続・抗菌薬ってどんな薬? 薬剤耐性について[後編]

続・抗菌薬ってどんな薬? 薬剤耐性について[後編]

薬剤耐性について、中編では畜産分野における薬剤耐性の問題を整理し、これまでの国内におけるアクションプランについてご紹介しました。その進捗はというと、まだ目標には達しておらず、今まで以上の慎重な抗菌薬の使用が求められています。では具体的にはどのような点に注意して抗菌薬を使うべきか?あるいは使うべきではないか?
後編では薬剤耐性対策を考慮した抗菌薬の使い方について解説します。


抗菌薬をどのように使う?

抗菌薬を使わない

薬剤耐性を生じさせない究極の方法は抗菌薬の一切の使用をやめることですが、それでは細菌感染症の治療をしないということで、細菌感染症に屈し、その脅威に抵抗することをあきらめることを意味します。この選択肢はあり得ません。

では、どうしたらよいのか?その答えは「適正使用」および「慎重使用」に努めるということになります(表1)。「適正使用」は最低限守らなくてはならないことという位置づけで、「慎重使用」は薬剤耐性問題に対して一歩踏み込んだ責任ある抗菌薬使用と言えます。抗菌薬を使用すべきときのみに使用し、使用量を減らすことは、薬剤耐性菌の選択を抑えることにつながります。中編でもご紹介しましたように「薬剤耐性対策アクションプラン」では使用頻度の高い抗菌薬と人の医療上重要な抗菌薬について使用量の上限目標を設定し、現在進行形で削減に向けた努力が進められています。
適正使用 抗菌剤の用法・用量を遵守し、使用上の注意をよく読んで正しく使用すること
慎重使用 使用すべきかの判断を含めて抗菌剤を必要なときに適正使用することで最大の治療効果を上げ、薬剤耐性菌の出現を最小限に抑えること

表1 抗菌剤の適正使用および慎重使用

抗菌薬を使う上でのポイント

では抗菌薬の使用が必要な状況、つまり、使用することを前提とした場合、どのような点に注意すればよいのでしょうか?

病気の見極め:抗菌薬を使用すべき vs すべきでない

抗菌薬の使用にあたっては、まず正確な診断が重要です。本当に抗菌薬を必要としている症例なのか?つまり、細菌感染症であることを診断し、その上で治療へと進みます。そうすることで、抗菌薬を必要としない症例への使用を抑えることにつながります。

抗菌薬使用の目的:治療 vs 予防

抗菌薬の使用が必要な状況とはいつでしょうか?答えは細菌感染症を発症し、抗菌薬による治療が必要なときです。一方、これから細菌感染症を発症するかもしれない状況での使用(予防的使用)はどうでしょうか?この場合の問題は投与対象が多数になることと、その期間が長くなることに加え、治療を必要としない個体への投与も増加します。

前編にも記載しましたが、薬剤に感受性がある細菌は抗菌薬の作用により減少するため、耐性をもつ細菌が相対的に増加、つまり、選抜されます。抗菌薬の予防的投与においては治療目的の場合と比べ、この選抜の機会が増加します。したがって、薬剤耐性菌の出現を抑えるためには予防的な使用は控え、治療的使用を心がけることが大切です。

抗菌薬使用の対象:個体診療 vs 群治療

抗菌薬使用の投与対象に関して畜種によって考え方を変える必要があります。牛では病気の個体だけを診療することが一般的ですが、豚や鶏、魚では群に対して治療を行うことが多いのが現状です。どちらが薬剤耐性を生じにくいかと言うと当然、個体診療です。群治療では感染症を発症していない個体(そのうち何割かは治療しなくても発症しない)に対しても抗菌薬が投与されることになります。つまり、必要のない個体へも投与することになります。

とはいうものの、畜種によっては個体診療の実践は現実的ではないことも確かです。そのような中、豚においては個体診療を取り入れようという試みが診療現場で実践されつつあり、一つの薬剤耐性対策の取り組みと言えます。

抗菌薬の選択:原因菌が抗菌スペクトルに含まれる抗菌薬 vs ない抗菌薬

答えはお分かりかと思います。原因菌が抗菌スペクトル(効果範囲)に含まれるかを明らかにするためには、まず先にも記した感染症の診断が必要です。その診断に基づき適切な抗菌薬の選択に進みます。

細菌の種類によってはそもそも効果のない抗菌薬があり、そのような薬剤を選択した場合、その病気が治らないばかりでなく、薬剤耐性菌の出現のリスクを高めることになります。加えて、その細菌の薬剤耐性の状況を調べること(薬剤感受性試験)で、抗菌薬選択をより的確にすることが可能となります。

