大腸菌性乳房炎の症状は?
大腸菌性乳房炎の症状の強さはさまざまで、乳汁にすこし凝塊物(いわゆる“ブツ”と呼ばれるもの)が混じる程度で搾りきるだけでそのまま治癒する軽症のものから、発熱・食欲不振・起立不能など強い全身症状を示して死亡や廃用になってしまう重篤なものまであります。同じ大腸菌なのにどうして症状にこのような違いが出てくるのでしょうか。
これまでの研究では、症状の強さの違いは大腸菌のもつ固有の病原性によるものではなく、感染した牛の状態に左右されているのではないかと考えられています。いわゆる個体差とよばれるもので、同じ大腸菌が感染したとしても軽症で済む牛と重症になってしまう牛がいるということになります。今回は死亡や廃用事故につながることの多い、重篤な症状を示す急性大腸菌性乳房炎について説明します。
これまでの研究では、症状の強さの違いは大腸菌のもつ固有の病原性によるものではなく、感染した牛の状態に左右されているのではないかと考えられています。いわゆる個体差とよばれるもので、同じ大腸菌が感染したとしても軽症で済む牛と重症になってしまう牛がいるということになります。今回は死亡や廃用事故につながることの多い、重篤な症状を示す急性大腸菌性乳房炎について説明します。
急性大腸菌性乳房炎の特徴は?
急性大腸菌性乳房炎は他の乳房炎と比べて症状悪化のスピードが早い(甚急性と呼ばれることもあります)ことが特徴的です。そのため、なるべく早い段階で発見し適切な処置をとることが被害を最小限におさえることにつながります。
急速な症状悪化の一つの理由として、大腸菌がもっている(その他グラム陰性桿菌に分類される菌ももっています)エンドトキシンと呼ばれる内毒素の影響が考えられています。
このエンドトキシンは菌が増殖する時に放出されるのですが、菌が壊れたときは桁違いに放出されることがわかっています。抗菌剤の中には菌体を壊す作用をもっているものがありますが、このようなタイプの抗菌剤によって大腸菌を殺菌すると一過性に大量にエンドトキシンが放出され、治療したつもりがかえって症状を悪化させてしまうことがあるので注意が必要です。
急速な症状悪化の一つの理由として、大腸菌がもっている(その他グラム陰性桿菌に分類される菌ももっています)エンドトキシンと呼ばれる内毒素の影響が考えられています。
このエンドトキシンは菌が増殖する時に放出されるのですが、菌が壊れたときは桁違いに放出されることがわかっています。抗菌剤の中には菌体を壊す作用をもっているものがありますが、このようなタイプの抗菌剤によって大腸菌を殺菌すると一過性に大量にエンドトキシンが放出され、治療したつもりがかえって症状を悪化させてしまうことがあるので注意が必要です。
早期発見方法は?
急性大腸菌性乳房炎はエンドトキシンが関与しているため、他の乳房炎とは異なる特徴的な初期症状が観察されることがあります。この特徴は早期診断の重要な情報として利用できます。
具体的には、①発熱や乳房の腫脹・硬結の程度にくらべて第一胃運動の低下や食欲不振の程度が強いこと、②乳房炎分房以外の乳汁pHが上昇すること、などが挙げられます。
乳房炎の診断薬として広く普及しているCMT変法(PLテスト) では、乳汁中の体細胞数を簡易的に調べられる凝集反応だけでなく、色調の観察によってpHもチェックすることができます。通常の乳汁は弱酸性(CMT変法(PLテスト)の色調は黄色)ですが、大腸菌性乳房炎の場合は感染していない分房乳のアルカリ化が進むため緑色になることがあります(写真1-1:CMT変法(PLテスト)前、写真1-2:CMT変法(PLテスト)後。罹患分房(右前)以外の分房(左前、左後)の乳汁pHの上昇が観察される)。
そのほか、大腸菌性乳房炎特有というわけではありませんが、乳汁に含まれる凝塊物の粘性が高く(糸を引くような粘り気のあるブツ)なったり(写真2)、乳汁が水っぽく(強い炎症によって血管透過性が亢進)なることもよく観察されます(写真3)。
具体的には、①発熱や乳房の腫脹・硬結の程度にくらべて第一胃運動の低下や食欲不振の程度が強いこと、②乳房炎分房以外の乳汁pHが上昇すること、などが挙げられます。
乳房炎の診断薬として広く普及しているCMT変法(PLテスト) では、乳汁中の体細胞数を簡易的に調べられる凝集反応だけでなく、色調の観察によってpHもチェックすることができます。通常の乳汁は弱酸性(CMT変法(PLテスト)の色調は黄色)ですが、大腸菌性乳房炎の場合は感染していない分房乳のアルカリ化が進むため緑色になることがあります(写真1-1:CMT変法(PLテスト)前、写真1-2:CMT変法(PLテスト)後。罹患分房(右前)以外の分房(左前、左後)の乳汁pHの上昇が観察される)。
そのほか、大腸菌性乳房炎特有というわけではありませんが、乳汁に含まれる凝塊物の粘性が高く(糸を引くような粘り気のあるブツ)なったり(写真2)、乳汁が水っぽく(強い炎症によって血管透過性が亢進)なることもよく観察されます(写真3)。
応急処置はどうすればよい?
