高病原性鳥インフルエンザの脅威と過去の手当金・特別手当金の減額事例

高病原性鳥インフルエンザの脅威と過去の手当金・特別手当金の減額事例

現在西日本を中心に猛威を振るっている病原性鳥インフルエンザは、日本では2004年1月に発生して以降、ほぼ毎年のように各府県で散発的に発生が確認されています。
この記事では2020年(令和2年)11月にHPAIが発生した香川県の農場における、疫学調査チームによる現地調査の指摘事項と、過去に発生した手当金・特別手当金の減額事例をご紹介します。

高病原性鳥インフルエンザの概要

インフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3つタイプがあります。このうち鳥インフルエンザはA型のウイルス感染によって起こりますが、病原性の強い高病原性と病原性の比較的弱い低病原性の2つの病型があります。

そのうちで、現在西日本を中心に猛威を振るっている、A型の鳥インフルエンザウイルス感染による高病原性鳥インフルエンザ(以降HPAIと記載)は非常に強い伝染力をもつ死亡率の高い伝染病です。日本では2004年1月に山口県下の採卵養鶏場で発生して以降、ほぼ毎年のように西日本を中心とする各府県で散発的に発生が確認されています。

HPAIの発生が確認された農場の生産者は法省令に基づき各都道府県の家畜保健衛生所へ報告を行うとともに、飼養しているすべての家きんの殺処分を実施しなければなりません。
ひとたびHPAIが発生すると【参考】のとおり周辺地域へのまん延防止のために家きんや鶏卵などの移動制限等や消毒ポイントでの消毒など、発生農場のみならず周囲の農場や地域経済に大きな影響を与えることになります。

【参考】
移動制限
発生農場から半径3㎞圏内から生きた家きん・家きん卵の農場外への移動を制限、防疫措置完了から21日間で新たな発生がない場合は解除
搬出制限
発生農場から3~10㎞の区域から、区域外へ家きん、家きん卵等の搬出を制限、防疫措置完了10日後に行われる清浄性確認検査で陰性の場合は解除

高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)に関する記事はこちらから
被害は想像以上に!日本の畜産の脅威となった4つの伝染病
https://chikusannavi.kyoritsuseiyaku.co.jp/shiyoeisei/39

飼養衛生管理基準改正に伴う、HPAI発生農場での指摘事項について

下記は2020年(令和2年)12月9日開催の「鳥インフルエンザ関係閣僚会議」で使用された資料です。
「飼養衛生管理の不備が農場にウイルスを侵入させる原因」と記載されています。
農林水産省 他「鳥インフルエンザ関係閣僚会議資料(令和...

農林水産省 他「鳥インフルエンザ関係閣僚会議資料(令和2年12月9日)」から一部抜粋

2020年(令和2年)10月より家きんにおける飼養衛生管理基準が改正され、これまで26項目あった管理項目が35項目へ増加しています。

特に新しい飼養衛生管理基準では鶏舎ごとに専用の長靴を設置することと、21番目の項目に明確に記載されていますが、これに不備があったと疫学調査チームに指摘を受けている農場が多いことが分かります。改定前の26項目の時にはここまで徹底した記載はされていなかったため、十分な注意が必要です。いま一度、飼養衛生管理基準の改定項目を確認し、新たに追加された項目の管理を徹底するようにしましょう。

2021年(令和3年)3月19日追記
2020年(令和2年)11月に香川県で発生した高病原性鳥インフルエンザの感染拡大を受け野上浩太郎農林水産大臣は2021年(令和3年)1月23日に開催された鳥インフルエンザ防疫対策本部にて、養鶏農場などが国の衛生管理基準を遵守しない場合、事業者名を公表するよう都道府県に指示する方針を示しました。
この措置は、2021年(令和3年)4月から運用される飼養衛生管理基準指導等指針によるものですが、今回適用されれば施行時期を前倒ししての実施となります。

