畜産生産者が知っておくべき15の法律

畜産農場は、家畜の健康はもちろん、消費者の食の安全を意識し、衛生管理に取り組まなくてはなりません。

国も畜産を取り巻く環境の変化や新たな伝染病の脅威に対応すべく、家畜・畜産物に関する各種法令の見直しを行っています。

最近では、豚熱(CSF、旧豚コレラ)が国内で発生し、野生いのししへの浸潤も確認され、更なるまん延が危惧される状況から、令和2年6月30日に家畜伝染病予防法で規定されている飼養衛生管理基準が公布され、豚が7月1日、その他畜種が10月1日に施行されました。
生産者は家畜の衛生管理を的確に行うため、関連する法令とその内容について理解しておくことが大切です。せっかく衛生管理に力を入れていても、法令の内容を知っておかないと思わぬところで不備があったり、コンプライアンス違反となってしまうことも…。

この記事では、「伝染病の防止」「食の安全性の確保」「環境汚染への配慮」などの観点から、畜産農場が知っておくべき15の法律について解説します。

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家畜伝染病予防法

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「家畜伝染病予防法」は、家畜の伝染性疾病の発生の予防やまん延を防止することにより畜産の振興を図ることを目的として昭和26年に制定された法律で、家伝法(かでんほう)という略称でも呼ばれています。

本法では、口蹄疫、豚熱、高病原性鳥インフルエンザ、ヨーネ病など、家畜防疫上、特に重要な28種を「家畜伝染病(法定伝染病)」として、牛ウイルス性下痢症や牛伝染性リンパ腫(牛白血病)、特定のサルモネラ症などの71種を「届出伝染病」として指定し、家畜の伝染性疾病の発生を予防するための措置や家畜伝染病発生時にまん延を防ぐための措置(殺処分や移動制限)、動物の輸出入による監視伝染病等の国内への侵入や国外への伝播を防止するための措置などを定めています。

特に、冒頭で触れた飼養衛生管理基準は、本法の第12条3項に規定されており、家畜の所有者が遵守すべき家畜の衛生管理方法について具体的に示されています。
今回改正された飼養衛生管理基準では、家畜伝染病の発生を予防するために、飼養衛生管理区域ごとに飼養衛生管理者を選任し、情報収集や知識習得をするとともに、病原菌を「持ち込まない」「広げない」「持ち出さない」ための策を講じ、区域内の衛生状態の向上に取り組む必要があります。

飼養衛生管理基準の遵守状況については地域の家畜保健衛生所が確認し、改善が必要な場合には適宜指導されることとなりますが、度重なる指導や勧告にもかかわらずこの基準を遵守せず、伝染病を発生させてしまった場合には、国から支払われる手当金の一部が受けられないこともあります。

なお、伝染病のなかでも、口蹄疫、牛海綿状脳症(BSE)、高病原性鳥インフルエンザおよび低病原性鳥インフルエンザ、豚熱(CSF)、アフリカ豚熱(ASF)などについては、国や地方公共団体、関係機関などが連携して発生やまん延防止の措置を講ずるための特定家畜伝染病防疫指針を公表しているので、そちらもあわせて確認しておきましょう。

口蹄疫対策特別措置法

「口蹄疫対策特別措置法」は、口蹄疫のまん延を防止し、対処するために、国の費用負担や生産者の経営や生活の再建支援といった特別措置について定められた法律で、2010年に日本(宮崎県)で発生、流行した口蹄疫に起因する事態に対処するため制定されました。

本法は、口蹄疫が発生した場合のすべてにおいて適用されるものではなく、農林水産大臣が都道府県知事の要請に基づいて指定する地域で適用されます。
例えば、地域内を通行する一般車両に対して消毒を義務付けること、まん延防止のためにやむを得ない必要があるときに患畜・疑似患畜以外の家畜について予防的殺処分を命じること、所有者が死体の焼・埋却が困難な場合に国や都道府県が土地の確保や必要な人的協力を行うなどの支援措置を規定しています。
この他、生産者、関連事業者などの経営の安定や生活の安定を図るため、必要な資金の無利子貸し付けや施設整備等の費用助成なども規定されています。