急性大腸菌性乳房炎が疑われた場合は、まず診療獣医師に連絡をしてください。次に獣医師の到着を待つ時間を利用して、手搾りや乳房内洗浄療法などによって分房内の乳汁を十分に排出することを推奨します。乳房炎発症時のこの乳汁の中には大腸菌だけでなくエンドトキシンや炎症を増悪させる生理活性物質などがたくさん含まれています。まずはこれら炎症を引き起こしている物質を少しでも多く体外に排出させることを最優先してください。乳房内洗浄療法は乳房内深部に作られたブツなども積極的に排出させることができるうえに、洗浄に使う液をあらかじめ冷やしておくことで乳房の消炎効果も期待できる推奨される応急処置といえます。
どのようにして予防すればよいか?
「予防に勝る治療なし」といいますが、一度発症してしまった場合の被害が大きい急性大腸菌性乳房炎ではまさに当てはまります。
先ほど、急性大腸菌性乳房炎の重篤度は“牛の状態”によると考えられている、というお話をしました。この“牛の状態”とは免疫状態のことを指していて、具体的には乳房内へ侵入してきた大腸菌に対する初期消火能力がとても重要であることを示しています。そのため、大腸菌性乳房炎の予防は一般的な乳房炎予防法(環境中の原因菌を減らし、乳頭口からの侵入機会を減らす)に加え、牛の免疫状態をいかに良い状態に保てるかがカギになります。牛の免疫力を良い状態に保つ方法としては、飼養管理(BCSを適正に保つ、ビタミン等の栄養素の過不足をなくすなど)やストレスのない環境を整えるといったことだけでなく、乳房炎ワクチン接種による積極的な衛生管理などが挙げられます。
先ほど、急性大腸菌性乳房炎の重篤度は“牛の状態”によると考えられている、というお話をしました。この“牛の状態”とは免疫状態のことを指していて、具体的には乳房内へ侵入してきた大腸菌に対する初期消火能力がとても重要であることを示しています。そのため、大腸菌性乳房炎の予防は一般的な乳房炎予防法(環境中の原因菌を減らし、乳頭口からの侵入機会を減らす)に加え、牛の免疫状態をいかに良い状態に保てるかがカギになります。牛の免疫力を良い状態に保つ方法としては、飼養管理(BCSを適正に保つ、ビタミン等の栄養素の過不足をなくすなど)やストレスのない環境を整えるといったことだけでなく、乳房炎ワクチン接種による積極的な衛生管理などが挙げられます。
おわりに
大腸菌性乳房炎という名称で呼ばれてはいるのですが、実は原因菌は大腸菌だけではありません。
大腸菌と同じグラム陰性桿菌に分類されるクレブシエラ属菌によっても同様の重症の乳房炎が引き起こされることがあります。このクレブシエラ属菌による乳房炎は、発生率の地域差が大きいことや、大腸菌による乳房炎に比べ症状が重篤で予後も良くない傾向などが示されています。
しかし、今回紹介した応急処置方法や予防方法は共通しています。大腸菌性乳房炎対策の基本は“予防”を軸に取り組むのが良いと思います。
大腸菌と同じグラム陰性桿菌に分類されるクレブシエラ属菌によっても同様の重症の乳房炎が引き起こされることがあります。このクレブシエラ属菌による乳房炎は、発生率の地域差が大きいことや、大腸菌による乳房炎に比べ症状が重篤で予後も良くない傾向などが示されています。
しかし、今回紹介した応急処置方法や予防方法は共通しています。大腸菌性乳房炎対策の基本は“予防”を軸に取り組むのが良いと思います。