畜産分野における外国人雇用について 【第1回】 受入れの現状と制度

畜産分野における外国人雇用について 【第1回】 受入れの現状と制度

近年、農業分野では外国人の受入れが進んでいます。
外国人の受入れは、事前・事後に必要な手続きが多く、法律の定めにより日本人と同等以上の報酬額の設定や社会保険負担が必要であることから、日本人を雇用するよりも多くの事務負担と多額の費用を要します。
多くの農業者が、外国人の受入れは低賃金労働力の導入ではないと強調するのは、そのためです。
しかし、農業分野での雇用確保が年々難しくなるなかで、外国人の受入れに対する関心は高まり、受入数が増えているのが実情です。

全3回におよぶ本記事では、農業分野の受入れにおいて主となる技能実習と特定技能の2つに注目して、両制度の特性と違い、受入れを検討した場合の具体的な進め方を紹介します。
また、受入後と新型コロナウイルス感染拡大等も踏まえた留意点もあわせてご紹介します。

農業分野での受入状況

現在、日本国内で農業に従事している外国人労働者3万8,064人のうち、約9割が「技能実習」を在留資格とする、いわゆる技能実習生です。すでに日本人を含めて農業で雇用される労働者数の1割強を占めており、農業現場において欠かせない存在となっています。
また、19年4月に施行となった「特定技能」は、外国人労働者の受入れを通じた人手不足の解消をねらった仕組みとして、大きな注目を集めています。施行直後こそ雇用実績は限られていましたが、20年9月から12月にかけて人数が約2倍となるなど、今後の増加が見込まれています。
以下では、畜産における受入を念頭において、これら2つの制度概要を詳しくみていきます。
 (1194)

技能実習と特定技能

制度の目的

技能実習と特定技能は、同じく外国人を受け入れる仕組みですが、制度の目的と重視するポイントが大きく異なります。国際貢献を主目的とする技能実習は、実習を通じて外国人に技能等を修得してもらい、帰国にあわせて外国人の母国に技能等が移転されることをねらった仕組みです。
それゆえ、技能等の修得に向けた適切な実習実施が重視されるポイントとなり、適切な実習実施を確保するために様々な要件等が課されており、実習修了時の試験合格という目標も設定されています。
農業者は、これらの要件等を満たし、適切な実習を行う限り、従業員の一員として技能実習生の雇用が認められています。労働力確保のための仕組みではないことを理解することが重要です。一方、特定技能は人手不足の解消を主目的としています。そのため、農業者の労働力ニーズに幅広く対応可能な制度設計がなされ、日本人と同じ業務に従事することが想定されています。

雇用形態と転職

以下の表は、技能実習と特定技能の概要と要件等をまとめたものです。雇用形態について、技能実習は直接雇用が前提です。実習生に対する指揮命令は、すべて実習実施者たる雇用主となります。
また、上記の通り、同じ農業者のもとでの実習が想定されているため、「転職」(在留期間中の実習実施者・雇用主となる農業者の変更)は原則不可となっています。
 (1200)

特定技能では、直接雇用とあわせて、派遣形態での雇用も認められています。すでに多くの派遣事業者が特定技能外国人を雇用し、畜産農家や酪農ヘルパー組織に派遣する事例も出ています。
また、在留期間中の転職が 制度上可能となっており、特定技能外国人は在留期間中に複数の農業者のもとで働くことが可能です 。個々の労働力需要が短期的な耕種農業の農業者は、この点を利点と考えているようです。

在留期間の考え方

在留期間の上限は、技能実習では最長5年、特定技能では「通算5年」となっています。
技能実習の場合、技能修得を目指すうえで、同じ農業者のもとでの継続した実習が望ましいという考え方から、来日から3年目までは同じ農業者による継続的な在留および雇用が原則となります。
一方、特定技能は「通算」という考え方の通り、この範囲内であれば、出入国に制約はありません。農業者あるいは外国人の都合による帰国・入国が可能です。農繁期が短期的な耕種農業の農業者には労働需要が少ない農閑期に母国に帰国してほしいという要望を持つ者が少なくありません。
そうした農業者からは、特定技能のこの内容が高く評価されています。

受入人数の上限

受入人数について、技能実習では常勤職員数に応じた上限を設けています。これは、適切な実習を行うためには、ある程度の体制が必須という考えに基づく要件です。
一方、特定技能では、自ら業務の指示ができる人数を農業者が判断することになります。よって、日本人従業員よりも外国人従業員が多いということもありえます。