関連記事はこちら
飼養衛生管理基準遵守のための仕組づくりのポイント
https://chikusannavi.kyoritsuseiyaku.co.jp/shiyoeisei/50

過去の手当金・特別手当金の減額事例

ひとたびHPAIが発生すると、発生農場のみならず周囲の農場へも深刻な影響を及ぼすことになります。
そのため、農場主や飼養衛生管理者は日ごろの衛生管理の徹底と、万が一HPAIが発生してしまった場合は迅速かつ的確に対応しなければなりません。
家畜伝染病予防法ではまん延防止の処置に対する各種手当金・特別手当金について規定されています。平成23年4月に改正された同法により、殺処分する家きんの評価額の5分の4を手当金として、5分の1を特別手当金として交付されることになりました。しかし、飼養衛生管理基準の遵守の不徹底、早期通報の遅延、まん延防止措置の実施不備などを勘案し、両手当金等の一部または全額が不交付となることや、返還をさせることがあります。

家畜伝染病予防法の罰則強化に関する記事はこちらから
伝染病の被害に遭っても手当金がもらえない?
飼養衛生管理基準に従わなかったときの手当金および特別手当金の減額事例を解説

https://chikusannavi.kyoritsuseiyaku.co.jp/shiyoeisei/37

ここからは過去の手当金及び特別手当金が支払われなかった事例をご紹介します。​

CASE 1. 通報の遅れ・食鳥処理場への出荷・野鳥対策の不備(破損)・未消毒河川水の飲用水利用

HPAI発生農場Aでは、飼養鶏の死亡羽数が増加をしていたにもかかわらず、の確認した同日及び翌日に飼養鶏を食鳥処理場へ出荷していました。
また、飼養衛生管理という面においても、未消毒の河川の水を鶏の飲用に供していたこと、防鳥ネットや鶏舎の壁に破損があったことから、管理水準が標準より劣っていると考えられました。
これは、周囲の農場に感染を拡大させるおそれのある非常に重大な事態であると判断されることから、特別手当金が交付されませんでした。

CASE 2. 通報未実施・食鳥処理場への出荷

HPAI発生農場Bでは、飼養鶏の死亡羽数が急激に増加していたにもかかわらず、自ら通報することをせず、翌日鶏群を食鳥処理場へ出荷していました。これは、周囲の農場に感染を拡大させるおそれのある非常に重大な事態であると判断されることから、特別手当金が交付されませんでした。

CASE 3. 野鳥対策の不備(網目大、隙間)・未消毒河川水の飲用水利用

HPAI発生農場Cでは、飼養衛生管理において、車両用の消毒設備を備えていなかったこと、防鳥ネット等の野鳥の鶏舎侵入防止対策が図られていなかったこと、未消毒の河川の水を鶏の飲用水に供していたことから不備があったと判断し、特別手当金が4割減額となりました。

CASE 4.通報の遅れ

HPAI発生農場Dでは、飼養鶏の死亡羽数が増加していることを家畜保健衛生所に通報した前日に、獣医師の検査を受けて高病原性鳥インフルエンザを否定されています。しかしながら、通報の2日前に死亡羽数が大幅に増加しており、この時点で家畜保健衛生所に通報すべきであったと考えられ、このような通報の遅れは、本病のまん延の原因となって継続発生を引き起こしかねない事態であったと判断されたことから、特別手当金が2割減額となりました。

正しい知識の習得と適切・迅速な防疫措置の徹底を

畜産を営む上で伝染病対策は決して避けては通れません。
経営者をはじめ畜産農場従事者や関係者一人一人が高い意識をもって日ごろの防疫対策に取り組むことが大切です。
また、万が一自分の農場からHPAIが発生した場合でも、適切な報告と防疫対策をとることで、各種手当金や特別手当金などの交付を得ることができます。

自治体や周辺農場と連携し防疫措置の徹底に取り組みましょう。
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