牛海綿状脳症対策特別措置法(BSE特措法)

「BSE対策特別措置法」は2002年に施行された法律です。2001年に国内で発生した BSE(伝達性海綿状脳症)の防疫対応について、家畜伝染病予防法では対応しきれない発生予防のための措置や死亡した牛の届出・検査と畜場におけるBSE検査など、安全な牛肉の安定的供給体制を確立し、牛肉の生産、流通、販売事業者の健全な発展を図ることを目的として制定されました。

BSEは1986年にイギリスで初めて確認され、2000年初頭までにイギリスでの発生が19万頭におよび、さらにヒトへの伝播を疑う事例が発生したことから大きな社会問題に発展しました。
日本では2001年に初めて確認され、と畜場の検査で22頭、死亡牛の検査で14頭(計36頭)が確認されましたが、2009年を最後に発生はありません。

現在は、飼料規制(牛肉骨粉等の輸入や飼料利用の禁止、交差汚染の防止など)や死亡牛の検査、と畜場での特定危険部位の除去などを実施し、「無視できるBSEリスク」の国として世界的に認知されています。

BSE対策特別措置法は主に国や都道府県が主体となる法律ですが、一部牛の所有者が主体となる条項もあります。
例えば、BSE検査に該当する牛が死亡した場合、所有者か死体を検案した獣医師は、すみやかに都道府県知事に届け出なければなりません。また、所有者は牛一頭ごとに個体を識別するための耳標を着け、「生年月日」や「移動履歴」といった個体の情報を記録し、国や都道府県から依頼があった場合はその情報を提供しなければなりません。

牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(牛トレーサビリティ法)

「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」は「牛トレーサビリティ法」と呼ばれ、前述した「BSE対策特別措置法」にも関連してBSEのまん延防止における措置の基礎とするとともに、牛肉に係る当該個体の識別情報の提供を促進することにより、畜産およびその関連産業の発展と消費者の利益の増進を図ることを目的に2003年に制定された法律です。

本法により、牛の管理者は、出生後に割り振られた個体識別番号を表示した耳標を牛の両耳に装着して個体を管理し、牛を譲り受けたときや譲り渡したときは転入や転出の届出を、死亡した時は死亡の届出をパソコンや電話(音声応答システム)といった「届出(報告)システム」で行うこととされています。
牛を飼育されている所有者の皆さんは、「管理者」として、食の安全を確保するために、と畜者や卸売業者、小売店などとともにこの法律を遵守する必要があります。

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法、旧薬事法)

2014年に施行された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」は、医薬品などの品質や有効性、安全性の確保や、使用による保健衛生上の危害の発生および拡大の防止を目的とする法律です。1943年に施行された「薬事法」が71年の時を経て法律の名称も新たに大きく改正されました。

医薬品や医薬機器等に関する幅広い事柄が定められていますが、そのなかでも家畜の所有者は主に以下の3点を注意する必要があります。

・動物用医薬品及び動物用再生医療等製品の無許可での製造又は輸入の禁止
・未承認医薬品等の食用動物への使用禁止
・残留するおそれのある医薬品等の使用に係る規制

飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(飼料安全法)

「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」は通称「飼料安全法」と呼ばれ、1953年に制定された「飼料の品質改善に関する法律」 が1975年に改正された法律です。

飼料に添加される抗菌性物質が畜産物に残留することや、農薬・かび毒・重金属といった有害物質や病原微生物などが飼料を汚染することのないように、畜産食品の生産資材である飼料や飼料添加物についての安全性を確保することを目的に飼料製造業者等の届出や原料の表示、成分規格や製造方法などについて定められています

主に飼料製造業者が遵守すべき法律に思えますが、飼料の使用方法や保存方法においても基準が設けられています。同時に家畜の生産者が自給する牧草などの飼料作物も、加工を施したり流通する場合は同法による規制の対象となるため、生産者側も内容を理解しておく必要があります。

