「やさしい免疫のおはなし」第3回 液性免疫と細胞性免疫

「やさしい免疫のおはなし」第3回 液性免疫と細胞性免疫

前回、動物が生まれながらに持っている自然免疫と、自然免疫に続いて病原体の侵入に個別対応する獲得免疫があることをお話ししました。獲得免疫にはさらに、T細胞や食細胞を中心としてはたらく「細胞性免疫」と、B細胞と抗体がはたらく「液性免疫」の2つがあります。今回は、この2つの免疫システムがどのように病原体を攻撃しているのか、そしてそれらがワクチンにどのように関わってくるのかというお話です。

ヘルパーT細胞とキラーT細胞

前回の自然免疫と獲得免疫のお話で、マクロファージや樹状細胞といった食細胞をご紹介しました。食細胞が提示した抗原の情報を受け取り 、情報を処理して獲得免疫をうながす司令塔がヘルパーT細胞です。ここまで前回でも少しお話ししましたが、T細胞についてもう少し詳しく見てみましょう。
T細胞は、機能によって細かく分類されるためさまざまな種類がありますが、ここでは「ヘルパーT細胞」と「キラーT細胞」を紹介します。ヘルパーT細胞は、直接的には抗原を攻撃するわけではありませんが、 各免疫細胞にシグナルを送って免疫細胞を活性化します。キラーT細胞は、その名の通り細胞を破壊する機能を持ち、細胞性免疫の一翼を担っています。

細胞性免疫

細胞性免疫の主役は、キラーT細胞と、自然免疫でも活躍した樹状細胞やマクロファージなどの食細胞です。細胞性免疫は、主に病原体に感染した細胞を標的とします。
キラーT細胞は、抗原が存在しない、またはヘルパーT細胞からのシグナルがないときは攻撃性を持ちません。しかし、抗原の情報を受け取り、加えてヘルパーT細胞からのシグナルを受け取るとキラーT細胞は、細胞を壊すタンパク質を分泌し、病原体に感染した細胞を破壊していきます。壊れた細胞の残骸や、細胞から追い出された病原体は樹状細胞やマクロファージなどの食細胞が処理していきます(図1)。
図1. 細胞性免疫

図1. 細胞性免疫

液性免疫と抗体

感染部位に直接はたらく細胞性免疫に対し、全身の防御を担っているのが液性免疫といえます。この液性免疫の主役となるのがB細胞です。B細胞と「抗体」を主体とした免疫システムのことを、液性免疫といいます。
抗原のないときのB細胞は抗体を産生しない状態で待機しています。B細胞自身が抗原と接触し、さらにヘルパーT細胞からのシグナルを受けると「形質細胞」(プラズマ細胞)に変化します。形質細胞は、その抗原を攻撃するための専用の飛び道具を作り出します。この飛び道具が、特定の病原体のみが持つ抗原の特定の構造にのみに結合する「抗体」です。抗体は、病原体や毒素に結合して無力化します。このはたらきを「中和作用」とよびます。また、抗原に結合した抗体は、マクロファージなどの食細胞の目印となるので、効率的に食細胞による処理ができるようになるのです(図2)。
図2. 液性免疫

図2. 液性免疫

免疫の記憶とワクチン

無事に病原体を排除して役目を終えたT細胞やB細胞の一部は、メモリーT細胞メモリーB細胞という形で体内にその記憶を残しておき、同じ病原体の侵入(再感染)に備えます。次に同じ病原体が侵入したときは、これらのメモリーT細胞やメモリーB細胞がすばやく反応し、はじめて侵入を受けたときより効率的かつ迅速に病原体の排除に動くことができるようになります。これを二次応答といいます。
ワクチンは、この記憶システムを利用し、自然感染のときに起こる免疫応答のプロセスをあらかじめ身体に「予行演習」させておくことによって、特定の病原体の定着・増殖や症状の軽減を期待する製剤です。次回は、ワクチンについてもう少し詳しくお話ししていきます。
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