飼養衛生管理基準はなぜできた?成り立ちと伝染病予防のポイントを解説

飼養衛生管理基準はなぜできた?成り立ちと伝染病予防のポイントを解説

家畜の衛生管理に努めることは、畜産農場にとって最も重要な責務。そして、あらゆる家畜の所有者が遵守すべき事項として定められたものが「飼養衛生管理基準」です。
この記事では、飼養衛生管理基準が制定された背景や、家畜の衛生管理に取り組むことで実現できることについて解説します。

飼養衛生管理基準とは?

飼養衛生管理基準は、家畜の健康と家畜・畜産物を食品としての安全性の確保を目的として、2004年(平成16年)の9月に制定、同年12月に施行されました。


家畜における伝染性疾病の「発生の予防」「まん延の防止」を目的として1951年(昭和26年)に制定された家畜伝染病予防法の内容に基づき、家畜の所有者が尊守すべき内容が具体的な基準として示されています。

飼養衛生管理基準が制定された背景

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飼養衛生管理基準が制定されるきっかけとなったのが、2001年(平成13年)に国内で初めて感染が確認された牛海綿状脳症(BSE)の発生です。そのほか、これまでに口蹄疫、鳥インフルエンザや豚熱(CSF)など、さまざまな家畜伝染病により日本の畜産は甚大な被害を受け、国民の食の安全が脅かされてきました。

こうした食の不安を解消すべく、2003年(平成15年)に食品安全基本法が制定されました。農林水産物の生産者や加工業者など、生産から販売にいたる食品供給行程に関わる責任者に対して、食品の安全性を確保するために必要な措置を行う義務と責任が定められました。

これに伴い、2004年に家畜伝染病予防法も改正。同時に、家畜の所有者が食品の生産者として尊守すべき基準として、飼養衛生管理基準が定められたのです。

家畜伝染病予防法が制定された1951年(昭和26年)から飼養衛生管理基準が定められた2004年(平成16年)までの約50年間は、家畜伝染病の定義や、家畜の所有者が取り組むべき対策の概要は文書化されていたものの、具体策としては落とし込まれていないという状態でした。

飼養衛生管理基準が制定されたことで、畜産農場がどのような点を注意し、どのような対策を講じるべきなのかが明確化されました。

飼養衛生管理基準の改正による項目数の変化

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飼養衛生管理基準は、国内で家畜伝染病が発生したり、近隣諸国での発生により脅威が迫ったりしたときに内容が見直されてきました。大幅に改正されたのは3回。そのたびに基準が蓄種ごとに設けられたり、基準の項目数が追加されたりしてきました。

家畜の伝染病を予防するためのポイント

家畜の伝染病を予防するためには、ポイントを押さえることが大切です。主に以下の3点に注目し、飼養衛生管理基準にもとづいて詳細な対策を行いましょう。3つを心がけ、必要な措置を講じることが伝染病の予防につながります。

①病原体を持ち込まない

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1つめのポイントは病原体を「持ち込まない」ということです。

病原体はさまざまなところに潜んでいます。例えば豚熱や鳥インフルエンザの場合、感染した野生動物が感染源となって、糞などの排泄物から病原体が拡大していきます。その汚染物質に接触した野生動物が農場に侵入することで、病原体が持ち込まれてしまいます。ですから防護柵や防鳥ネットにより野生動物の侵入を防ぐことが重要になります。そのほか、畜舎や器具などが清潔に保たれていないと、ウイルスが残存して感染源となってしまうこともあります。また人や車両から農場内に病原体が持ち込まれる可能性もあります。他の農場や畜産施設などから病原体を持ち込まないよう、衛生管理区域内に入るときは十分な消毒や着替えを行うことが大切です。

また、周辺地域で伝染病が発生してしまった場合、自社の農場を守るためには、積極的な情報収集が重要です。インターネットを活用し、国や自治体が発信する情報をパソコンやスマートフォンで日頃からチェックしておくとよいでしょう。

②病原体を広げない

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2つめのポイントは病原体を「広げない」ということです。

自分の農場で伝染病と疑われる家畜の特定症状を発見した場合、早急に家畜保健衛生所に報告する義務があります。「うちに限って伝染病が発生することはないだろう」と甘く考えて出荷してしまうと、消費者にまで被害が及ぶ最悪の事態にもなり兼ねません。

日頃から感染拡大対策に取り組むのはもちろんのこと、万が一のときはすぐに家畜保健衛生所に報告をし、出荷の取りやめや伝染病が疑われる家畜の隔離、とう汰など、適切に対処することが大切です。また、人や車両の出入り規制や消毒、害虫などの侵入防止や駆除も徹底しましょう。

③病原体を持ち出さない

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3つめのポイントは病原体を「持ち出さない」ということです。

他の農場や畜産施設には、自分の農場と同じように「病原体が繁殖しているかもしれない」というリスクが常にあります。それを踏まえ、他の農場や畜産施設に立ち入った際は人や車両の消毒を徹底し、防疫対策を行わなければなりません。「自分の農場ではないから……」と、対策を他人任せにするのではなく、消毒薬や着替えを車両に常備しておくなど、自己責任として衛生管理に取り組む姿勢が大切です。

家畜の衛生管理が生産性の向上につながる

飼養衛生管理基準に基づいて衛生管理に取り組むことで、防疫を強化して家畜の健康と食の安全の確保を実現できます。それと同時に、飼養衛生管理基準を意識することにより、衛生管理区域内の設備や作業動線を改善するなど、業務を改善するよい機会にもなるでしょう。

畜舎を清潔に保ち、家畜のストレスケアなどにも気を配ることで、家畜の病気や死亡が減り、結果として家畜農場の生産性向上にもつながります。飼養衛生管理基準を「国から課せられた責務」と受け身の姿勢で捉えるのではなく、よりよい畜産の環境を目指してぜひ積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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