また、農林水産省ホームページ:飼料の安全関係に、農林水産省の取組 として「飼料の適正使用について(畜産農家の皆様へ)」と題するガイドブックが掲載されていますので、参考にしてください。

食品衛生法

食品衛生法は、日本において飲食により生ずる危害の発生を防止することを目的として1947年に施行された法律。食品添加物の定義や新開発食品の販売禁止について定められており、食品の安全性を確保するうえで大原則となる法律です。

家畜の所有者が特に注意すべきこととしては、第2章第10条「病肉等の販売の制限」で、疾病にかかったり、その疑いがあったり、異常があった家畜や、へい死した家畜の肉や臓器、骨などは販売してはならないということが定められています。

乳及び乳製品の成分規格等に関する省令

「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」は、食品衛生法に基づく厚生省令として、乳製品の安全性や品質を担保することを目的として、1951年に制定されました。

「生乳」「牛乳」「特別牛乳」「成分調整牛乳」「クリーム」「バター」「アイス」など、加工乳や乳製品について、製造する際の成分規格や製造基準、容器に包装する際の規格や表示方法などが細かく定められています。

また、本省令の中では、以下の疾病にかかっていたり、その疑いがあったりした場合に搾乳してはならないと定められています。

牛疫、牛肺疫、炭疽、気腫疽、口蹄疫、狂犬病、流行性脳炎、Q熱、出血性敗血症、悪性水腫、レプトスピラ症、ヨーネ病、ピロプラズマ病、アナプラズマ病、トリパノソーマ病、白血病、リステリア症、トキソプラズマ病、サルモネラ症、結核病、ブルセラ病、流行性感冒、痘病、黄疸、放線菌病、胃腸炎、乳房炎、破傷風、敗血症、膿毒症、尿毒症、中毒諸症、腐敗性子宮炎及び熱性諸病

この省令は、6次産業化が注目される昨今、酪農家が自ら加工乳や乳製品を加工、製造に取り組もうとする際に押さえておくべき重要なものです。定められた内容を理解し、それに準ずる必要があります。

※6次産業…畜産業や農業、水産業などの第1次産業が、食品加工(第2次産業)や流通販売(第3次産業)にも業務展開をすること

と畜場法

「と畜場法」は、食用に供する目的で獣畜をと殺し、解体する場所となると畜場に関する条項を定めた法律です。

この法律においてと畜場は、2種類に分けて定義されています。通例として生後一年以上の牛若しくは馬又は一日に十頭を超える獣畜をと殺・解体する場所を「一般と畜場」、そして、「一般と畜場」以外のと畜場を「簡易と畜場」とされています。

と畜場を設置するためには、都道府県知事の許可を受ける必要があります。また、と畜場の管理者は食品衛生を確保するために、と畜場内外の清潔の保持や汚物の処理、ねずみや昆虫の駆除などに取り組まなくてはなりません。

畜産の生産者が食肉の加工や販売を行う際は、と畜場法の内容を理解しておく必要があります。また、前述した食品衛生法とも関連しますが、生産者はと畜場に家畜を出荷する際、伝染病の疑いのない健康状態の良好な個体を持ち込むよう意識することが大切です。

食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律

牛や馬、豚や羊のと畜場における「と畜場法」のように、鶏やあひる、七面鳥などの食鳥を処理するための制度が、1990年に制定された「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」です。

食鳥処理の事業を始めるにあたり、処理場ごとに都道府県知事の許可を受けなければなりません。また、食鳥処理業者は処理場ごとに食鳥処理衛生管理者を決め、食鳥処理衛生管理者は衛生管理の徹底を行う必要があります。

そして、食鳥処理業者は食鳥をと殺しようとする際、伝染病予防の観点で、その食鳥の生体について、都道府県知事が行う検査を受けなければならなりません。

家きんの飼育者は本法の概要を踏まえ、伝染病の疑いのない健康状態の良好な個体を出荷することが大切です。また、1948年(昭和23年)に施行された食品衛生法施行規則、および、1959年(昭和34年)に施行された食品添加物等の規格基準では、鶏の卵を販売する際の、消費期限や賞味期限の表示義務が定められています。この規則と基準は、サルモネラによる食中毒が増加傾向にある昨今において、生産者もその内容を把握しておく必要があるでしょう。