従事する可能な畜種と業務内容

技能実習は、外国人の技能等の修得を重視しているため、業務内容等にも条件があります。1つは移行対象職種・作業という考え方であり、ここに含まれる作業に限り、2年目以降の技能実習が認められることになっています。
畜産では養豚・養鶏・酪農の3作業が対象となり、肉用牛・肉用鶏は対象外です。これらの農業者では、1年を超える実習生の受入れができないのが現状です。もう 1つは、必須業務という考え方です。
畜産では、修得する技能として飼養管理が想定されているため、養豚・養鶏・酪農の飼養管理を主な業務(全実習時間の過半)であることが必須となります。対して特定技能では、業務内容に関する制約はありません。
肉用牛や肉用鶏にかかる業務を含めて従事することができ、内容も人手が必要な状況に応じて、他の日本人従業員と同じく従事することができます。

このように技能実習は特定技能よりも気にすべきポイントが多くなっています。しかしながら、飼養管理を主な業務とする継続的な雇用を考える畜産農業者にとっては、技能実習制度の対応について難しいポイントは比較的少ないと考えられます。そのため、多くの畜産農家が技能実習生の受入れからはじめ、後々、特定技能外国人を雇用していこうと考えているようです。この例外が、肉用牛、肉用鶏の農業者です。これらの農業者は、特定技能創設によって、初めて長期的な雇用が可能となるため、特定技能に高い関心を持っているようです。

現在の受入状況と実際の受入事例

最後に畜産での外国人受入状況をみていきます。新型コロナウイルス感染拡大以前の2019年までは 、毎年3千人が畜産分野での技能実習生として来日するための手続きを行っていました。
実際に来日し、実習を開始した人数は、酪農、養豚、養鶏の順に多く、肉用牛、肉用鶏を対象とした実習は非常に限定的でした。酪農に限っては、半数が北海道での実習事例という地域的な特徴がみられますが、養豚、養鶏は全国で広く実習が行われています。全体的には、耕種農業よりも人数は少ない状況です。
また、新型コロナウイルス感染拡大にともなう入国制限により、20年度は例年と比べると実習生の増加幅が縮小しています。次に特定技能外国人数の推移をみると、20年12月時点では畜産分野で555人が業務に従事しています。
制度が施行されて2年目ですが、コロナ禍という事態に直面したこともあり、技能実習生と比べると少ない状況が続いています。とはいえ、20年9月以降、約2倍となっている通り、今後急速に増える可能性があります。
いまだ制度対応が難しいという声もありますが、徐々に解消していくと見込まれます。
 (1210)

以上、制度の特徴と受入状況をみていきました。
まとめると、養豚、養鶏、酪農の農業者では、飼養管理を中心とする実習計画が想定しやすいことから、耕種農業よりも技能実習生の受入れが考えやすいといえます。一方、肉用牛、肉用鶏の農業者が長期的な雇用を考える場合は、特定技能外国人の受入れを検討することが急務といえます。
次回は、実際に受入の手続きの進め方と留意点をみていきます。
<参考文献・参考サイト>
【これまでの受入状況】
佐野良晃(2019)「農林水産業における外国人材の受入れ― 3つの外国人材受入れ制度と課題 ―」『立法と調査』No.417
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2019pdf/20191101043.pdf
堀口健治・坪田邦夫(2020)『ヒラから幹部にまで広がる農業従事の外国人労働力(日本農業研究所講演会記録第8号)』日本農業研究所 http://www.nohken.or.jp/KOUENKAIKIROKU/No.8_2020/kobetsuPDF/2020-1_horiguchikenji.pdf
【技能実習・特定技能の概要】
農林水産省:パンフレット「農業者の皆様へ外国人技能実習制度について~特に押さえておくべきポイントとは~(令和2年6月)」
https://www.maff.go.jp/j/keiei/foreigner/attach/pdf/index-53.pdf
農林水産業:パンフレット「特定技能外国人の受入れが始まりました!~受入れにあたって押さえるべきポイントとは~」
https://www.maff.go.jp/j/keiei/foreigner/attach/pdf/new-27.pdf
【畜産分野における必須業務の詳細】
(養豚)https://www.otit.go.jp/files/user/180904121.pdf
(養鶏)https://www.otit.go.jp/files/user/180904122.pdf
(酪農)https://www.otit.go.jp/files/user/180904123.pdf
【受入優良事例】 https://www.maff.go.jp/j/keiei/foreigner/attach/pdf/index-54.pdf
 (2095)