抗菌薬の選択:抗菌スペクトルが狭い vs 広い

原因菌を抗菌スペクトルに含む抗菌薬が複数存在する場合、どれを選んだらよいのでしょうか?治療の初めに使う抗菌薬としては、第1次選択薬の中で抗菌スペクトルが狭いものが望ましいとされています。抗菌スペクトルの広い薬剤は多種類の細菌に作用するため、薬剤耐性菌を生じさせるリスクが高くなります。

抗菌薬の選択:第1次選択薬 vs 第2次選択薬

抗菌薬の投与を開始し、一定期間治療したが改善が認められないケースでは、抗菌薬の変更を検討します。この場合、第2次選択薬を選択すべきでしょうか?第1次選択薬が効かなかったので、もちろんその選択は可能ですが、ここでは最も効果が期待できる薬剤を選択するというのが答えになります。

なお、第2次選択薬は必ずしも抗菌スペクトルが広いわけでも、抗菌作用が強いわけでもありません。薬剤感受性試験の結果から高い効果が期待できる薬剤があれば、第1次選択薬、第2次選択薬に関わらず、それを選択します。

用法について:投与間隔 1日1回 vs 1日2回

畜産動物を対象とした抗菌薬で1日2回の投与を用法としている薬剤はないと思いますが、薬の性質によって投与間隔を短くした方が効果的な薬剤とそうではない薬剤があります。前者は時間依存性の薬剤といい、常に一定レベル以上の薬剤濃度を維持することが効果的とされています。一方後者は濃度依存性薬剤と呼ばれ、一過性に高濃度の薬剤を細菌に作用させることで効果が高まります。これら薬剤の性質に応じた使用方法を選択することは薬剤耐性菌の選択を抑えることにつながります。

なお、時間依存性の代表がβラクタム系薬剤(アンピシリンやアモキシシリン、セファゾリンなど)、濃度依存性の代表がフルオロキノロン系薬剤(エンロフロキサシンやオルビフロキサシン、マルボフロキサシン)です。

用法について:投与経路 注射 vs 経口

投与経路についても注意が必要です。特に経口投与には次の点に注意が必要です。

① 消化管粘膜から吸収されない成分
② 胃酸や消化酵素の影響により、成分が失活
③ 反芻獣におけるルーメンでの影響により、成分が失活
④ 飼料添加の場合、感染症に伴う食欲の低下により、投薬量の低下

表2 経口投与の注意すべきポイント

これらの影響は抗菌薬の種類によっても異なりますが、少なからず影響を受けると考えられます。

なお、①については逆に、消化管内だけに定着(感染)して病気を起こす細菌にはより高い効果が期待される一方、薬剤を必要としていない体内の臓器には分布しないという利点があります。

用法について:経口投与 飲水 vs 飼料添加

経口投与の注意すべきポイントの④、食欲低下の問題については、飲水投与によりある程度解決することができます。確かに感染症により食欲の低下が認められることがありますが、飲水量は健康動物と同程度に維持されることが多いです。つまり、必要量の薬剤を投与する上で飲水投与の方がより確実といえます。

用法について:投与期間 長期間 vs 短期間

抗菌薬をむやみに長期間投与すると、その使用量は多くなり、薬剤耐性菌の選択を強めることになりますが、短すぎるのも考え物です。抗菌薬投与を開始し、症状の改善がみられたからといってすぐに投与を中止してしまうと、まだ病原菌が完全に排除されておらず、病気が再燃してしまうことがあります。特に静菌作用(抗菌薬ってどんな薬?前編参照)を有する抗菌薬では、薬剤の作用で静菌状態(増殖が抑えられている)になっているだけです。そのような状況で投与を中止すると、薬剤濃度の低下に伴い再び菌の増殖が開始され、疾病が再発することがあります。

このような状況での再治療は抗菌薬の総投与量を増大し、投与期間も延長するため、薬剤耐性菌の選択という観点からも好ましい状況とは言えません。したがって、症状が良くなったからといってすぐに投薬を中止するのではなく、決められた期間(獣医師の処方した期間)、しっかりと投薬を継続することが大切です。

おわりに

後編では薬剤耐性菌を生じさせにくい抗菌薬の使用方法について整理してみました。見方を変えると、それらの方法の多くは、抗菌薬の効果的な使用方法とほぼ一致することが分かります。理由は効果のない使用方法は無駄に薬剤耐性菌を選択する以外の何物でもないということで、薬剤耐性菌のリスクとなるためです。

抗菌薬の「慎重使用」は「抗菌薬を必要なときに適正使⽤することで最⼤の治療効果を上げ、薬剤耐性菌の出現を最⼩限に抑えること」です。つまり、抗菌薬の恩恵を最大にすることと薬剤耐性菌の発生を最小にすることとは、必ずしも相反する事柄ではなく、共存可能な目標とみることができます。

これからも抗菌薬を使用し、その恩恵にあずかり続けるためにも、慎重な抗菌薬使用を推進していくことが求められています。

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