化製場等に関する法律

「化製場等に関する法律」は、獣畜を加工する際の施設の安全性や衛生管理を目的として1948年に制定された法律で、1990年に「へい獣処理場等に関する法律」から改称されました。

同法では、獣畜の肉や皮・骨・臓器などを原料として皮革や油脂・にかわ・肥料・飼料などを製造する施設を「化製場」、死亡した獣畜を解体し、埋却または焼却する施設を「死亡獣畜取扱場」と定義。

それぞれの施設を設置する際、所在地の都道府県知事から許可を受けなければならないことについて定められています。

また、化製場や死亡獣畜取扱場の管理者は、場内外の衛生管理や汚物、臭気の処理、こん虫の発生防止や駆除に取り組む必要があります。畜産の生産者も獣畜を原料として肥料などを製造する場合、本法律の内容を理解しておく必要があります。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律

「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)は、廃棄物の排出抑制と処理の適正化により、生活環境の保全と公衆衛生の向上を図ることを目的とした法律です。

伝染病のまん延を防ぐために1900年に制定された汚物掃除法が元となっており、廃棄物として「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物」が定義されています。

家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(家畜排せつ物法)

家畜を育てるうえで必ず発生するのが、大量の排せつ物。その扱いに関する法律が、1999年に制定された「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(家畜排せつ物法)」です。

家畜の排せつ物は、屋外に野積みをしたり、地面を素堀りして埋めたり、不適切な方法で破棄すると悪臭の発生や水質汚染などの原因となるため適切な処理を求められています。

一方、正しい方法で処理すれば、肥料や土壌改良資材として有効活用が可能。排せつ物を原料に肥料を作って農作物を育て、収穫物を飼料として家畜の飼育に役立てるといった循環型農業が実現できます。

この法律では、家畜排せつ物の管理の最適化について、処理または保管の方法や、管理する施設の構造や設備、排せつ物の年間の発生量の記録など、さまざまな管理基準が定められています。

管理基準に反した管理を行っている場合は、行政指導や処分が行われることもあり、「勧告」「命令」に従わないと罰金を課せられることもあります。

悪臭防止法

「悪臭防止法」は、規制地域内の工場・事業場の事業活動に伴って発生する悪臭について、必要な規制を設けることで生活環境を保全し、国民の健康を保護することを目的として、1971年(昭和46年)に公布された法律です。

本法律では、不快なにおいの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質として政令で指定するものを「特定悪臭物質」と定義。規制する地域や基準、行政措置や特定悪臭物質の測定について定められています。

畜産の生産者もこの法律に基づき、畜舎の臭気の改善に取り組む必要があります。

水質汚濁防止法

「水質汚濁防止法」は、公共用水域の水質汚濁の防止を目的として、1971年(昭和46年)に施行された法律です。

本法は、水質汚濁防止法施行令で指定された「特定施設」を設置している「特定事業場」から、公共用水域への排出、および地下水への浸透を規制するもの。畜産事業者の場合、以下のいずれかに該当する施設が「特定施設」に該当し、規制の対象になります。

● 総面積50平方メートル以上の豚房
● 総面積200平方メートル以上の牛房
● 総面積500平方メートル以上の馬房

特定施設を有する事業者は、法律の内容に基づいて水質の汚濁の防止に取り組む必要があります。

法律が食の安全と畜産生産者の利益を守る

今回ご紹介した通り、畜産の生産者が守るべき法律は多数存在します。
各自が法律を守り、家畜の衛生管理に関する意識を高めることで、「伝染病の発生防止」「食の安全性の確保」「環境汚染への配慮」、さらには「生産者の利益確保」を実現した畜産業界の明るい未来が訪れるのではないでしょうか。
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