てるケース(例)
・細菌性疾病(菌種及び血清型の同定まで対応可能)、ウイルス性疾病、寄生虫症などの詳細な検査をしたい
・病魚から分離される病原菌に対する水産用抗菌剤の感受性を確認したい
・他の検査機関では原因が不明であり、セカンドオピニオンを受けたい
・剖検所見や菌分離だけでは判断が難しい疾病の早期発見

検査実績のある疾病・魚種(代表例)

これまで、当社では様々な魚類の疾病に対して検査を実施してきました(表1)。

表1 検査実績のある疾病(代表例)

○検査実績のある魚種(代表例)
ブリ、カンパチ、シマアジ、マサバ、マダイ、ヒラメ、トラフグ、クロマグロ、ハタ類、ウナギ、カワハギ、アユ、サケ・マス類など

各検査の概要

当社営業から得られた死亡数や臨床症状を含む養殖現場での状況や解剖時の外観・内部所見(図1)から、疑われる疾病に対し下記の検査を基本として実施しています。検査においては高精度の検出機器も使用しますが、最終的な死因の特定には養殖現場での被害状況・剖検所見・同定された病原体など、諸結果を元に総合的に判断しています。

図1 剖検時の写真(ブリ)

○細菌検査(菌分離/凝集試験/薬剤感受性試験/PCR法/シーケンス解析)
凝集試験
分離された菌(コロニー)を、特定の病原体に対する抗血清に懸濁し、凝集の有無を評価します。凝集試験の結果、特異的な凝集が認められた場合を陽性と判定します。

薬剤感受性試験
承認されている水産用抗菌剤*に対する薬剤感受性試験を実施します。
*農林水産省のホームページ「水産用医薬品について」を参照
 https://www.maff.go.jp/j/syouan/suisan/suisan_yobo/fishmed.html

PCR法
凝集試験に使用する抗血清の中には、近縁種も含めて反応するケース(エドワジエラ症、パラコロ病など)や、自家凝集性を有する菌種では凝集試験での判別が困難なケース(ストレプトコッカス・ディスガラクチエ)があります。その場合は、PCR法を用いて疾病の原因となる菌種の遺伝子を検出することで同定します。

シーケンス解析
分離菌について、凝集試験やPCR法で菌が同定できない場合、シーケンス解析を実施し、分離菌のDNA塩基配列を決定することで菌種を同定することが可能です。

○ウイルス検査(遺伝子検査)
PCR法あるいはリアルタイムPCR法(図2)を用いて、対象となるウイルスの遺伝子を検出します。

図2 リアルタイムPCR法の結果例

○寄生虫検査
体表や臓器のスタンプ標本、鰓のウェットマウント標本を顕微鏡で観察し、寄生虫の虫体や虫卵、胞子を確認します(図3)。また、観察が困難な寄生虫の場合、PCR法あるいはリアルタイムPCR法を用いて、対象となる寄生虫の遺伝子を検出します。

図3 トラフグの鰓に観察されたトリコジナ(顕微鏡観察)

○病理組織学的検査
検体の臓器をホルマリンで固定し、一般染色としてヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った後、組織を顕微鏡で検査します。観察された病変の特徴や程度から、発症に関与している原因を考えます(図4)。必要に応じて、特殊染色や免疫組織化学染色も実施しています。

検査結果のご提示及び魚病研究分野への還元

検査終了後は、検査報告書を作成し、ご依頼者様へご提供しています。検査報告書では、発生した時期や魚体サイズ、疑われる疾病名、薬剤感受性などの情報をまとめています。

また、魚病検査を通して得られた新しい知見については、畜産ナビや学術発表などを通じて、生産者様や魚病研究分野へ広く還元する活動も行っています。今後も、検査を通じて得られた情報は、積極的に外部へ発信し、魚病対策に貢献して参ります。

★活動例
【当サイト畜産ナビ掲載】
共立製薬における2022年魚病診断結果について[前編]~α溶血性レンサ球菌症を中心に~
共立製薬における2022年魚病診断結果について[後編]~α溶血性レンサ球菌症を中心に~
共立製薬における2023年魚病診断結果(α溶血性レンサ球菌症)と高水温がもたらす魚の
免疫応答への影響について



【学会発表(新しい症例の紹介)】
 「国内養殖ブリにおけるX細胞様寄生虫感染の初症例」
  (池淵ら、令和7年度 日本魚病学会 春季大会 ポスター発表))

最後に

当社では、健やかな養殖活動をサポートするべく、できる限り迅速且つ正確な検査結果のご提供や魚病に関する知見を積極的に発信し、生産現場の方々と共に国内における魚病防疫体制の一層の強化を目指して参ります。


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